↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
16/43

分からないなら、覚えればいい


 翌朝。


 俺とメルは、昨日受けた薬草採取の依頼をこなすため、街の外へ出ていた。


「薬草採取かぁ……」


「うん!」


 横を歩くメルは、昨日からずっと機嫌がいい。


 冒険者になって、初めて街の外でこなす依頼。


 しかも今回は、メルが得意だと言っていた薬草採取だ。


「これなら魔物と戦わんでもええんやろ?」


「たぶん」


「たぶん?」


「奥まで行かなければ大丈夫だよ」


「その一言を先に言ってくれ」


「言ったよ?」


「そうやったっけ?」


「うん」


 まあええか。


 少なくとも、剣だの槍だのを持って魔物と戦うよりは俺向きやろ。


 草を摘むだけや。


 草を。


「アキラ」


「ん?」


「あったよ」


「え?」


 街を出て、まだそれほど歩いていない。


 メルが道の脇を指差した。


「薬草」


「もう?」


「うん」


 俺もそっちを見る。


 草が生えていた。


「……どれ?」


「そこ」


「そこって?」


「アキラの足の近く」


 足元を見る。


 草が生えている。


 顔を上げる。


「どれ?」


「これ」


 メルがしゃがんで、一株の草を指差した。


「……これが薬草?」


「うん」


「その隣は?」


「違うよ」


「これは?」


「それも違う」


「これは?」


「ただの草」


「全部同じに見えるんやけど」


「全然違うよ?」


「マジかよ」


 俺には本当に分からん。


 多少、葉っぱの形が違うのは分かる。


 けど、それを言い出したら周りに生えてる草なんて全部少しずつ違う。


「何が違うん?」


「ここ」


 メルが葉を裏返した。


「白い線があるでしょ?」


「……あるな」


「これがあるの」


「なるほど」


 言われてみれば確かにある。


 葉の裏に細い白い筋が何本か走っていた。


「じゃあ、これもやろ?」


「違うよ」


「なんでやねん」


「それはただの葉っぱの筋」


「同じやん!」


「違うよ!」


 メルが笑う。


 いや。


 初心者には無理やろ、これ。


「あと、匂いも違うよ」


「匂い?」


「うん。嗅いでみて」


 メルが一枚だけ葉を摘んで、俺に渡した。


 鼻に近づける。


「……草の匂い」


「もうちょっとちゃんと嗅いで」


「いや、ちゃんと嗅いどるわ」


 もう一度、鼻に近づける。


 青臭い。


 ただ、その中に少しだけ、ミントみたいな爽やかな匂いが混じっていた。


「……あ」


「分かった?」


「なんかスーッとするな」


「そう、それ」


 なるほど。


 見た目だけじゃなく、匂いでも見分けるのか。


「これは傷に使う薬に入ってるんだって」


「へぇ」


「いっぱいあるから、探してみて」


「俺が?」


「うん」


 メルは当然のように言った。


 俺はもう一度、足元を見る。


 白い筋。


 少しスーッとする匂い。


 そう言われれば見つけられそうな気がする。


「……これや」


「違う」


「早ない?」


「違うもん」


「まだ匂い嗅いでへんやろ」


「それは違うよ」


「なんで分かんねん」


「匂い」


「ああ……」


 そうやった。


 犬系の獣人やった。


 俺が顔を近づけなきゃ分からん匂いを、こいつは立ったまま分かるらしい。


「ずるない?」


「何が?」


「俺だけ難易度高いやん」


「なんで?」


「いや、もうええわ」


 本人に言っても分からんやろ。


 しばらく探していると、それらしい草を見つけた。


 葉の裏を見る。


 白い筋。


 今度こそ。


「メル」


「なに?」


「これやろ」


 メルが俺の手元を見る。


「うん!」


「よっしゃ」


「でも小さいから、それは採らない方がいいよ」


「……なんで?」


「まだ育つから」


「ああ」


 なるほど。


 見つければ何でも採っていいわけじゃないらしい。


「じゃあ、どれくらいならええん?」


「これくらい」


 メルが少し離れた場所に生えていた株を指差す。


 さっきのものより一回り大きい。


「根っこから取るん?」


「ううん。これは葉っぱだけ」


「へぇ」


「根っこまで取ったら、もう生えてこないでしょ?」


「そらそうやな」


 メルは慣れた手つきで必要な葉だけを摘んでいく。


 俺も真似をする。


「こんな感じ?」


「うん。それでいいよ」


「おお」


 なんかちょっと嬉しい。


 草を摘んだだけやけど。


 そこから少し歩くと、今度はメルが道から外れた。


「こっち」


「なんかあるん?」


「うん」


 草の間を抜ける。


 少し湿った場所に出た。


「ここにもあるよ」


「さっきのやつ?」


「違う」


「また違うんか」


「これはこっち」


 メルがしゃがむ。


 今度の草は、葉が細長い。


「茎の下、赤いでしょ?」


「ほんまや」


「これは熱が出た時とかに使うって」


「メル、よう知っとるな」


「よく採ってたから」


「前から?」


「うん。薬草なら戦わなくても採れるし」


「ああ……」


 そういうことか。


 メルは魔物を見つけるのは得意だ。


 でも、自分では戦うのが得意じゃないと言っていた。


 だから採取の依頼をよくやっていたんやろ。


「あと、こっちはこの辺に多いよ」


「なんで?」


「湿ってるから」


「生える場所まで違うんか」


「うん」


「葉っぱ覚えて、匂い覚えて、茎見て、生えてる場所まで覚えんの?」


「うん」


「草採るだけやと思ってたわ」


「簡単だよ?」


「先生、それは経験者の意見です」


「先生?」


 メルが俺を見る。


「今日はメル先生やろ」


「私が?」


「俺より全部知っとるやん」


「……先生」


 メルが小さく呟いた。


 耳がぴくっと動く。


「なんや?」


「もう一回言って」


「なんでやねん」


「いいから」


 尻尾が揺れている。


 分かりやすいな、こいつ。


「メル先生」


「うん!」


 めっちゃ嬉しそうやん。


「じゃあ先生、次お願いします」


「任せて!」


 メルが嬉しそうに胸を張る。


「じゃあ、これからは先生の言うことちゃんと聞いてね!」


「はいはい」


「はいは一回!」


 反射的に背筋を伸ばす。


「はい!」


「ふふっ」


「なんで笑うねん」


「だって、アキラの返事……」


「お前が言わせたんやろ!」


「えへへ」


 完全に楽しんどるな、こいつ。


 そこから、メル先生の授業は続いた。


「これは?」


「それはお腹が痛い時に使うやつ」


「どこ見たら分かるん?」


「葉っぱの端」


「端?」


「ちょっとギザギザしてるでしょ?」


「……これくらい?」


「うん」


「その隣もギザギザしてへん?」


「それは違う」


「またかよ!」


 薬草。


 思っていたより、だいぶ奥が深い。


「じゃあこれは?」


「違う」


「これは?」


「違うよ」


「これ!」


「それ、さっきも間違えたやつ」


「草のくせに紛らわしいねん!」


「草に怒ってもしょうがないよ」


「誰のせいやと思っとんねん」


「アキラ?」


「俺か」


 メルが笑う。


 どうやら俺には、まだまだ修行が必要らしい。


 けど、不思議なもんで。


 最初は全部同じに見えていた草が、教えてもらってから見ると少しずつ違って見える。


 葉の形。


 裏側の模様。


 茎の色。


 匂い。


 生えている場所。


 知らなかった時には、全部ただの草だった。


 でも知れば、ちゃんと違う。


「あ」


「どうしたの?」


「これ」


 俺は足元の草を指差した。


 葉は細長い。


 茎の根元が少し赤い。


 周りの土も湿っている。


「さっきのやつやろ?」


 メルがしゃがんで確かめる。


「うん!」


「よっしゃ!」


「アキラ、覚えるの早いね」


「先生がええからな」


「ほんと?」


「そらもう。メル先生のおかげで、俺も今日から薬草マスターや」


「まだ全然だよ!」


「なんやて!? もうマスターした気でおったわ」


「早すぎるよ!」


 メルが楽しそうに笑う。


 俺もつられて笑いながら、教わった通りに薬草を摘んだ。


 冒険者。


 昨日までは、まだその言葉を聞くと魔物と戦う姿ばかりが頭に浮かんでいた。


 でも、こういう仕事もある。


 知らないことを教えてもらって。


 できなかったことが、少しできるようになる。


 それなら――。


「案外、悪くないかもな」


「なにが?」


「なんでもない」


「なに?」


「ほら先生。次行くで」


「待ってよ!」


 立ち上がった俺を、メルが追いかけてくる。


 今日はまだ始まったばかりだ。


 先生に教わることも、まだまだありそうだった。


 ――その時。


 メルの耳が、ぴくっと動いた。


「……アキラ」


「ん?」


 さっきまで揺れていた尻尾が止まる。


 メルは何かを探るように、少しだけ鼻を動かした。


「どうした?」


「……魔物の匂いがする」


「え?」


 思わず辺りを見回す。


 草。


 木。


 その向こうにも草。


 俺には何も見えない。


「どこ?」


「まだ見えない」


「匂いだけ?」


「ううん」


 メルの耳がもう一度動く。


 今度はぴたりと、一方向を向いた。


「音もする」


「……マジか」


「うん。たぶん、あっち」


 メルが指差したのは、俺たちがこのまま進もうとしていた方向だった。


 俺も耳を澄ませてみる。


 何も聞こえない。


 もう一度、辺りを見回す。


 やっぱり何も見えない。


 けど、メルには分かっている。


「少し戻ろ」


「戻る?」


「うん」


 メルはそう言うと、もう一度周囲を確かめるように鼻を動かした。


「……分かった」


 返事をしながら、無意識に腰の短剣へ手が伸びる。


 さっきまで薬草を見つけただけで喜んでいたのに。


 少しだけ、身体に力が入った。


 やっぱり、ここは街の外なんや。


 草を摘んで終わり――。


 そんなに簡単にはいかんか。

心機一転、ペンネームを変えました。


以前の名前が「諦め君」だったので、書くことまで諦めてしまいそうだなと思いましてw


新しい名前は

成瀬(なるせ) 適(てき)です。


「成せばなる」的な意味も込めて、この名前にしました。


改めまして、今後ともよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。