06 魔導士たちは、召喚士と戦う2
「砂がどんどん流れてきて進めないよ!」
「早くどうにかなさい! このままじゃアタクシ達も挽き肉ですわ!」
離れた位置で流砂に引き込まれたレキとエリーゼが焦った声を上げる。
四つん這いの姿で必死に這い上がっているものの、乾いた砂が周辺から次々に流れこんでくるため、引き込まれるペースのほうが速い。
このままでは、中心で死の回転を続ける精霊の餌食になってしまう。
(何か手は……)
見渡すと、流砂を逃れたダンが砂丘からこちらを見下ろしている。
「ダン! 馬の荷物にロープがあるから、それでレキ達を助けられる!?」
まだ知り合って間もないが、ダンにとっても原住民は共通の脅威。
戦闘はともかく彼の体格なら女2人持ち上げるくらいはできるはずだ。
「おう、助けるぞ! でもロープってなんだ~?」
「長くて丸く束になってるアイテムよ! 1番大きいバッグに入ってるから、片方をつかませて2人を引き上げて!」
「そんな便利なモノがあるのか! わかった、任せとけぇい!」
簡潔に説明して先を促す。
しかし。
「させん! 戦士達よ、そやつをぶち殺せい!」
老婆が号令をかけると、今まで傍観していた部族の男共が砂丘の向こう側へと走っていったダンを追う。
「なんだお前ら! 我は友達を助けないといけないんだ! 邪魔すんな~!」
「……っ!」
続けて聞こえる戦いの音。
かなりの人数に取り囲まれたようだ。
下手を打ったかもしれない。早く援護に行かないと。
「フェフェッ。万策尽きたといった顔じゃのう」
自身が流砂に呑まれていることも意に介せず、私の正面に姿を現す老婆。
「……あなたを潰せば全部解決する。策なんて必要無いわ」
「まだ観念せんか。ならば“砂漠の民”の真髄を見せてやろう!」
すると老婆は、なんと纏っていたローブを脱ぎ放つ。
「なっ!?」
露わになった老婆の肢体に私は思わず目を剥いた。
ビキニに包まれた年季を感じさせる肉体は、鋼の鎧をまとったかのように黒光りした屈強な筋肉で覆われていた。
分厚い胸板とバキバキに割れた腹筋。引き締まった体の表面には野太い血管が浮き出ている。
冒険者でもここまで鍛えた人間はなかなかいない。どんな訓練や食事を取ればここまで筋骨隆々とした肉体が手に入るのか想像もつかなかった。
「せいやーッ!」
小指を舐めて両耳に擦り付けると流砂に飛び込む老婆。
そのまま深く潜って完全に姿を消す。その姿は明らかに常人が川や海へ飛び込むのと遜色ないものだった。
流れる砂に目を凝らすものの、どこを潜っているかまったく判別がつかない。
「胴がガラ空きじゃあーッ!」
刹那。
左側面。砂の奥から波間を跳ねるトビウオのごとく飛び出した老婆が、私に向けて仕込み刀を振るう。
「ぐっ……! 《アイスバレット》!」
魔杖でどうにか弾くものの、相手も反撃の魔法はあえなく避けられ老婆は砂に潜行してしまう。
「これならどう!? 《フローズンランス》!」
貫通力の高い氷の槍を放つが、手ごたえはゼロ。
諦めずに数発撃ち込むものの正確な狙いがつけられず、さらに流砂という緩衝材に威力が殺されてしまうため深くまで潜られたら攻撃が届かない。
「フハーッ! これがヴェイロスの過酷な環境に生きるため先人達が編み出した“砂泳”じゃ! 水と比べた砂の抵抗は実に78倍! その中を自在に泳ぎ回ることができて、初めて我ら“砂漠の民”は一人前の成人として認められる!」
流砂の中をクロールで泳ぎながら勝ち誇った声を放つ老婆。
腕が砂面に叩きつけられるたび、コブのような背筋が隆起して高らかに砂を掻き上げる。
先ほどの襲撃といい、砂の中を泳いでいたのはスキルの類ではなかった。
原住民の純粋なフィジカルだったのだ。
「《グランドオース》!」
地属性魔法で強引に地を隆起させ砂を巻き上げるも、あっという間に潜行され、かわされてしまう。
こうしている間にも、私の体は刻一刻と精霊の元へ引き寄せられていた。
どうにか流砂を上がろうとしても。
「どこへ行く気じゃ、《真砂楼》!」
「!? ……ぐっ!」
下から老婆の声が響いた後、まるで落とし穴にでも嵌ったように足元が沈む。
歩行する先の砂をどのようにしてか取り除いたのだろう。
どうあっても私を“蟻地獄”から逃がさないつもりだ。
「手も足も出んようじゃな! 流砂よりも早く泳げるワシが精霊の《スクロゥラー》で呑まれることはないが、もし止められる可能性があるとするなら魔法の使えるお前だけじゃ! すなわち、ここでお前を抑えておけばワシの勝ちは揺るがんというわけじゃ!」
いくら精霊の魔法防御が高くても、上位魔法で攻撃すれば動きを止めるのは容易。
しかしそのためには、術式を構築する時間がいる。こう立て続けに攻撃されていては集中力が持たず、中位以下の魔法しか放てない。
「執拗に私だけ狙っていたのはそのためか……! 本当に厄介ね」
「ククク、召喚した精霊と連携してこそ一流の召喚士よ! そして1つ、状況が進んだぞえ」
「何を……!」
「言葉通りじゃ。どうやら金髪の小娘は力尽きたようじゃぞ」
「……っ!?」
老婆が指をさした方角を見ると、そちらで精霊と対峙していたはずのレスティの姿は無く、代わりに彼女の軽鎧だけが流砂の上に浮かんでいた。
「剣を振るう騎士と思えんほど軟弱じゃのう。鎧の重さに耐えきれず脱いだようじゃが、少し前に沈んでいきおったわ」
「…………!」
「後の2人も時間が無さそうじゃなァ。さて選べ。このまま精霊に引き込まれ肉片となるか、ワシの手で八つ裂きにされるのとどちらが良いか」
「はぁ……はぁ……! ローザ……!」
「ひぃぃぃっ! 死ぬっ! 死ぬうっ!」
エリーゼとレキも体力が限界に近い。
これが――この世の地獄と謳われたヴェイロス。
砂でできた灼熱の牙が、私達の喉元まで迫っていた。
作中にて砂の抵抗は水の78倍とありますが、あくまで実際に砂場で実験してみた作者の体感です!
サハラ砂漠とかはもっと乾いているでしょうし、泳ぐのはもっと楽かもしれません!




