〜第11話〜大男、鏡師、蹂躙
「クリヤ様、うまく魔王レオンを骨抜きにできたでしょうか」
ホーハムの魔族が王のマヒルに尋ねた。
「……まぁ無理だろうな」
ホーハムの王マヒルはしんみりと言った。
「え?やっぱりダメだと思っていたのですか?」
「……ああ、まぁダメで元々、可愛い子には旅をさせろというからなあ」
マヒルは息を吐いた。
「クリヤは、ホーハムの淫魔としては歴史上最も男を惑わせる才能がない娘だろう。どうしてあんな娘が生まれたのか、本当にわからん」
マヒルは娘のことを思い、遠くを見た。
「…………、多分、男を惑わせる才能が無い代わりに、『あんな肉体』が与えられたのだろうが…………」
◇◇◇
「嫌あああああああああああ!!」
悲鳴とともに、クリヤの平手が、大男の頰にめり込んだ。
大男の顎は、一瞬水飴のようにひしゃげた。
「ごお」
大男は、わけもわからないまま地面に叩き伏せられた。
が、それで終わりではなかった。
「嫌ああああああ!!」
もう一発平手が顔に飛ぶ。もう一度大男の顔がひしゃげ、脳みそが左右に揺さぶられる。
そのあとも、クリヤは泣き叫びながら平手を連続でくり出す。
その度に鈍い音が鏡の世界に響く。
「…………マジかよ」
その声は鏡師シオミのものだ。
◇◇◇
「クリヤの肉体は、ホーハムの淫魔史上最高の肉体だろう。……惜しむらくはその肉体が、男を惑わせる最高さというより、単純に最高の強度を誇っているということだがな……」
マヒルは思い返す。
クリヤは幼き日、転んだ拍子にホーハムの城を動かしてしまったことがあった。今でもホーハムの城には1メートルほどの引きずった跡がある。
この娘はこの腕力で魔王として君臨することも十分可能ではないかと思ったほどだ。
マヒルは自分が知る限り、クリヤに殴り合いや取っ組み合いで勝てそうな者などこの世にひとりもいない。
◇◇◇
泣き叫びながら、平手を続けるクリヤ。大男は反撃することもできず滅多打ちにあっている。
「やべえ。タカマ死ぬわ……」
シオミは呟いた。すでに大男は意識がない。このままでは間違いなく撲殺される。
仕方ねえか。
シオミは鏡の世界からクリヤを追い出すことを決めた。
◇◇◇
「……クリヤさんを助けます」
レオンは鏡の前に近づく。ラミアとオーティズは何をと思ったが、間も無くレオンの手が黒く輝く。
そして鏡にその手がめり込んだ。
「レオン様……まさか……」
「少しですが、鏡の世界をこじ開ける方法、わかりました」
めり込んだ手が輝きを増す。そして黒いヒビが鏡に走った。
◇◇◇
「……何だ?」
シオミが鏡の世界からクリヤを追い出そうとしたとき、異変が起きた。
出入り口となる鏡から、亀裂が走っている。
誰だ?やべえ、このままではこの世界が壊れる……。
何なんだよこれは。腕力が取り柄のタカマは淫魔姫にボコボコにされ、絶対だと思っていた自分の鏡の世界が何者かによってこじ開けられ、壊されようとしている。
本当に想定外すぎる。
「すまねえなタカマ。俺は逃げるぜ」
色々とあきらめたシオミは、この鏡の世界から姿だけでなく声も存在も消して逃げた。




