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〜閑話〜天才軍師

 魔の六国のひとつ、グルス。

 若き王ナダは怒っていた。

 臣下のひとり、ウシマが反乱を起こしたからだ。

 ナダは大声で叫んだ。


「ダックワースは!!ダックワースはいるか!!」


 部下の魔族が言った。


「……その……ダックワース様から、昨日伝言を預かっておりまして」


「…………」


 部下を睨むナダ。


「『本日の3時までにはウシマの首を持って帰る』とのことです」


「…………そうか」


 ナダは息をついた。


「相変わらず仕事の早い男だな……反乱が始まったのは、たった今だというのに」



◇◇◇



 グルスに反乱をしかけたウシマは、鉄壁の要塞フルキャスに立てこもり、遠まきに取り囲むグルスの軍勢を見下ろしていた。

 絶対絶命の状況に見えるが、ウシマは少しも動じてはいなかった。

 それは、この要塞フルキャスが持つ、強力な魔力砲である【龍醒槌りゅうせいつい】の威力にある。

 この龍醒槌は、その熱と破壊力によって、例え全身がオリハルコンによってできたゴーレムですら、粉々にするか、蒸発させてしまうだろう。

 なので、取り囲む魔族たちの顔が、まるで囲まれているのが自分たちであるかのように追い詰められているのがよくわかる。

 きれいに、龍醒槌の範囲を描くように軍勢が配置されているのが滑稽であった。


「ウシマ様、捕虜を捕らえました」


 ウシマはその声を聞き、部下が引き連れてきた鎖に繋がれた者を見た。


「……驚いたな」


 ウシマは感嘆の声をあげた。


「どうですか?凄いでしょう?」


 鎖に繋がれた男は言った。


「……何がだ?」


「鎖に繋がれているのに、私の溢れだす天才性が少しも損なわれていないことです」


「…………相変わらずだなダックワース」


 ダックワース。ウシマは鎖に繋がれた全身白装束の男をその名で呼んだ。


「ダックワース、何しにきた?」


「決まってるでしょう。あなたが反乱を起こすことを予見していた天才の私が、その反乱をしずめにやってきたのです」


「……はぁ、予見していた…………。じゃあなんでお前は鎖に繋がれているんだ?」


「…………話を変えましょう。ウシマさん。なぜあなたは反乱を起こしたのですか」


「それは、魔王レオンが現れたからだ」


「…………」


「魔王レオンはおそらく、この魔の六国を統一するだろう。そして、魔王レオンは父の魔王レロンに負けず劣らず残忍な性格と聞く。インボイも敵対した者はことごとく殺されたとか。我がグルスも、抵抗をすれば同じ道を歩むだろう」


 ウシマは息をつく。


「だから、私はグルスを救うために策を講じた。すでに魔王レオンに書状を送った。グルスはゾゾリマの属国となる。そうして少しでも犠牲者を抑えようとな」


 ウシマは拳を握る。


「卑怯者と罵られようと構わん。私はグルスを救うために全力をつくす」


「…………やはりそうでしたか。いや、聞かなくても全部わかってたんですよ。なんせ天才なので」


 ダックワースはそう返した。そして続ける。


「ウシマさんの言っていること、なかなかいいセンをいっていると思うのですが、ちょっと訂正したところがあります。魔王レオンのゾゾリマは、六国を統一することはしません。なぜなら……」


 ダックワースの目が妖しく光る。


「……六国を統一するのは、私が軍師を務めるグルスですから」


 あまりに自信満々に言うダックワース。ウシマは、何をその状況で、と一笑にふそうとした。


「ところで、あなたが魔王レオンに送ったという書状ですが……」


 ダックワースは懐を漁る。


「もしかしてコレですか?」


 ダックワースが取り出した紙を見て、ウシマの顔色が変わった。


「……お前、なぜそれを?」


「さて、なぜでしょう」


 ダックワースが妖しく笑ったので、ウシマは苛立った。

 腰の剣を抜く。


「言わねば殺すぞ」


 ダックワースの喉元に刃をつきつける。

 つきつけられたダックワースは笑った。

 なぜならば、ウシマの部下たちの無数の剣が、ウシマにつきつけられていたからだ。


「……どういうことだ?」


「ウシマさん。本当にあなたはいいセンをいっているんですよ。フルキャスを奪って、魔王レオンに書状を送るのは戦略的に大正解です。もし天才の私も、反乱をしようと考えたならその手を使ってました。そして、その手順も見事です。周りに悟られないようにひっそりとあらゆる魔族を説得し、ひっそりと寝返らせました。…………惜しむらくは……、天才の私が、あなたが裏切ることに即座に勘づき、あなたが説得する前に、すでに皆に『裏切ったフリをしろ』と忠告してしまっていたことですね……」


「な…………」


 ウシマは絶句した。

 鎖を外されたダックワースは、剣を握る。

 そしてウシマの首めがけてそれを振りおろした。


「…………何のつもりだ?」


 ウシマは聞いた。

 剣は、首の寸前で止められていた。


「ウシマさん。あなたのようにいいセンいっている人を殺してしまうのはグルスにとって大きな損失です。いくら私が天才といえど、ひとりで六国を統一することは難しいですからねえ」


 ダックワースは剣を捨て、懐から扇を出してあおいだ。



◇◇◇



「ナダ様、約束通り3時にウシマの首を持って参りました。……もっとも首から下もついておりますが、そこはご愛嬌ということで」


 ダックワースは、ナダにさらりと言った。

 横には鎖に繋がれたウシマがいた。


「ウシマよ。今回のことはわがグルスを思ってのことだと聞いている。犠牲者もひとりもでなかった。大目に見てやることにする。禁固一ヶ月だ」


「はっ」


 寛大な処置に、ウシマは頭を下げた。

 ウシマがいなくなってから、ナダはダックワースに言った。


「やはりウシマの反乱は魔王レオンがきっかけか。厄介なことになってきたのう」


「ナダ様。過去の偉人はこのような言葉を残しております『逆境こそがチャンスだぜ』と」


「はあ?」


「魔王レオンが生まれた瞬間に、天才の私はその脅威にすでに気がついておりました。そして天才の私はすでに、布石をいくつか打っております」


「……ほう」


「魔王レオンの登場により、魔の六国のバランスは崩れました。が、逆に言えばこの崩れたバランスを利用して、グルスが六国を統一するチャンスなのです」


 ダックワースは扇をひらつかせる。


「このグルスに、この私とナダ様がいる限り、ゾゾリマとグルス、どちらが勝つかは炸光魔法を見るより明らかでしょう」


 ダックワースは笑った。

 確かにとナダは思った。

 魔王レオンは魔族の歴史上、最も強い力を持った魔族かもしれない。

 だが、ダックワースは、魔族の歴史上、最も強い知を持った魔族であるのだ。


「いやあ、私があまりに天才すぎて、空には雲ひとつありません」


 ダックワースは窓の外を見上げながら言った。

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