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終1 魔導士、仲間ができる

 町を出た私達は北の山間まで足を運ぶと、中腹に建てられた小屋に身を潜めた。

 既に放棄されて久しいのか、中は蜘蛛の巣だらけで藁敷きのベッドが申し訳程度に設置されていた。

 光が漏れないよう4人でランプを囲みながら、私はこれまでの経緯を打ち明けた。


「つまりゼプターと魔族、それに精霊までがレキを狙っていると言うのですね? しかも生死問わず、ですか」

「そうなるわね。レキを霊器って呼んでたのが気になるけれど」

「ということは、アタクシとばっちりでゲロまみれにされたんですのね」

「それはあなたが要らない気を起こしたからでしょう」

「んまっ。アタクシが手柄を独り占めしようなんてスケベ心を出さなかったら、今頃ジ・エンドでしたのよ?」

「……まあ、感謝はしているわ」

「聞こえませんわ。心を込めてもう10回」

「聞いて。この女、シスターの地位を利用して談合に手を貸していたの。詐偽も働いていたわ」

「なんと、それは成敗」

「ひえ、冤罪ですわ!」


 調子に乗るなと言いたいが、まともに連絡されていたら一貫の終わりだっただけにもどかしい。


 ちなみにエリーゼ曰く、キリーの衣服に刺繍された紋章から、彼女がゼプター所属であるのは間違いないそうだ。

 ただし、魔物ような姿に変容したまでは案の定心当たりがないとのことだった。

 ゼプター自体は基本的に“前線”で独立行動をしているため、結果以外の情報は耳に入って来ない。だからこそ同じ教会内であっても、内情はほとんど知られていないらしい。


「おや。どうしたのですかレキ? 先ほどからどこか上の空のようですが」

「……あ、その。ボク……」


 見ると、レキの目がぼんやりとしている。

 もう深夜を過ぎているし、眠気以上に体力も限界が近いのだろう。

 無理もない、今日は色々と有り過ぎた。


「あなたはもう寝なさい。見張っているから」

「う……うん」


 私の言葉に、レキは素直に従った。

 レキをベッドに誘導して横にさせ、荷物の中から毛布を取り出して体に掛ける。


「ローザ、今日はボク……」

「いいから休みなさい。今後のことは起きたら伝えるから」

「うん……お休み。レスティさん、エリーゼさん、今日はありがとう……」


 それからすぐにレキはすうすうと寝息を立て始めた。


「まったく天使ですねレキは。胸がキュンキュンします」

「体が溶ける! アタクシの存在が消えていくっ!」

「なんで浄化されかけてるのよ……」


 ひとまずレキを起こさないように、私達は離れたところでランプを囲み直した。


「とにかく事情はわかりました。どんな理由であろうとこんな良い子の命が奪われていい道理はありません。わたしにも協力させてください」


 半ば予想はしていたが、レスティは当然のように申し出た。


「ありがたいけど、これからもあんな化け物と戦うのよ。無駄死にするだけだわ」

「はっきりと拒否はしないのですね」

「……まあ、魔導士としての限界は感じてる」


 力だけなら決して劣っていなかった。それでも、私1人ではキリーに勝てなかった。

 魔導士は火力支援職だ。1度後手に回るとソロでは挽回が利かない。

 このままではレキも自分も守れない。


「可能な限り人を巻き込みたくないのでしょうが、今はレキを守るためにも最善の判断をすべきでしょう。違いますか」

「……だけど、あなたにメリットなんてあるの? 完全にタダ働きよ」

「それなら報酬はもう頂きましたよ」

「え?」


 レスティは一言一言を噛みしめるように告げる。


「この場所で皆に出会い、わかりました。正義とは悪を挫くことではなく、困っている誰かを助けたいと思う心のことなのだと。それに気付けただけで十分です。わたしの剣は、誰かを守るために振るいたい」

「……綺麗ごとね」

「貴女達に手を貸したいと思うのは、全部わたしの信念のためです。気負う必要はありませんよ」


 それに、相手のほうが強いからと妥協するほどわたしの信念は脆くない、と彼女は続けた。


「ちなみにエリーゼはどうするのですか?」


 エリーゼも連中にとって今や立派な重要参考人だ。

 このまま教会に居残っていたらどうなるかは容易に想像できる。


「そうですわねぇ。連中に目を付けられた身としては、同行して差し上げても構わないいんですけどぉ」


 こちらはレスティと打って変わって尊大な態度だった。


「でもアナタ、自分のやらかしたことをお忘れになってません?」

「? やらかしたって何を」

「代行をぶち殺したのですわよね。あんなのでも役人ですから、ゼプターどころか国からも追われる羽目になるのではなくて?」

「ああ……すっかり忘れていたわ」


 ディオスがヘイゼル公爵から総督代行の地位を与えられた一端の役人であることは揺るぎない事実。そんな人物を手に掛けたとあれば、賞金首として国中に手配されるのは免れないだろう。

 少し調べれば私達に容疑がかかるのは時間の問題だ。

 しかし、レスティはかぶりを振った。


「その件でしたら問題ありません。教会へ駆けつける前に、事情を伝えておきました」

「は? 誰に」

「牢を出る時に手を貸してくれた衛兵長です。総督代行の非道な行いに対して我々が裁きを下したことを正直に進言しました。彼は理解を示してくれましたよ。というわけで、わたし達が王国から追われることはありません」

「いや、そんなあっさり理解してもらえるものなの……?」


 にわかには信じ難いものだったが、レスティの堂々とした言動は嘘をついているようにも見えなかった。

 どのみち今からどうにかできるものでもない。ここは成り行きに任せるしかないだろう。


「ふむ。そういうことでしたらアタクシもご一緒いたしますわ」

「やっぱりそうなるのね」

「何ですの、その嫌そうな顔。アタクシの腕前はご覧になったでしょう」

「だって胡散臭そうなんだもの」

「面倒臭そうなアナタに言われたくありませんわ。言っておきますがアタクシ、パーティーメンバーを見捨てたことは1度もありませんわよ」

「今までパーティー組んだことないんだから当たり前じゃない……」

「ウフフ、現在1戦1勝ですわ」

「命を狙われてるのに気楽でいいわね……」


 この丸太のように図太い神経が羨ましい。

 きっと今まで悩みを抱えたことなど1度もないのだろう。


「確かにピンチですが、同時にチャンスでもありますのよ。ゼプターが不正をしている証拠をつかんでゆすってやれば、また一歩権力の座に近付きますわ」

「大人しくゆすられてくれるといいわね」

「今回は見逃しますが、あまり悪事が過ぎると成敗しますよ」


 溜め息を吐きながら、結局2人とパーティーを組む方向で話がまとまりつつあることに気付く。


(……仕方ないわね)


 今は、自分のことは後回しだ。


 敵は強大。

 我を通せるほどの実力が残念ながら私には無い。

 不本意であっても力を貸してもらうしかないようだ。


 “正義の剣士”と“悪徳シスター”。


 正反対の思考を持った、2人に。


「それならまあ……ふたりとも、よろしくお願いするわ」

「おや、もう少し粘ると思いました」

「どうせ最後は認めることになりそうだし、早めに折れたほうがいいでしょう」

「フフン。これでしばらく退屈しないで済みそうですわね」


 こうして私達は手を組んだ。

 そういう意味では、この地を訪れたことは決して無駄ではなかった。

 今は、そう思いたい。


「それで、今後の予定はあるのですか?」

「ええ。ゼプターから送られてきた手簡を見せてもらえるかしら」


 エリーゼから手簡を受け取ると、そこには諸々の内容と共に、最後にある人物の名前が記されていた。


「随分いい加減なことを書いてくれたみたいだけど、お陰でわかりやすい目標が見つかったわ」

「ああ確かに、()()ならば諸々の事情を把握していますわね」


 レキが狙われる理由がさっぱりなら、知っていそうな人間に訊くのが早道だ。

 そしてその人物は、自ら名乗りを上げてきた。


「なるほど。手簡にサインをした人物。聖マレア教会枢機卿にしてゼプター総帥」


 ――アルディノーラ・ペネト。


 こいつなら確実に事情を知っている。

 教会を代表する人物だけに、その居所もはっきりしている。

 私達が目指すのは。


「目的地は大陸北東、マレア教会領聖都ラウリアよ」


 呼んでいるというなら、むしろこちらから出向いてやる。 

 逃げ回るなんて性に合わないことをしているよりはずっと効率的だろう。

 もっとも、尋問するのは私達になるだろうが。


「では明日からの英気を養うためにも、アタクシは床に就かせてもらいますわね。見張りは任せましたわよ」

「え、ちょっと……ああもう」


 見張りの順番を分担しようと思ったところで、エリーゼは荷物を枕代わりにさっさと横になってしまう。

 それからはいくら呼びかけても、一切反応しなくなった。


「夜明けまでまだ間があります。今日のところはわたし達で分担しましょう」

「まったく。……そうだ、結局あなたって何者なの? 冒険者?」


 私の言葉に、レスティは顎に手をあてて逡巡すると。


「…………勇者見習い、とでも言っておきましょうか」

「は? ユウシャ?」

「遥か昔、古の魔王を倒した英雄をそう呼んだそうです。いずれはわたしも、そうなりたいと考えています」

「……ふうん? 叶うと良いわね」


 答えになっていないような気もしたが、大きな夢を持っているようで何よりだ。

 ひとまず私達は交代で眠りにつきながら、夜明けを待つことにした。



 そういえば。


 今日はずっと魔法を使い続けていたのに、魔力が切れなかった。


 それどころか最後に使った最上位魔法は、今までで最大の威力を発揮できたように思う。


 いつの間にか魔力の容量が増えていたのだろうか。


 …………止そう、今考えるのは。


 私も、少し疲れた。


 クラウディア――私は、先へ進む。


 もう顔を見せる機会は無いかもしれない。


 けれどどうか……安らかに。



 ◇◆◇◆



「ようこそおいでくださいました、ヘイゼル公爵閣下」


「面倒な挨拶は不要だ。件の人物は、もうここを出発したのだな?」


「はっ。お引き留めしたのですが、未明までに領を立ったと思われます。こちらがお預かりした王家の紋章の刻まれた短剣になります」


「うむ。これは陛下が幼いレスティアーナ王女殿下へ贈ったものだ。そうか……コーエンに。まだ我が領地で無いとはいえ醜態を晒してしまったな」


「その、陛下に第3王女がいらっしゃったとは初耳ですが」


「ああ、無理もない。殿下は生まれてすぐ我らユラン王国から現在魔族の勢力下にあるアルガス王国に()()()。実に3歳の時だ」


「アルガスというと魔族の出現で滅びたという亡国の……。それが何故お1人でこのような場所に」


「殿下は王家から許可を与えられているのだよ。王族としての権限を捨てる代わりに、己の手で亡国の仇を討つという、な」


「仇、ですか」


「まあ、衛兵長のお前ごときが知っても詮無きことだ。仕事を命じる。総督代行に買収されて王女殿下を取り押さえた衛兵の首を刎ねよ」


「……!」


「この世界には、知らなかったで済まされないことが3つある。“法”と“魔族”、そして“王族の顔”だ。本来ならば町の衛兵まとめて処断するところだが、殿下のお言葉に耳を傾けたお前の功績に報い慈悲を与える。――行け」


「は……はっ! ただちに!」


「……しかし、そうなるとあの“聖剣”も手にしているのか。興味は無いが、伝承とは違う女の腕でどこまでやれるか、見ものではあるな」



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