19 託されたもの
レキ→ローザ視点です!!
「……どうしてボクの名前を?」
エリーゼさんと顔を合わせるのは3回目になるけれど、名前を告げたことは1度も無い。
彼女はすぐに答えた。
「上から知らせがありましたの。レキちゃんアナタ、然る御方の血縁者だったのね。行方を探されてるみたいですわよ」
ボクを探してる人がいた?
血縁者ってことは……家族?
エリーゼさんの言葉を、ボクはすぐに呑み込めなかった。
だってそんな人がいたのなら、どうして今までボクを放っておいたのだろう。
「あの、ローザのことは」
「ああ。やっぱりヤバい奴だったんですわねえ、あの女。冒険者パーティーの仲間を失ったのが信じられず、事故のショックで記憶を失くしているアナタを連れ去って町を出奔したそうじゃない」
やっぱりおかしい。
話しがところどころ変わってる。
(でも、もしかしたら本当にボクの家族なのかも)
その人がボクを狙ってる人とは限らないよね。
どんな人なんだろう、クラウディアさんみたいに優しい人なのかな。
アレン君もフィーナちゃんもいなくなった。
ローザもどこかへ行ってしまった。
みんなボクから離れていく。
……寂しい。
家族かもしれないなら、ほんの少しでも可能性があるのなら、会ってみてもいいのかな。
『ついて行っちゃダメ』
「えっ」
河原の時と同じように、ボクの中で声が聞こえる。
あの子じゃない。どちらかといえば……フィーナちゃんの声にそっくりだった。
『このままじゃ取り返しのつかないことになる。だからダメ』
焦った様子で声の主はボクを引き留める。
「誰? どこにいるの?」
「……どうかしまして?」
エリーゼさんには聞こえていないみたいだけど、頭の中にしっかりと響くその声が幻聴とは思えなかった。
『ごめんね、辛い思いばかりさせて。でもあなたはひとりじゃない。いつかきっと、あなただけの幸せを見つけられる日が来る。だから今は逃げて』
……ボクだけの、幸せ。
『アイツは家族なんかじゃない。わたしたちは、その人から逃げてきたの』
ボクは。
「……ごめんなさい。ボクは行けない」
「あら? アナタを置いてけぼりにした女を待つというの?」
「それもあるけど。……みんなをこのままにしておけない」
まだ何か、ボクにできることがあるはず。
それを教えてくれるのは――
「みんな? ……ん~、なら仕方ありませんわね。えいっ《ライトバインド》」
「えっ……わあっ!?」
エリーゼさんの指先から放たれた光の帯が体に巻きついてくる。
これも魔法なのか、あっという間に身動きが取れなくなってしまった。
「あの傲慢女に洗脳されてるんですのね、可哀想に。一泡くらい吹かせませんとやられっぱなしは癪ですわ」
「う……動けない……!」
このままじゃ捕まっちゃう!
必死にもがいてみるものの、魔法による拘束はびくともしなかった。
「さっ、このまま2人旅と行きましょうか。手簡には連絡してくれるだけで言いって書いてありましたけど、無事に聖都まで送り届ければ中央の連中にも顔が売れますしぃ、ウフフ」
なんとか抜け出さないと、こんな形のお別れなんて嫌だ!
まだ何かあるはずなんだ。
もういなくなってしまった人達に。
ボクの友達になってくれた、“家族”になってくれたみんなに、できることが!
「アレン君! フィーナちゃん!」
「? どこを見て…………!?」
さっきよりずっと暗くなってしまった館の中。月明りにぼんやりと浮かぶ2人の姿を目にして、エリーゼさんの動きが止まる。
「……ウソでしょう」
エリーゼさんは変わり果てた2人を見て顔色を変えていた。
「まさか、ああ……あのバカ、限度ってものがあるでしょうに……」
彼女は2人の死を悔いているみたいだった。
それに連れて拘束が緩んだため、ボクは光の帯を解こうと体を動かす。
だけどその時、風が吹き抜けて。
エリーゼさんの背後に、杖を大きく振りかぶったローザが現れた。
◇◆◇◆
「この害虫がぁっ!」
「――っ!? ぶぎゃあっ!!!!」
私の渾身を込めた一撃が修道女の胴体に直撃する。
オークのように汚い声をあげて、あいつはレキから離れ壁際まで吹き飛んだ。
「このクソ詐欺師! おまえの存在を忘れてたわ! レキをどこに連れて行こうとした!」
「ゲホ……ま、待って!」
言うが早いか、私はその体に何度も蹴りを叩き込んだ。
殺す。
殺してやる。
なぶり殺しにしてやる。
「痛い! もうやめてぇっ!」
「クソ代行と手下は始末したわ、残りはおまえだけよ!」
「アタクシは仲間じゃないのよおっ……! こんなことになるなら止めてた……っ!」
「3人も殺しておいて命乞いが通じると思ってるのか、あァ!?」
「お願いだから聞いてっ……! 知らながっだのよぉっ……!」
「挙げ句にレキまで狙って! もう沢山よ!!」
私は杖を放り出して、涙を浮かべるあいつの顔に両の拳を叩き込む。
何度も、何度も。
手の甲が擦り切れて手についた血はどちらのものかわからない。それでも止まらない。
血反吐を撒き散らしながらも、エリーゼは耳障りな懇願を続けた。
「知らな゛い……ごめんなざい゛……許して……っ」
うるさい。
何もかも遅い。
みんな死んでしまった。他にどんな償いがある。
エリーゼの顔がすっかり腫れたのを見届けると、私はとどめを刺すべく杖を拾い上げて魔力を集中させた。
「……!! やだ……っ! やめでっ、殺ざないでぇ……!」
終わりだ。
これで少しは胸のつかえが取れるだろうか。
……クラウディア。
とどめを刺すため、魔法を撃ち出そうとしたその時。
「どきなさい、レキ」
魔杖の先に、レキが膝をついた。
エリーゼをかばうように両腕を左右に広げて、涙の跡が残る顔をこちらへ向ける。
「……どかない」
「生かして何の得があるの。……これでわかったでしょう。弱いってことはそれだけで罪なのよ」
アレン達にもっと実力があれば、あいつらに蹂躙されず済んだ。
クラウディアにもっと権力があれば、ディオスを追いやることもできた。
いつだって損をするのは弱い人間だ。
「これが現実よ。ここはそういう世界なの。奪われたくなかったら強くなるしかないのよ。これからは隙なんか作らない、邪魔者はみんな消す」
あなたも身に染みたでしょう。
だからもっと必死に魔法を覚えなさい。
今後はもっと厳しくあげるから。
「……見つけたよ、ローザ」
それでもレキは言った。
「……? 何を……」
「ローザのこと。……クラウディアさんの言った通りだった。ちゃんと、やさしいところもあったんだね」
私がやさしい?
どこがよ、何を見て言ってるの。
こんな風に人を傷つけることしかできない人間の、どこが。
それでも。
「みんなのために怒ってくれたんだよね。せめて思い出だけは傷つけられないようにって、戦ってくれたんだよね」
……違う。
そんなのどうでもよかった。
でもこのままだと、誰も浮かばれないと思ったから。
「誰かのためを思って動けるのは、ローザがやさしいからだよ。泣くだけで何も思いつかなかったボクより、ずっと」
違う。
泣けない私より……誰かのために泣けるあなたのほうがずっと。
「だから、駄目。無抵抗の人を傷つけちゃ駄目。……クラウディアさんが悲しむよ」
違う。
私は……。
「ねえローザ。他にできることはないの? このままじゃ、3人がかわいそうだよ」
他に、できること。
冷たくなってしまった3人。
もう後は眠ることしかできない3人。
……そうだ。
こんな風に晒されたままでは、きっとゆっくり眠れない。
「…………作らないと…………お墓を」
みんなが休んでいられる場所を、作ってあげないと。
そう思った時、私の手から力が抜けて杖が下がった。
それを見届けると、エリーゼは小さな呻き声をあげて気を失った。
「手伝うね。どうすればいいの?」
レキはそれを見届けると、手を下ろして私に尋ねてきた。
それから私達は、3人の体を洗って綺麗にした。
棺の代わりに毛布にくるんで、台車に乗せ“谷”へと向かう。
私は目当ての場所を探して、月明かりに照らされた草原を見渡した。
ほどなくして中央付近の小高い丘の上にそれは見つかった。
ウェインの墓だ。
その隣に魔法で3人分の穴を掘り、1人ずつ横たえていく。
土をかけ、最後に墓石代わりの水晶を乗せた。
「……これからは、静かに暮らせるからね」
神など信じていないが、それでもレキと一緒に手を合わせて祈る。
どうか、この家族がずっと安らかに眠れるように。
「…………私が、もっとしっかりしていればよかった」
後悔を呟くと、レキは私に抱き着いて大声をあげて泣いた。
その声は、星の瞬く空にいつまでもこだました。
第1章残り3話です!




