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悪女の容疑 5


「え、えと……私が、ギルバート君を殺したのが……あなたを……え?」


「お前はずっと、私に懸想をしていたからな。振られた腹いせで凶行に及ぼうとしたが、王太子である私を殺すことはできない。ならばと考え、思いついたのが代わりの人間を殺すことだ。一人ホールを抜け出し、ギルバートを探すフリをしてな。違うか?」


「な……な……」


(何だ、その……くっっっだらないクソ動機は……!)


 プツン、と頭の中の何かが切れた。そうとは知らないエリクは、フンと鼻を鳴らした。


「たとえ私の元婚約者といえど、貴族を殺した罪は重いぞ。マリオン」


 引導を渡した気でいるのだろう。すっかり犯人だと決めつけている。


(もう、いいわよね……)


 マリオンはふうっと長い息を吐いた。そして、およそ侯爵令嬢とは思えないほどの形相で、エリクを睨み上げた。


「ふざけんじゃないわよ」


「ま、マリオン?」


 およそ向けられたことのない口の利き方に、今度はエリクがたじろいだ。その様を目にして、いい気味だと、マリオンは内心ほくそ笑む。言葉遣いの一つで手に鞭を打たれていた辛い日々を、今のこの一言で無にしてしまったわけだが、心は驚くほど清々しかった。


(自分の身は、自分で守る。それしかないんだわ)


 続けて、マリオンは睨み上げたまま、アンジェリーナを親指で指し示した。


「私にこの犯行が可能だと言うのであれば、殿下の最愛の人にも可能だと思うのだけど?」


「なんだとっ?」


 相手の不遜な態度よりも、愛しい婚約者を引き合いに出されたことの方が堪らなかったのか、エリクは声を荒げた。それを物ともしないマリオンは、


「だってそうでしょう? アンジェリーナは手洗い場から殿下のもとにまっすぐ帰らずに、この部屋の廊下でうろついていたのよ。私とオーウェン君が彼女を発見するまで、いったい何をやっていたのかしら。ねえ?」


 と、アンジェリーナを横目にする。


 火の粉が飛んできたとばかりに、アンジェリーナは自身の前で両手を振りながら、


「えっ、えっ、と、これって、私っ、疑われてるんですかぁ? でもでも、私っ、鍵なんて持ってないですよぉ。ほらぁ!」


 と、何も持っていないことを示した。だが、それがどうしたと言わんばかりに、マリオンは続けた。


「それなら、愛しいエリク様が作れるじゃない」


「えっと……そ、それは、そうです、けどぉ……でも、本当に持ってないんですってぇ……エリク様ぁ……!」


 今にも泣き出しそうになるアンジェリーナを、エリクはその腕に抱き込み、攻撃者であるマリオンを睨んだ。


「取り消せ。私は合鍵など作っていない。それに、この華奢でか弱いアンジェに、自分よりも体重の重い男の首を締め上げることが可能だと? ましてや、部分的にとはいえ体に鎧を纏っているのだぞ。そんなこと、不可能に決まって……」


「であれば、私にもそれが不可能であると思わない?」


「そ、それは……」


 すかさず返された問いかけに、またもやエリクは何も言えなくなってしまった。


 ついさっきまで激しく怒っていたはずなのに、今はこれ以上なく頭が冴えている。激しい怒りは逆に頭を冷やすのだと知ったマリオンは、次の標的に狙いを定めた。そう、ディルとウィンターだ。視線を移すと、彼らはビクッと肩を上げた。


 マリオンは口を開いた。


「力だけで判断するのであれば、怪力の能力を持つディルが犯人にもなりえるわよね。それに、そもそもギルバート君を殺すために抵抗を防ぐため、電撃で無力化させることのできるウィンター君も怪しくなるわ」


 そこまで言うと、ディルが噛みつくように声を荒げた。


「お、俺はそんなことしていないぞ! だいたい、その能力は……」


「しっ! ディル!」


「けどっ」


 ウィンターが制止にかかるも、もう遅い。マリオンの中で、ディルはすでに「普通の人」になっていた。


(咄嗟の言葉こそ嘘はないわ。この分じゃ、おそらくウィンターも……)


「さらに言うなら」


 再びエリクに向き直り、彼女は両手を前で組んだ。もはや、事ここに至ってはマナーなど知ったことではない。


 それがたとえ、王太子相手であってもだ。


「私は一人でいる時に、この生徒会室から出てくるあなたと会っているのよ。殿下。部屋をしっかりと施錠されていたことも覚えている。その後の私のアリバイについては、ここにいるオーウェン君が証明してくれるでしょう。あなたが部屋から出た後に、いったいどうやってこの部屋に入って、私はギルバート君を殺したというの?」


「……っ」


 エリクは奥歯を強く噛み締め、整った犬歯を見せた。


(おお、怖い。でも、絶対に怯まない。怯むもんですか)


 マリオンはさながら、悪女のように不敵な笑みを、その美しい顔に浮かべてみせた。


「勝手に犯人に仕立て上げられた人の気持ち、おわかりになって? ろくなアリバイ調査もせず、ただ殿下にとって不都合な人間を犯人に仕立て上げようなど、愚の骨頂。そうではなくて? ……エリク君?」


「ま、マリオン!」


 今にも血管が破裂しそうなほど顔を赤くさせるエリクに、マリオンは凛とした態度で長い黒髪を後ろへ靡かせた。


「もう私はあなたの婚約者じゃないの。それに、校内にいる間は皆対等であるはず。そうよね? 私は何も失礼なことを言っていない。だからもう、堅苦しいのは止めにするわ」


 もう遠慮はいらない。マリオンは心に誓った。


(私が真犯人を見つけてみせる)



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