一緒にいるなら、知ればいい
二日目。
昨日とは違い。
誰かに言われる前に、それぞれが自分の位置についた。
グランのおっちゃんが御者台。
その隣にメル。
ガイアス達が馬車の周囲。
プロパは中。
俺も。
「じゃあ最初、俺歩くわ」
「珍しいな」
オルガンが言った。
「なんやねん」
「昨日あれだけ暇そうにしてた奴が」
「昨日教えてもらったからな」
「ふっ、いい心がけだ」
「なるほど。なら馬車戻るわ」
「戻んな」
オルガンがため息を吐きながら言う。
オルガンと交代して、馬車の横を歩く。
昨日と同じ景色。
でも。
昨日より少しだけ、見る場所が分かる。
道の先。
風に揺れる草。
その向こうに広がる森。
馬の様子。
前を歩くガイアス。
後ろのマシュー。
御者台のメル。
「……なあ」
「なんだ?」
前を歩くガイアスが振り返る。
「お前ら、最初こんな感じやったっけ?」
「何がだ」
「メルと」
「どういう意味だ?」
「いや」
俺が初めて会った時。
メルと三人は。
今ほど自然じゃなかった。
特に。
「オルガン」
「なんだよ」
「お前、最初メルにもうちょい当たりきつくなかった?」
「……」
オルガンが黙った。
「なんで黙るん?」
「別に」
「なんかあるやん」
「ねぇよ」
「メル?」
「え?」
「なんか知ってる?」
「えっと……私の力不足かな?」
メルが困ったように笑う。
「ほら! あるやん!」
「うるせぇな!」
オルガンが少し声を上げる。
「色々あったんだよ!」
「色々って?」
「色々だ!」
「雑やなぁ」
「お前に説明する必要ねぇだろ!」
「気になるやん」
「気にすんな!」
「なんやねん」
マシューが後ろで笑っている。
「マシューは知ってるん?」
「まあね」
「教えて」
「嫌だよ」
「なんで?」
「面白いからかな?」
「お前、意外と性格悪いな」
「今頃気づいたの?」
ガイアスだけは相変わらずの表情だ。
……いや。
少し笑ってる気がする。
なんやこいつら。
「まあええわ」
「諦めるの早いな。そのうち分かるやろ」
今は。
メルも普通に三人を頼っている。
三人もメルに周囲の様子を聞く。
「メル、右は?」
ガイアスが聞く。
「大丈夫です」
「後ろは?」
「今のところ何も」
自然だ。
俺が知らない間に。
何かが変わったんだろう。
それなら。
そのうち分かる。
しばらく歩いて。
今度はマシューと交代する。
「お疲れ」
「何もしてないけどな」
「それが一番だよ?」
「昨日からそればっかり聞くわ」
馬車へ戻る。
「お疲れ様です」
グランのおっちゃんが言う。
「ほんまに疲れてないけどな」
「それは良かったです」
水を飲む。
そして。
馬車の隅に積まれている荷物を見る。
親方から預かった三着の防具。
「そういや、おっちゃん」
「はい」
「向こうでこれ売るん?」
「いいえ」
「売らんの?」
「正確には、防具そのものを売ることが目的ではありません」
「どういうこと?」
グランのおっちゃんが少し笑う。
「アキラさん。メルさんの防具を、同じものでもう一着作れば、他の獣人の方にもそのまま使えると思いますか?」
「んー、無理ちゃうんかな?」
「なぜです?」
「体型もそうやし、つけてみないと分からんやん?」
「そういうことです」
「ああ」
犬系。
猫系。
他にも色々いる。
同じ種族でも体格は違う。
尻尾の位置も。
肩も。
腰も。
全部同じじゃない。
「完成品を作って運び続けても、合う方は限られます」
「だから調整できるようにしたん?」
「はい」
「でも俺や親方が、毎回向こう行くわけにもいかんやろ?」
「その必要もありません」
「ん?」
「私が広げたいのは、防具ではなく作り方です」
「作り方?」
「正確には、仕組みですね」
グランのおっちゃんが防具を見る。
「素材をどう使うか。どこを調整できるようにするか。誰が合わせるのか。そして、現地で誰が作るのか」
「……なるほど」
「こちらで全て作って持っていく必要はありません」
「向こうで作れるようにする?」
「はい」
「それで親方、見本作ったんか」
「そういうことです」
やっと少し分かった。
防具を売る。
だけじゃない。
作れるようにする。
直せるようにする。
合わせられるようにする。
「おっちゃん、結構でかいこと考えてんな」
俺が少し口元を上げる。
グランのおっちゃんも、それに合わせるようにいつもの笑顔を少しだけ深くした。
「商人ですから」
「……悪い顔してんなぁ」
「アキラさんほどでは」
「俺もしてたん!?」
「どうでしょう?」
「絶対分かってて言ってるやろ」
「商人ですから」
「それ言えば何でも許されると思ってるやろ」
「便利な言葉ですよ」
「認めた」
「ですが」
グランのおっちゃんが前を見る。
「実際に現地を見なければ分からないこともあります」
「だから自分で行く?」
「はい」
「意外と真面目やな」
「意外とは余計です」
「商人やから?」
「商人ですから」
「便利やなぁ」
「便利ですよ」
そこで。
「仕組みだけ持っていっても、同じようにはならないと思います」
プロパが口を開いた。
「どういうこと?」
「作る人が違います。使う人も違います。土地も違います」
「材料とか?」
「それもあります」
プロパがこちらを見る。
「同じものを持っていけば、同じ結果になるとは限りません」
「……なるほど」
「ですから見る必要があります」
「プロパも?」
「はい」
「何を見るん?」
「色々です」
「お前もそれ言うん?」
「便利なので」
「グランのおっちゃんの悪いところ覚えてるやん」
「悪いとは思いません」
グランのおっちゃんが笑っている。
「というか、プロパはなんで一緒に来たん?」
「今更ですか?」
「結界使えるからかなって」
「それだけではありません」
「じゃあ何?」
「そのうち分かります」
「またそれかい」
「旅は長いですから」
「七日やろ?」
「十分長いです」
なんやろう。
昨日会ったばかりなのに。
こいつ。
妙に会話しやすいな。
表情はあまり変わらない。
でも。
何を考えているか、全く分からないわけでもない。
少しだけ。
本当に少しだけ。
口元が動いたりする。
「今笑った?」
「いいえ」
「笑ったやろ?」
「気のせいです」
「絶対笑ったわ」
「アキラ!」
いつもより低い声が、御者台から飛んできた。
「はい?」
「前を見てください」
メルだ。
しかも敬語。
……ん?
怒ってる?
俺は御者台を見る。
メルの耳が立っている。
「どうした?」
「……止まって」
グランのおっちゃんがすぐに馬を止めた。
ガイアス達も止まる。
さっきまでの空気が。
一瞬で変わった。
ガイアスが剣に手をかける。
オルガンが槍を構える。
マシューが弓を手にする。
「メル?」
メルが鼻を動かす。
耳を澄ます。
そして。
森の方を見る。
「何かいる」
風が吹いた。
草が揺れる。
俺には。
まだ何も見えなかった。




