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捜査開始 2


『ねえ、私達きっと、いいお友達になれると思うのよ。マリオン』


 この時も、エミリアはまるで子どものようにマリオンに笑いかけた。憧れていた女性から手を差し伸べられ、マリオンは嬉しさと同時に気恥ずかしさを感じたのを覚えている。


『そう、でしょうか』


 俯く自分に、エミリアは気分を害した様子なく頷いた。


『ええ。それに、あの子とも気が合いそうだわ』


『あの子?』


『孤児院時代の家族よ。私達よりも年下だけど、とても大人びているというか、達観しているというか。とにかく頭がよくて、常に冷静沈着で、でも時々おもしろい。そんな子がいるのよ』


 へえ、とマリオンは感心した口ぶりで相槌を打った。


『エミリア先輩がそこまで言うなんて、さぞ能力の高い人なんでしょうね』


 実際、エミリアは何でもできた。男性社会のこの国で、女性の身でありながら首席を誇り、生徒会長まで務めていたのだから、それだけで能力の高さは保証されていたようなものだ。それでいて、彼女は自身の能力を決してひけらかすことはなかった。


 この時もまた、マリオンに対して謙遜の仕草を見せた。


『私なんて、まだまだよ。あの子の足元にも及ばないもの。だから、いずれあの子も、気立てのいい貴族の方に気に入られて、この学校に入学してくると思うのよ。その時は、仲良くしてくれると嬉しいわ』


 エミリアにここまで言わせる人間だ。マリオンはますます興味が湧いた。


『ま、目立つことが嫌いな子だから、テストは真面目に受けないかもしれないけれどね』


『何ですか、それ。学年上位に入らないなら、探せないじゃないですか』


 いたずらっ子のように笑うエミリアにつられて、マリオンもまた屈託なく笑った。


『大丈夫。私が紹介するわ。その時は、三人でお茶でも飲みましょうよ』


『それは……とても楽しみです』


 それから一月ひとつき後のことだった。エミリアが命を絶ったのは。知らせを受けてからしばらくは、悲しみに暮れて過ごしていたこともあり、マリオンはこの時のやり取りをすっかり忘れてしまっていた。


(あの時はてっきり女性だと思い込んでいたけれど、エミリアの言っていた例の家族が男性なのだとしたら、彼はすべて当て嵌まる)


 もちろん、本人へ問い質さないことには、確証を得ることはできない。しかし、下級生のオーウェンがエミリアの事件を知っていたことも、彼女と親しい間柄であれば合点がいった。


(なら、彼はエミリアの事件の真相をすでに知っている……? いや、たとえそうだとしても、今この事件との関連性がわからない。エリク達の様子を見る限り、無関係ではないのでしょうけれど……)


 そこまで考えたところで、マリオンはオーウェンから、吊るされたギルバートへ視線を移した。そのあまりにも無残な姿が胸に刺さる。幸いなのは、彼の死に顔が兜で覆い隠されていることだ。


 首を絞めれば人は死ぬ。刃物で刺したら人は死ぬ。鈍器で殴れば人は死ぬ。誰かを殺すことなど簡単だ。それでも、日々を理性で生きる自分達に、他者を殺めるという一線は簡単には越えられない。少なくとも、貴族として生きてきたマリオンには考えられない行為だ。


(見る限り、これは絞殺のようだけれど、調べないことには死因も断定できない。いずれにせよ、犯人がギルバート君を恨んでいたことは、確かなのでしょう)


 そうでなければ、わざわざ死体の背中に「罪」などと残しはしないだろう。殺した上で文言を残すところに、犯人の狂気を感じた。


 エミリアの死の真相は気になるところだが、今は自分にかけられた容疑を晴らすことが先決だと、マリオンは改めて目の前の事件と向き合った。


「あの~」


 オーウェンがマリオン達のもとへ戻ってくると、申し訳なさそうな顔をしたアンジェリーナが控えめに手を挙げた。


「どうした? アンジェ」


 寄り添うエリクが尋ねると、


「えっと、さっきオーウェン君が言っていた……しはん? って、いったい何ですか?」


 ディル同様、聞き慣れない単語について誰ともなく質問する。真っ先に目が合ったのはエリクだが、彼は「それは……」とすぐに口籠った。首席の男が、「死斑」を知らないわけがない。いったい何を言い淀む必要があるのかと、マリオンは怪訝に思いつつも、代わってアンジェリーナに答えた。


「死体の表面に現れる痣のことよ。死んでから時間が経つと出てくるの。これが本当に縊死なら、それが足元に現れるはずだけれど……」


 そこまで言って、死体の下肢に視線を落とした。両手と違い、両足にはしっかり鎧を纏っている。先ほどオーウェンが言っていたように、より正確な検死をするためには、纏っているそれらを剥がさなければならない。


 マリオンは死体に向かって指をさしながら、エリクに尋ねた。


「この鎧、外してもいいかしら?」


「だ、駄目に決まっているだろう」


「あら、なぜかしら?」


 マリオンがとぼけた様子で頬に手を添えると、エリクが眼光鋭く睨みつけた。


「まだお前の疑いが晴れたわけではない。私とこの部屋の前で会った後、そこにいるオーウェンを買収し、アリバイを確保して犯行に及んだという線も考えられる。もしくは、お前自身ではなく、別の人間にやらせたという線もな。そんな小細工を施す可能性がある者に、易々と遺体に触れさせる馬鹿がどこにいる?」


 そこまで言ったエリクに、マリオンはポカンと口を開けた。


(オーウェン君まで疑うの? あれだけお気に入りだったのに?)



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