〜第2話〜女戦士、魔王、花園での対面
ゾゾリマの城に潜入したラミア。彼女は魔族たちから目から自らを隠しながら王の間へ進んでいく。
途中、城に詰める魔族たちの会話を耳にする。
「レオン様は、今、何をしておられる?」
「今日も中庭の花園だ」
「また花の手入れをなさっているのか。本当に花が好きなのだなあ」
「特にマリーゴールドを好んで育てておられる。マリーゴールドの花言葉は絶望だ。きっとこれから世界に絶望を与えようとしているのだろう」
「お前、意外に博識なんだな」
「はははは、それはともかくレオン様は今のところゾゾリマ内でも、征服したインボイでも、殺戮をまだひとつもしていない。殺戮が日常茶飯事だったレロン様の時代も恐ろしかったが、今もこれはこれで静かな恐怖があり、大変スリリングだ」
「あまりに殺戮を行わすぎて、巷では逆にレオン様がインボイの獣人たちを殺戮しまくったことになっているらしい。殺戮を行なっていないのに行いまくったことになるレオン様、ハンパないな」
「へへっ、いつ本当の大量殺戮が起こるか楽しみだな」
魔族たちは顔を合わせて笑う。
ラミアは踵を返し、中庭に向かう。
中庭では花園を前に、屈んでいるひとりの男がいた。
ラミアはそっと様子をうかがう。このときずっと魔族たちに見つからないようにひそめていた息が少し乱れた。
それは、そこにいた男の笑みがあまりにも邪気が溢れていたからであった。
男は笑みを浮かべながらじょうろで花に水をやっていた。
彼のやっている朗らかな行動と、溢れんばかりの邪気のギャップは凄まじかった。
ラミアは確信した。奴こそが魔王レオンだ、と。
ラミアはさらに気配を消す。
これで、訓練を受けた番犬ですら私を知覚できない。
その状態で一歩一歩近づいていく。
魔王レオンは呑気に鼻歌を歌いながらちょろちょろと水を差し上げている。
とうとう首すじが目の前にきた。ラミアはレイピアの柄に手をかけた。
「……さっきから何をしているの?」
魔王レオンが急にこっちに首をかけたので、ラミアは息をのんで固まってしまった。
バカな、ここまで気配を消しているのになぜ察知できる?と。
「こんなところに女の子……しかも人間の……がやってくるなんて珍しいなあ」
どうする……?まぁ構わない……無理やり殺してしまおうか?ラミアはもう一度レイピアの柄に手をかける。
「……ああ、そうか」
魔王レオンは納得したように言う。
「なかなか綺麗でしょ、僕のつくった花園は?」
ラミアはぽかんとしてしまった。そう言われてゆったりと花園を見てみた。たしかに手入れが行き届いていた花園だ。特徴的なのは、薔薇のような派手な花は少なくマーガレットやポピーのようなこじんまりとした花が多い。
「綺麗な花が欲しいのはわかるけど、そんなんで無理やり刈りとったらダメだよ。まだこの子たちは育ち盛りなんだから……」
ラミアはレイピアの柄から手を離した。
「……見ていくだけならいくらいてもいいからゆっくりしてって。そうだあそこに座って、香りのいいハーブティーがあるんだ」
そう言われてラミアは花園の横の椅子に座らされた。間も無くハイビスカスのハーブティーが運ばれてきた。
ひと口入れて香ばしさに華やかな気持ちになった。
「……君、名前は?」
魔王レオンに急にこう言われた。
「あ、言いたくないなら大丈夫。別に無理して聞くつもりはないから」
「……ラミア」
ラミアはついついぼそっと答えてしまった。
「そうか、ラミアさんか。可愛い名前だなあ」
魔王レオンに真顔でこう言われたので、ラミアは何となく恥ずかしくなりもじもじしてしまった。
ハーブティーをもうひと口入れたところで思い返した。
そういえば私は何のためにここに来たのだろう?
それは、目の前で綺麗な花を見せてくれて、絶品のハーブティーを振舞ってくれた男こと、魔王レオンを殺すためではなかったか?
そう、自分の使命を反芻しようとしたときだった。
「レオン様、またここにおられたのですか」
「ああ、オーティズさん。オーティズさんもハーブティーはいかがですか」
「……っ!?」
オーティズとよばれた男が急に凄まじい殺気を出した。それは言うまでもなく、花園の椅子に座るラミアに気がついたからだろう。
「何だ貴様は?」
オーティズという魔族が剣を抜く。
そしてラミアも立ち上がり、ようやく何度も柄に手をかけていたレイピアを抜いた。




