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第11話 鶺鴒鳴く ─採寸─

鶺鴒鳴せきれいなく

 ──セキレイが鳴き始めるころ。





「おはようございます!」


 溌溂はつらつとした挨拶に、アオは驚きのあまり布団を巻き込んで寝台しんだいから転げ落ちた。布団の隙間から顔を出して声の主を確認する。


 二十を超えたばかりに見える女性。今までに見た女官たちと同じ格好をしているが、彼女の腕には長い紐のようなものが巻き付けられている。紐には細かく等間隔に目盛りがついていて、それは定規のようだった。


「セツ、アオが驚いてる。誰がそんな大声で起こせと……」

「申し訳ありません! でも、可愛らしい姫君の採寸を任せられると思うと嬉しくって」


 セツという女性はアオに紐の定規を伸ばして見せる。状況を把握したアオは慌てて布団から飛び出した。


「お、おはようございます。えっと『さいすん』って……?」

「交流会の衣装のね」


 セツの後ろからユイが答える。

 すると突然慌てた調子で、セツはアオの手を取ってしっかりと握手をしてきた。


「申し遅れました、天子さま。わたくし、今日からアオ様の衣装作成の全てを任せられました、しょうふくきょくのセツと申します!」

「はじめまして……」

「似合うご衣装を提案させていただきます。よろしくお願いしますわ」


 握られた手をぶんぶんと上下に振られる。

 アオは困惑の表情でユイに助けを求めた。けれど彼は首を横に振る。諦めないでほしい。


「えっと、採寸って何をするんですか?」

「腕の長さや胴回りの長さなどをこのじゃくで測らせていただきます。お着替えなさる前がいいと思いまして、はせ参じた次第ですわ!」


 そしてアオは脇を少し開いた姿勢で立っているように言われた。棒立ちのアオの周りをセツがくるくると回って巻き尺を伸ばす。見事な手つきで上から下まで大した時間をかけずに計測し終えると、巻き尺を首にかけて大仰おおぎょうに頷いた。


「終わりました!」

「もうですか?」

「はい。昼頃に意匠いしょうあんをお持ちいたしますから、それにさえ目を通していただければ」


 アオはやっと着替えることを許されて、いそいそと服の紐を締めた。帯は一人で出来ないので、セツが手伝ってくれた。その完成姿はユイが仕上げたものと少し違っている。八重咲の花が咲いているように見えた。

 同じ帯を使っているはずだが。


「他にもいろんな結び方が出来るんですか?」

「ええもちろん。蝶結び、大人っぽいしだれ結び、螺旋らせん結び、春に素敵な落花らっか結びもあります! 練習すればご自分でもできますし、お教え致しましょうか──」


「もういい。セツ、君はまだ仕事があるはずだよね」


 アオはユイによって強引に肩を引き寄せられて、すそを踏んでしまった。そのまま崩れた身体はユイに倒れ込む。


「ああっ、申し訳ないです。わたくし、また熱が入ってしまいました?」

「本当に。さいぼうに帰った帰った」


 ユイにひらひらと手をひるがえされ、セツは名残惜しそうにもぱたぱたと去っていく。アオはユイを押しのけて立つと、自分で踏んでいた裾を引っ張った。


「あんな邪険じゃけんにしたら可哀想じゃないですか⋯⋯?」

「アオは忘れた?」

「何をですか?」


 ユイは親指で隣の部屋を指す。昨晩、何者かに襲われかけた血濡ちぬれの部屋だ。畳は夜のうちに張り替えると言っていたので、血液の跡形はないだろうがあまりいい気分ではない。

 女性の断末魔を思い出して、寒気にアオは自身の腕をさすった。


「……」

「誰が敵かもわからないんだよ」

「敵、って何なんです?」

「それしらもわからない。だから用心するには越したことはないんだ」


 しかしあのセツを追っ払うような素振りは、それだけではないような気がする。アオはちらりとユイの顔を盗み見た。

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