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捜査開始 4


(架空のミステリーは死体がどれだけグロテスクでも平気だったのに、知っている人間だからかしら? ずっと見ているのはきついわね)


 だからこそ、平然とした様子で死体に触れるオーウェンが、マリオンの目には異様に映った。同じ学生にしては、手慣れ過ぎている。それが出自によるものなのか、性分なのか、はたまたそれ以外の理由があってのことなのかはわからない。自分の無実を主張してくれた恩人であることに違いはないのだが、この異様な状況下で手際よく事を進めていく後輩を、頼もしく思う一方でマリオンは空恐ろしく感じていた。


 とはいえ、ただぼうっと彼らの作業を待っているのは時間の無駄だと、マリオンはひとまず、各自のアリバイを聞くことにした。


「では、全員今夜のアリバイを話してくださるかしら? まずはアンジェリーナから」


「えっ? あ、はいっ」


 真っ先に名指しをされて肩を上げたアンジェリーナは、ピンと背筋を伸ばした。


「あなた、今夜のパーティーが始まってから今に至るまで、どう過ごしていたの?」


「はいっ。私はマリオン先輩が婚約破棄された後、パーティーが終わるまでず~っとエリク様と一緒でしたよぉ」


 質問に対し、どうだと言わんばかりに胸を張るアンジェリーナに、マリオンは片眉を上げた。


「ずっと? 本当に?」


「え? あっ、違います、違いますっ。ずっとじゃないですっ。嘘、吐いちゃいました、ごめんなさいっ。一人になった時もありましたぁ。ええっと、時間は確か……六時よりもだいぶ経っていたから、六時半くらいかなぁ? 急にエリク様が用があると言ってダンスホールを出ていかれたので、暇になっちゃって。なので一時間くらい一人でご馳走を食べて過ごしていました。その間、他の生徒さん達から声をかけられたりもしていたので、完全な一人じゃないですけど、でもご馳走に夢中だったので……あ、デザートのミニアップルパイが甘くてサクサクで絶品でしたよぉ。マリオン先輩はお食べになりましたかぁ?」


 すぐに脱線しそうになるアンジェリーナに、マリオンはわざと咳払いをして続きを促した。


「あ、あとぉ、エリク様が戻られてから、私もお手洗いに行ったので、この時も一人になりました。出て行った時間は覚えていないけれど、流れていた曲は覚えています。確か、るっつぉ? さんの白鳥のなんとかって演奏が終わるころです」


「ルッツォ=ヘブン作曲の白鳥の月夜のワルツですね。それなら、八時になる少し前でしょうね」


 ウィンターが胸元のポケットから取り出した進行表を見ながら言った。「そうです、そうです」と頷きながら、アンジェリーナは続きを語った。


「それで、お手洗いからエリク様のもとに戻る途中、なぜか迷ってしまってぇ。いつの間にかこの部屋に続く廊下をウロウロしていましたけど、マリオン先輩とオーウェン君に見つけてもらったので、無事エリク様と再会を果たすことができたんです。だから私、感激しちゃってぇ。思わずエリク様〜! って抱きしめちゃいましたぁ!」


 最後は当時の再現なのか、それとも語った影響で感情が高ぶったからなのか、アンジェリーナは人目を憚らずエリクに抱きついた。それを、


「こらこら、アンジェリーナ。よしなさい」


 と、口では窘めるも、すっかり鼻の下を伸ばし切ったエリクが、彼女の頭を優しく撫でた。


 そんな二人のやり取りに、内心、吐き気を催しながらも、マリオンはアンジェリーナに対して一言礼を口にしてから、エリクに尋ねた。


「それで、この証言に間違いはないかしら?」


「ああ」


 エリクはマリオンを見ずに答えた。


 いちいち気にしていたら負けだと、マリオンは続けてエリクに質問する。


「アンジェリーナが言ったように、あなたが一人でいるところを私も見ているわ。オーウェン君もね。いったいこの部屋で、何の用があったのかしら?」


 すると、エリクはやはりマリオンには目もくれず、フンと鼻を鳴らしてから死体に向かって顎をしゃくった。


「用があったのはギルバートの方だ。そこの男が、私をここへ呼び出したんだ」


「呼び出した?」


 マリオンが意外そうに目を見開くも、エリクは気にした様子なく続きを語った。


「大事な用だから二人きりで会いたいと言っていた。パーティー中だというのに、それもわざわざ手紙で呼び出して……。だが、よほど重大な話だったのだろう。だから私は仕方なく、愛しいアンジェリーナを一人ホールに残してまで、足を運んでやったのだ」


「それで、彼は何を……?」


「何をじゃない! 来なかったんだよ! ギルバートは! この私を呼び出しておいてな!」


「え……?」


 急に憤慨したエリクに、マリオンは既視感を覚えた。



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