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追われたなら、食えばいい

前話でキャラクターデザインを載せてみました!

自分ではかなりいい感じにできたと思っているんですが、皆さんのイメージと比べてどうでしたか?

イメージ通りだった、思ってたのと違ったなど、感想いただけると嬉しいです!

「ほら、行くよ」


メルに促され、アキラは噴水の縁から立ち上がった。


広場を離れ、二人で通りを歩き始める。


石造りの建物が並ぶ道。


その間を細い水路が流れ、小さな橋の上を人や馬車が行き交っている。


人間もいれば、獣の耳や尻尾を持つ者もいる。


アキラはきょろきょろと辺りを見回しながら、メルの後をついていった。


しばらく歩いたところで。


「そういや」


「何?」


「さっきの剣持ったおっさん」


メルが振り返る。


「ガイアスさん?」


「ガイアスっていうんか」


「うん」


「…………ガイアス」


「何?」


アキラは少し考えた。


「いや、なんか見た目と名前めっちゃ合ってんなと思って」


「…………」


メルは一瞬黙った。


「ずっと怖い顔しとったし」


「……私も最初、ちょっと怖かった」


「やっぱり?」


アキラが笑う。


メルも少しだけ笑ってから言った。


「でも、頼れる人だよ」


「そうなん?」


「言い方はちょっときついけど、ちゃんと周りを見てるし。戦う時も、ガイアスさんがいると安心する」


「へえ」


アキラは少し意外そうに頷いた。


「ちゃんとリーダーなんやな」


「ちゃんとって何?」


「いや、ずっと怖い顔してたから」


「それは関係ないでしょ」


「まあ、そうやな」


そんな話をしながら歩いていると。


ふわり。


香ばしい匂いが鼻をくすぐった。


「…………」


アキラの足が止まる。


「どうしたの?」


「メル」


「何?」


「めっちゃええ匂いする」


通りの先。


小さな屋台から煙が上がっている。


店先では、肉を刺した串が何本も火の上に並べられていた。


じゅうじゅうと脂が落ちるたび、香ばしい匂いが辺りに広がる。


「…………」


アキラの腹が鳴った。


その音を聞いて。


アキラは、ふと気づいた。


「そういや……」


「何?」


「俺、こっち来てから何も食ってへんな」


「え?」


思い返してみる。


草原で目を覚まして。


神様に会って。


森へ入って。


魔物に追いかけられて。


グランたちと出会って。


馬車に乗って。


また魔物に襲われて。


そのまま街まで来た。


食事らしい食事をした記憶がない。


つまり。


目の前の串焼きが。


この世界へ来てから初めて口にする食べ物になる。


そう考えた途端。


さっきまで以上に腹が減った気がした。


「……めっちゃ腹減ってきた」


「食べる?」


「食う」


即答だった。


アキラは屋台へ近づく。


そして。


「…………」


革袋を取り出した。


中を見る。


色も大きさも違う硬貨。


「…………」


「どうしたの?」


「メル」


「うん」


「どれ出したらええん?」


「…………」


メルが呆れたようにアキラを見る。


「やっぱり分かってなかったんだ」


「分かるわけないやろ。今日初めて見たんやぞ」


「門では払ってたでしょ?」


「お前に言われたやつ出しただけや」


「もう……」


メルは小さく息を吐いた。


それから自分の袋を取り出す。


「最初は私が出すよ」


「ええの?」


「その代わり、ちゃんとお金のこと覚えてね」


「おお。助かるわ」


メルは硬貨を二枚取り出し、屋台の店主へ渡した。


そして串を二本受け取る。


一本をアキラへ。


もう一本を自分の手に持った。


「はい」


「ありがとう」


二人で串にかぶりつく。


「…………」


アキラが噛む。


香ばしく焼けた表面。


噛むほどに肉の旨味が広がる。


少し歯応えはあるが、嫌な硬さではない。


「うまっ」


メルの耳がぴくりと動いた。


「これ美味いな!」


「でしょ?」


メルも串を一口かじる。


アキラはもう一口食べながら、満足そうに頷いた。


「焼き鳥やな、これ」


「鳥じゃないよ?」


「ん?」


アキラが止まる。


「大トカゲ」


「…………」


「森でアキラが追いかけられてたやつ」


「…………マジ?」


「うん」


アキラは口の中に残っている肉を見つめるように、しばらく黙った。


ごくん。


飲み込む。


「…………」


そして。


もう一口かじった。


「まぁうまいからええか!」


「でしょ? 美味しいでしょ!」


メルも嬉しそうに串を頬張る。


「うまい。普通にうまい」


少し前まで自分を食おうとしていた相手を。


今度は自分が食っている。


考えてみれば妙な話だが。


美味いものは美味い。


一本目を食べ終える。


「…………」


アキラは屋台を見る。


「もう一本食いたい」


「食べる?」


「食う」


「じゃあ、今度は自分で買ってみる?」


「…………」


アキラは革袋を見る。


「いくら?」


「一本、一コム」


「コム?」


「お金の単位」


「…………」


アキラは革袋と屋台を交互に見る。


「どれ?」


「これ」


メルが革袋の中から硬貨を一枚指差した。


アキラはそれを取り出し、屋台の店主へ渡す。


そして二本目。


食べ終わる。


「もう一本」


「まだ食べるの?」


「まだ入る」


三本目。


そして四本目。


そのたびに一コムずつ払う。


「アキラ、結構食べるね」


「なんか知らんけど、まだ入るな」


そして五本目。


「…………」


自分でも少し不思議だった。


四十一歳の頃なら、こんな勢いで肉を食えば途中で重くなっていた気がする。


けれど。


今はまだ食える。


「若返ったからか?」


「何か言った?」


「いや、こっちの話」


最後の一切れを飲み込むと、アキラは満足そうに腹をさすった。


「…………満足」


「食べたね……」


「久しぶりに腹いっぱい食った気がするわ」


正確には。


この世界へ来て、初めての食事だったのだが。


その記念すべき最初の食事が。


自分を食おうとしていた大トカゲだった。


人生、何があるか分からない。


アキラは手に残った革袋を見る。


「で……」


「うん?」


「俺、今いくら持ってんの?」


「そこから?」


「そこからや」


メルは大きく息を吐いた。


「じゃあ、歩きながら説明するね」


「頼む」


それから宿へ向かう道すがら。


アキラはこの世界の金について、簡単に教えてもらった。


大トカゲの串が一本、一コム。


街に滞在するために払った金は、一日で串が十本ほど買えるくらい。


安い宿でも、当然それよりは高い。


細かい硬貨の違いも教えてもらったが。


「…………」


「分かった?」


「なんとなく」


「本当に?」


「使ってたら覚えるやろ」


「大丈夫かな……」


「まあなんとかなる」


「それで済ませないでよ」


メルが呆れたように言った。


それでも。


少なくとも。


串一本が一コム。


それだけは覚えた。


     *


しばらく歩き。


二人は一本の通りへ入った。


大通りほど人は多くない。


その代わり、食堂や酒場。


宿らしき建物がいくつも並んでいる。


「ここ」


メルが一軒の建物を指差した。


三階建ての木造の建物。


一階からは料理の匂いと、人々の話し声が漏れている。


「ここが?」


「宿。安いけど、ちゃんとしてるよ」


「それ大事やな」


「私も、この街に来たばかりの頃はよく使ってたから」


「ほな、ここにするわ」


「まだ中も見てないけど?」


「メルが大丈夫って言うなら大丈夫やろ」


「…………」


メルの耳がぴくりと動いた。


「そういう決め方でいいの?」


「知らんところで一人で選ぶよりええやろ」


「それは……そうかもしれないけど」


メルは前を向いた。


その尻尾が。


ぱた。


ぱた。


さっきまでより、少しだけ大きく揺れている。


「…………?」


アキラはそれを見たが。


特に気にすることなく、宿へ向かった。


二人は宿へ入る。


一階は食事をする場所も兼ねているらしい。


いくつものテーブルが並び、その奥には受付。


客たちが食事をしながら話している。


メルに助けてもらいながら、アキラは部屋を取った。


二階にも宿泊用の部屋があるらしいが。


アキラが選んだのは三階だった。


理由は簡単。


安かったからだ。


階段を上り。


案内された部屋へ入る。


「…………」


狭い。


そして。


「天井、低っ」


三階は屋根の形に合わせて天井が低くなっているらしい。


部屋の端では、アキラでも少し頭を下げる必要がある。


置かれているのは。


小さなベッド。


机。


椅子。


それだけ。


二階の部屋より狭く。


天井も低い。


その分、宿代も安い。


「まあ寝るだけやし、十分やな」


「本当にここでいいの?」


「安いんやろ?」


「うん」


「ならここでええ」


とりあえず三日。


それでも、まだ手元には金が残った。


「…………」


アキラはベッドへ腰を下ろした。


柔らかい。


少なくとも。


草原でもない。


森でもない。


馬車の荷台でもない。


「やっとまともに寝れる……」


そのまま後ろへ倒れそうになって。


「アキラ」


「ん?」


入口に立っていたメルが呼んだ。


「どうした?」


「その……」


メルは自分の胸元へ手を置いた。


アキラが手を加えた胸当て。


「ちゃんと、お礼言ってなかったから」


「お礼?」


「これ」


メルが胸当てを軽く叩く。


「さっきの戦いで、これがなかったら……たぶん怪我してた」


「…………」


メルは一度、胸当てへ視線を落とした。


それから。


ゆっくりと顔を上げる。


「だから……」


ほんの少し。


頬が赤い。


耳も、どこか落ち着かないように動いている。


それでも。


メルはアキラの目を見た。


「……ありがとう」


「…………」


アキラは胸当てを見る。


森で。


合っていなかった留め具を外して。


少し位置を変えて。


メルの身体に合うように調整した。


ただ、それだけだった。


「別に大したことしてへんけどな」


「私にとっては大したことだよ」


「そっか」


「うん」


メルは小さく笑った。


まだ少し赤い頬のまま。


アキラはそんなメルの様子には気づかず。


少し照れくさそうに頭をかいた。


「まあ、役に立ったなら良かったわ」


「うん」


メルの尻尾が。


また、少しだけ揺れた。


「…………」


アキラはもう一度、胸当てを見る。


そこで。


「あ」


「何?」


「そういや」


アキラが身体を起こした。


「それ、まだ途中やったな」


「途中?」


「胸は守れたけど」


アキラはメルの装備を見る。


「守れてへんところ、まだあるやろ」


「…………」


「動きやすくするために外したところもあるし」


あの時は。


ある物を使って。


その場でできることをしただけ。


戦ってみて。


実際に分かったこともある。


「ちゃんとなんとかせんとな」


「アキラ?」


「せっかく街に来たんや」


ここなら。


森にはなかった物がある。


道具も。


材料も。


そして。


それを作れる人間もいる。


アキラは少し考えて。


笑った。


「まあ、明日考えよ」


「今考えないの?」


「今日はもう疲れた」


「…………」


「まず寝る」


「もう……」


メルが呆れたように笑った。


異世界へ来て。


初めての街。


ようやく寝る場所を手に入れたアキラには。


まだ。


世界を救う方法なんて分からない。


けれど。


目の前にある。


なんとかできそうなことなら。


一つ、見つかった。

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