表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/47

終2 計画

エノク→少しだけアルディノーラ視点です!

「失礼します、猊下」


 執務室のドアを通ると、奥の窓辺に佇んでいた人物がこちらを向く。

 背中まで流れる艶やかな黒髪と赤い瞳の目を引く、絵画の中から現れたような容姿を持つ女性だ。


「お帰りなさいエノク。大変でしたね」


 涼風のような声音が耳に届く。

 彼女こそ、28歳の若さで聖マレアの枢機卿を務め、我々ゼプターの総帥をも兼任するアルディノーラ・ペネトその人だった。


「申し訳ありません猊下。……キリーが倒され霊器まで見失いました。お手を煩わせておきながら、とんだ失態です」

「顔を上げてください。誰にでも予測のつかないことは起こるもの。全ては私が受け止めるべきことでもあります」

「お言葉痛み入ります」

「計画の変更はありません。件の冒険者は後回しとして、今後は霊器の確保を最優先でお願いします。こちらも引き続き内通者の捜索にあたります」


 冷涼な声で新たな判断が下される。

 猊下は聡明かつ慈悲に溢れ、それでいて常に冷静沈着な御方だ。

 平民の家系に生まれながらも醜い権力争いを続ける司教達を抑え、貴族からも高い能力を評価されて今の地位を得た。

 ゼプターに齎された『力』も全てアルディノーラ様が用意したものだ。


「頼みましたよ。私は1度フローリアへ出向かなければなりません」

「同盟本部へ?」

「ええ。まだ確定ではありませんが、ダンクレオスが(こちら)側に侵入したようです」

「まさか、魔王軍のナンバー2が!?」


『魔軍総督』ダンクレオス。

 開戦当初は奴こそが魔王だと考えられていたほどの、絶大な力を持った魔族。

 ゼプターの仲間も既に何人もが犠牲になっている。


「単騎で要塞をいくつか破壊した後、姿を消したそうです。手下の魔族などは確認されていませんが、守備隊が捜索を行っています」

「宮廷賢者は何をしているのですか。位置を補足して総力戦をしなければ太刀打ちできる相手ではない」

「それが、どうやら侵入と同時に大陸全土へ魔力を拡散したらしく、お陰で探知したくても反応しっぱなしだとか」


 化け物が、相変わらずの規格外だ。

 どうして後一歩というこの時期に。


「まさか計画を察知されたのでは」

「その可能性もありますが、現在こちら側に魔族が入り込んでも知る術がありません。あなた達も細心の注意を払ってください」

「心得ました。ところで猊下」

「何か?」

「その、キリーのことですが。彼女は、最後まで世界を救うべく健闘しました。どうかお慈悲を」

「…………ああ」


 それからアルディノーラ様は瞑目した後で席を立ち、オレの肩に手をあてた。


「彼女は、あなたが隊長になる以前からの部下でしたね。惜しい人物を亡くしました。いずれ遺灰を然るべき場所に埋葬しましょう。その際は、微力ながら私が介添えをいたします」


 彼女の言葉が胸に染み入る。

 聖務に忙殺される中で、この御方は時間を割いてくれるというのだ。


「感謝いたします。彼女も浮かばれるでしょう」

「根を詰めてはいけませんよエノク。彼女の意志を無駄にしないためにも、常世に残された我々がしっかりしなければ」

「は……必ずや霊器を確保し、世界に光を取り戻します!」


 オレは敬礼して執務室を出た。

 アルディノーラ様は尊き御方だ。それだけで十分、オレは戦える。


 司教座の長い廊下を歩く途中で、誰かのすすり泣く声を耳にした。


「おお~ん……キリー……っ」


 使われていない部屋の奥でうずくまっていた偉丈夫は、パウンドメーカーだった。

 どれだけ涙を流したのか、床の上には失禁したように雫が溜まっていた。


「優しい子だった……夜遅くまで孤児達の世話をしていた……死んだ虫にすら心を痛めるような女性だった……!」


 わかっている。


 本当は誰も傷つけたくなんかないよな。


 オレ達は同じ神の元に集った家族なんだ。


「ほら、涙をふいてくれ」

「……エノク隊長……!」

「気持ちは同じだ。猊下は霊器を優先しろとおっしゃったが、必ずキリーを殺した冒険者の女にも報いを受けさせよう」

「……うう、うわあああああっ!」


 どうしてオレ達ばかり、こんな目に。


 冒険者の女も、シスターも許さねえ。


 心優しい仲間を手に掛けたお前達、どこまでも追い詰めて地獄を見せてやる。



 ◇◆◇◆



「いい部下を持っているじゃないか、ノーラ」


 エノクが去った後。

 部屋の影から男の声が響く。


「そうでしょうか」


 いい部下。

 そうなのだろうか。

 私からすれば、人類は全部変わりがないように思える。


「忠実な人間は好きだな。人を介した実験は、イレギュラー要素がつきまとうからさ」

「そのようですね。彼らがAランク冒険者ごときに後れを取るとは予想を超えていました」

「おや、もしかして怒ってる?」

「どうでしょう。端的な感情には迂遠なものですから」

「いくら“偽神化”しても、生身を斬られたらちゃんと痛いし、魔法が直撃したらダメージも受けるさ」


 それも理解していますよ。

 本来なら魔族の足元にも及ばない人間が抗うための力とはいえ、結局は補強の延長線上でしかない。

 実際に我が部隊の生存率は――6割ですから。

 ですから彼らが手こずっているのも頷けはするのです。


「そりゃ手段だけなら用意はあるよ。でも支持を得られないやり方は駄目なんだろう?」

「贅沢なものですからね、民は」


 何しろ、望むように手を差し伸べなければ、差し伸べたことにも気付かないのだ。

 ただ救うだけでは民の要望に応えられない。

 だからこれが、皆が求める最良の形なのだと私は信じている。


「邪魔はさせない。霊器は必ず回収する。そして、“人造神計画”は必ず完遂する」


 ――そして私は。






「うわわ、小っさくなって潜入してたらイヤな話聞いちゃったっすねえ。昔から“神”って付く話にはロクなことないんだよなぁ〜」


「魔王様には報告しとくとして、ボスはどこで迷子になってるんすかねぇ。まぁ、とにかく霊器ってのを見つけるのが大事みたいっすね。がんばるっすよ〜」



次回から第2章になります!

仲間も増えたローザとレキの旅を応援してね♪


遅くても5日に1回は更新するのでよろしくお願いします!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ