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死神の呪い 1


【午後九時二十分 クィード学園 一階 廊下】


 午後九時を境に、パーティーはお開きとなった。今宵ばかりは羽目を外し、はしゃぎ疲れた生徒たちは余韻に浸りながらも、ぞろぞろとダンスホールから寄宿舎へと移っていった。


 最後の一人がホールを出たところで、パーティーの後片づけを業者へ委託すると、主な役職についている生徒会役員はミーティングのため、生徒会室に向かった。


 すでに生徒会から役職を外されたマリオンは、本来ミーティングに参加する必要はない。にもかかわらず、彼女は後輩オーウェンとともに、生徒会室へと続く廊下を歩いていた。


「ねえ、オーウェン君」


 一歩、また一歩と進むたびに気が重くなるマリオンは、隣のオーウェンに呼びかけた。


「もうパーティーは終わったのだから、私の監視もここまででいいんじゃないかしら?」


「私が命じられたのは、エリク様の許可が下りるまでです。勝手に監視を終えますと、後で私が叱られてしまいますので。ご足労ですが、生徒会室までご同行願います」


 そう答えるオーウェンに、嫌々な素振りも、怯えている様子もない。むしろ、それが当然だと言わんばかりに、彼は淡々と答えた。


 この後輩に感情はないのだろうか、と思う一方で、エリクは忠実なしもべを得たものだと、マリオンは複雑な感情を抱いた。


 だからこそ、直後に続くオーウェンの発言には耳を疑った。


「まあ、私個人としては、マリオン先輩にはこのまま寄宿舎へ戻っていただいた方が、余計な心労をかけずに済むと思いますし、そうすることで私自身も仕事が減って早く休むことができるので、もうこのまま解散したいというのが本音です」


 マリオンは唖然として、オーウェンを見上げた。まさか寡黙だった彼の口から、これほど饒舌に本音を吐露されるとは思ってもみなかったからだ。


 ギルバート同様、個人的な付き合いがなかったとはいえ、こんな少年らしい一面を垣間見られたことに、マリオンは驚くとともに嬉しく感じた。


「難儀なものね」


 散々な一夜ではあったが、マリオンの口元にようやく笑みが浮かんだ。


 すると、オーウェンが「そうでしょうか」と、顎を上げた。続いて目元を覆っていた前髪がサラリと流れ、髪色と同色の漆黒の瞳があらわになる。マリオンは目を瞠った。オーウェンの相貌が、これまで目にしたどんな異性よりも美しいと感じたからだ。それはこの国で、最も美しいとされている元婚約者のエリクよりも、だ。


 思わず見惚れていると、切れ長の双眸が天井を見つめて、こちらに意見を落としてくる。


「私からすると、マリオン先輩の方が難儀な生き方をしているように見えます」


「私が? どうして?」


「親しい人間を、わざと作らないようにしていらっしゃるので」


 その回答に、心臓が跳ねた気がした。図星だったからだ。


 まさか、大して関わりのない相手に、自分が友人を作らない理由を当てられるとは思いもしなかった。


 マリオンは後輩の観察力に感心しつつも、気が緩んだのか、ずっと抱えていたあることをポツリと打ち明けた。


「私……死神なの」


「死神?」


 意外な単語が出たことに、今度はオーウェンが驚いたようだ。視線が天井からマリオンへと落とされ、綺麗な顔が隠れてしまう。まるで輝かしい満月が雲に覆われたかのようで残念な気持ちになりつつも、マリオンは語った。


「昔から、私と親しくなると、みんな亡くなっちゃうの。飼っていた猫は、懐いてくれた途端に病死。雇った侍女は、仕事を覚えて間もなく事故死。この学園に至っては、尊敬していた先輩と仲良くなれたと思った矢先に……」


 そこまで言って口籠る。事実、過去にマリオンを「死神令嬢」と陰で囁く者がいた。両親はたまたまだとマリオンを慰めたが、マルヒルド王国に魔法が存在する以上、この事象を偶然で片づけることができなかった。


 本来なら青春を送るはずの学園生活で、人恋しくなることはしばしばあるが、それ以上に大切なものを失いたくないという思いが上回り、無意識の内に身を引いてしまうのだ。


 だからこそ、今なお姿を見せないギルバートのことが心配だった。まだ友人にすらなっていない関係ではあるが、ずっと胸騒ぎがして止まないでいる。


 すると、またもやオーウェンの口から、


「その先輩とは、エミリア=コルトのことでしょうか?」


 と、あえて伏せていた人物の名前が上がり、意表を突かれてマリオンの足が止まった。


「よく、知っているわね」


「彼女の事件は有名ですから」


 殊更、何でもないように答えるオーウェンに、マリオンの目は丸くなる。


(有名? 学園はエミリアの事件をひた隠しにしていて、今の一年生は知らないはずなのに?)


 そう思いつつも、エリクの傍で働いているのだからオーウェンが知っていてもおかしくはないのかと思い直し、マリオンは再び歩を進めた。



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