04 魔導士たちは、原住民と戦う
新たなる婆さん登場……!
「こんなに接近されていたなんて、失態ね」
部族の願掛けによるものか体中にタトゥーを刻み、腰蓑を着けた原住民の集団を見渡しながら、私は杖を構える。
ダンが教えてくれなかったらいつ奇襲されてもおかしくなかった。そういう意味では助けられたといえる。
「“ババ様”ノ言ウ通リダッタ。砂漠ノ敵、現レタ」
「痛メ付ケテ、神ニ捧ゲル」
片言で物騒な単語を口にする原住民。
私達に向けられる感情は、敵意というより狩人の獲物に対するそれだ。
「友好ムードではないようですね」
レスティの言葉を裏付けるように、原住民の1人がこちらに向けて問答無用で矢を放つ。
それが戦闘開始の合図となった。
「ちょうどいいわ。こいつらから食糧を頂くことにしましょう」
これだけの人数ならばそこそこ大きな集落が近くにあるはず。
食糧になる魔物がいないのなら、あるところから貰えばいい。
こちらは攻撃を受けた被害者なのだから、それぐらいは許されるというものだ。
「この程度、アナタ達なら物の数ではないでしょう。早いとこ片付けてしまいなさいな」
「油断してると足元を掬われるわよ」
レキとエリーゼ、ついでにダンの壁になるように私とレスティは挟み込むように立つ。
ひとまず先手必勝。
さっさと範囲攻撃で勝負を決めてしまうと、私は術式を紡ぐ。
「《ハリケーン》……なッ!?」
魔力の充填された杖を向けた矢先、砂の下から腕が伸びると私の足首をスラックスごとつかんで強引に引き倒してくる。
これだけ接近されていたのに気付かなかったことも驚愕だったが、原住民のものと思われる腕は、私を引きずったまま恐ろしい速度で砂の中を動き出した。
「ちょっと! 本当に足元を掬われてどうしますの!」
そんなこと言われても、原住民にこんな能力があるとは想像もつかなかった。
まずい、奴らの仲間の方へ連れていかれる。
「この……! 《ライトニングスピア》!」
砂の中へ魔法を放つが、威力が殺されているのか動きが収まる気配はない。
なら腕だ。
「《スパークエッジ》!」
「――ッ!?」
雷を施した杖で腕を力の限り打ち据える。
さすがに効いたか手が放れ、どうにか態勢を立て直す。
「今のはさすがに屈辱よ! ぐっ、このッ!」
今度は石矢がこちらを襲う。
打ち払えないほどではないが、このままでは術式を組む余裕がない。
(何なのこいつら! ただの砂漠の一部族じゃないの!?)
連携が取れ過ぎているばかりか、明らかに弱点を突いてきている。
どこかに指示役でもいるのだろうか。
「エリーゼ、防壁魔法でガードして! 範囲を撃つ時間が要る!」
「砂の下まで効果があるかは知りませんわよ!」
「構わない。この際多少のダメージは――危ない、後ろ!」
「へ。――ひゃああっ!?」
突如として砂の下からエリーゼの背後に槍を構えた原住民が現れる。
レスティは――駄目だ、レキの背後にも現れた敵の対処に向かっている。
私が行くしかない。
こんなに早く《スピードシフト》を使うことになるとは。
相手を甘く見過ぎていたことに歯噛みしつつ、【アルスノヴァ】に魔力を集中させようとしたその時。
「よっと」
その時。
エリーゼをかばうように立つ一際大きな影。
「面白いな〜、砂の中を泳げるのか。熱くないのかな〜」
ダンだ。
改めて見ると、やはりかなりの偉丈夫だ。
とはいえ石槍の一撃を受ければ無事では済まないはず。
相手が男とわかってか、一切の躊躇なく渾身の力で石槍を突き出す原住民。
しかしダンは受け身の姿勢すら見せない。
槍の先が胸板を目掛けて吸い込まれ――
ポキッ。
槍の先が、根本から軽快な音を立ててへし折れる。
まるで鉱石の塊か何かに叩きつけたように、あっさりと。
「でも、我のトモダチに手を出すのは良くないぞう。あっちへ行けっ」
原住民の男も目を剥いていたが、その隙をついてダンが原住民の肩口をつかむ。
そして、剥いた果物の皮をゴミ箱にでも投げ捨てるように、その体を放り投げた…………ように、見えた。
「――――ッッ!!!???」
風を切る音を残して原住民が、人ひとりの体が、遥か砂丘の向こうまで吹っ飛ばされる。
耳を済ましたところで男が砂の上に着地する音は聞こえて来なかった。
その場の誰もが唖然とする中、ダンだけが誇らしげに手をぱんぱんと払う。
(何、今のは)
見たままを言えば、ダンが片腕だけで男ひとりを遥か彼方まで投擲したように見える。
だが、特に力を入れていたような素振りはないし……いくらなんでも飛び過ぎだろう。
「……あれ、みんな黙っちゃってどうしたんだ? 我、変なことした?」
「! 今よエリーゼ!」
「あ、はい」
真っ先に立ち直った私がエリーゼの援護を受けて術式の構築に入る。
何人かの原住民はこちらの動きに気付いたが、何が起きたかわからずに萎縮してしまっていた。
それでも何人かはこちらへ矢を放ってきたが、遅い。
「《グランドシェイク》」
土属性の範囲魔法が私を起点として扇状に展開。地を伝う強震が砂丘を破壊し、潜伏していた敵ごと打ち払う。
「《プラズマフィールド》!」
続けざまに雷属性範囲魔法。体内に残る稲妻の魔力場を形成し、原住民を確実に無力化する。
魔法障壁はこちら側の攻撃も弾いてしまうのが難点だが、地震やフィールド魔法なら眼前のガードを無視して一方的にダメージを与えられる。
振り返ればレスティもレキを守りながら確実に敵の数を減らしていた。
殺気を感じ取る力は私よりも上なのか、砂の下からの攻撃も確実にかわしている。
「……! ……!」
旗色が悪くなったことを連中も感じ取ったのだろう、明らかに動揺している。
これなら押し返せると思ったその時だ。
「フェフェフェ。小娘どもがやってくれるじゃあないかい」
離れた位置にある砂丘の上からしわがれた声が響く。
見れば、男4人が担ぎ上げる丸太を組み合わせた台座に老婆が腰を下ろしている。
振り乱した白髪にギラついた瞳。羽飾りやら獣の骨らしき素材で作られたアクセサリやらを体中に付け、派手なローブを纏っている。
流暢な共通語を話してはいるが、おそらく男達と同じ部族だろう。
「もしかしてあなたがこいつらのリーダー?」
「いかにもワシが族長じゃ。我らが屈強な戦士の攻撃を退けるとは、どうやら腕だけはあるようじゃのう」
「なら話が早いわ。命は助けてやるから食糧を寄越しなさい」
「……台詞だけだと、どっちが悪人かわからないね」
本来なら金品も要求するところだが、荷物が増えては移動に不便なので寛大な心で温情を与える。
だがこちらの真っ当な要求を、老婆は鼻で笑い飛ばした。
「寄越せと言われて素直に差し出す阿呆がおるか。そもそも何故ワシらがお前たちを襲ったと思うておる」
「……? 追いはぎじゃないの?」
「はっ、これだから外界の蛮人は! 預言じゃ。偉大なる“砂漠の精霊”から預言があったのじゃ!」
……精霊?
創造主の従者であり世界の調停を司るもの。
基本的には人間と相容れない存在として知られているが、謎の多い連中だ。
奴らに1度散々な目に遭わされた身としては、敵であることに違いはないが。
「精霊様は仰られた! 『今から1ヵ月以内に西の空から恐怖の大王が降り、砂の世界は破滅を迎えるだろう』と!」
「……ずいぶん具体的な預言ね。まさか私達がその恐怖の大王だって言いたいの」
「確かに西からやって来ましたが言いがかりが過ぎるのでは」
しかし、老婆はかぶりを振る。
「いや。正直、乳臭い小娘の集まりにしか見えん」
「だったら何で襲ったのよ」
「……精霊様がワシに予言を託したのが、今日でちょうど1ヵ月前なんじゃ。そして残念ながら、未だに恐怖の大王は姿を現しておらん。このままだと預言が外れたことになる」
「それならそれで良いことなのでは……」
「わかっとらんのう。預言が外れたらワシの耳が遠くなったと誤解されるじゃろうが。ワシはまだまだ族長として贅沢をしたい。評判が落ちて引退させられたら目も当てられんわい。というわけでお前らまとめて犠牲になれ」
「いや知ったことじゃないわよ!」
要するにもう後が無いため、たまたま通りがかった私達を“恐怖の大王”ということにして襲撃したらしい。
まるで利権にしがみつく役人。とんでもないクソババアだった。
「部族の仲間がいる前で、ベラベラ話して大丈夫なのですか?」
「フェフェッ! こ奴らは共通語など半分も理解しとらんデクよ! だが、どうやらお主らの前では力不足のようじゃ。よってワシ自らが相手をしてやろう」
「お、お婆さんが……?」
「年寄りだなどと侮るでないぞえ。ワシは預言者でもあるが、同時に優れた『召喚士』でもあるんじゃからなぁ……っ!」
台座から降り立った老婆が木製の杖を振りかざす。
多勢に無勢だというのに、老婆の顔は自信に満ち溢れたものだった。




