捜査開始 3
忠実な僕でも、不都合が生じたらあっさりと切り捨てる。そうまでして、自分を犯人に仕立て上げたいのかと、エリクの異様な執念に恐怖を覚えた。
ならばと、マリオンは別の方法を持ち掛けた。
「では、誰かが私の指示で遺体に触れるのは、構わないのかしら?」
「何?」
「私が直接遺体に触れなければいいのでしょう? だから、この中の誰かにやってもらうのよ。それに、私の指示が少しでも怪しいと感じられたら、それは行わなくて結構よ。どう?」
「それは……」
身を引くどころか、ずけずけと要望を唱えていくマリオンに、圧倒されていくエリク。その上、
「私としてはオーウェン君にやってもらいたいところなのだけれど、あなたは彼を疑ってしまっているし、しょうがないわ。動いてくれるなら、ウィンター君でも、ディルでもいいわよ」
と、蚊帳の外になりつつある二人を引き摺り出す始末。当然、彼らの反応は芳しいものではない。どころか、
「わ、私っ? やりませんっ。絶対に、やりませんっ」
「無理無理無理! 俺も絶対無理!」
エリクの声かけも待たずに、断固として拒否の姿勢を見せた。
そうなることを見越していたマリオンは、「あら、残念」と言葉とは正反対の笑みを口元に浮かべながら、
「なら、あなたでもいいわよ、エリク君」
と、不躾に言い放った。
「この私を使うというのか!」
「なら、オーウェン君を使ってもいいかしら? せっかく、警吏を呼ばずに私達の方で犯人を捜すのだと、エリク君の方から提案してくれたのだもの。時間は有意義に過ごしたいわ」
間髪入れず、激昂するエリクに、対してマリオンは泰然自若な態度で向かい合った。
次第に、二人の間に今にも火花が散りそうな、そんな張り詰めた空気に耐え切れなくなったのか、アンジェリーナがおずおずと口を挟んだ。
「い、いいんじゃないですかぁ? エリク様。このまま何もしなければ、刻一刻と時間が過ぎていくだけですし、マリオン先輩が調べてくれるって言ってるんですから、そうしてもらいましょうよ。それに、マリオン先輩が動いてくれるなら、エリク様はギルバート先輩に触れることなく推理することができますよぉ。ね?」
「あ、ああ。そうだな」
愛しい少女に抱きつかれ、怒りが鎮まったエリクの眉間から、たちまち皺が消えていく。ああよかったと、周囲は胸を撫で下ろした。
それを、知ってか知らずか、「悪女」はコロンとひっくり返していく。
「あら。ただ乗りするつもり? さすが、泥棒猫ね」
「ど、どろぼうねこっ? わ、私がですかぁっ?」
「アンジェを愚弄するな!」
再び噴火するエリクに、それまで黙っていたオーウェンが口を挟んだ。
「エリク様。こちらはいつでも動くことができます。後は貴方のご命令だけです」
「チッ! 調べることを許可する!」
投げやりに言い放つエリクに、マリオンはひと言、「ありがとう」と口にした。
ようやく事を進めることができると、マリオンはオーウェンとともに死体のもとまでやって来る。
「では、鎧を外していきます」
「ええ。お願……いえ、待って」
言いかけて、マリオンは死体を見上げながら目を細めた。
「その前にギルバート君を下ろしてあげましょう。いつまでもこれでは、可哀想だわ」
そう言うと、オーウェンはマリオンへ顔を向け、
「悪女でも可哀想だと思うのですね」
と、茶化すように言った。
一瞬だけ、きょとんとしたマリオンは、すぐに応えるようにわざとらしく目を吊り上げた。
「あら、悪い?」
「いいえ。人の心をお持ちのようで安心しました。ではディル先輩、手伝ってください」
「えっ? お、俺ぇ?」
声をかけられるとは思っても見なかったのだろう。呼ばれたディルが、素っ頓狂な声を上げた。
オーウェンは気にした様子なく、淡々と言った。
「死んだ人間は見た目よりも重いんですよ。いくらギルバート先輩が私達男性の中で一番軽いといっても、私一人でできる行為じゃありません」
「いや、だから。俺は死んだ人間に触れるなんて無理……」
「無理かどうかの話ではありません。やるんです」
「うぐ……」
後輩に押されて何も言えなくなったディルは、観念したのかオーウェンとともに死体を下ろすことになった。
「では、縄を切っていきます。落としたりしないよう、しっかり下で支えていてください」
「うげ……よりによって足かよ……って、重っ」
首に隙間なく巻かれた麻縄を解くことができないと悟ったオーウェンは、エリクに承諾を得てから、その縄を切ることにした。死体の頭付近で、またもやどこから出したのか手持ちだろうナイフを、ザリザリと縄に滑らせていく。
一方、マリオンはその光景を見ながら、まるで絞首刑のようだと、眉を顰めた。




