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17 母

こっそり1章を序章、2章を1章に繰り下げました!


1章かなり長くなってますが、パーティーメンバーとの出会いまでを書いているため、もう少々お付き合いください!


「おい、ババア。今日こそは覚悟しろよ」


「ディオス……お願いだから聞いておくれ」


「言い訳はもういい。さっさと権利書を寄越せ。さもないと……」


「やめろ! ばあちゃんに手は出させないぞ!」


「魔法だって覚えたのよ、もう許さないんだから!」


「くっ、この憎たらしいガキ共が……!」


「いいからさっさと全員叩きのめしちまおうぜ」


「やめてみんな! ディオス、こんなことする必要はないんだよ。この前、王都に行ってね、掛け合ってきたから――」


「な、何だと!? 上にチクりやがったのか!? てめぇ、それでも親か!」


「! 違う、違うの!」


「もう我慢ならねぇ……! 八つ裂きにしてやる……!」


「やめろぉっ!」


「痛っ!? アレン、てめぇ……ああああっ! こうなりゃもう皆殺しだぁっ!」


「駄目――――!」



 ◇◆◇◆



 私達が到着する頃には、日はすっかり山の奥へと落ちてしまっていた。

 それなのに、クラウディアの館には明かり1つ灯っていない。


「……!」


 無造作に開け放たれたままの扉が目に入り、背筋が凍る。

 思わず足を止めた私を追い越して、館の中に入るレキ。


「クラウディアさん! アレン君! フィーナちゃん! ジャスティさん!」


 結局こうなってしまった。

 あの女はどうしたのか。


 でも、まだだ。

 まだわからない。


 人の気配が無いのは、皆がどこかに攫われたからかもしれない。

 まさか本当に実の子や継母を痛めつけるほどイカれてはいないだろう。


 だって、あのクラウディアだ。


 どう見ても人畜無害なヒトの良いだけの年寄りだ。


 傷つける理由なんて無い。


 だから、さっきから鼻につく血のにおいは、気のせいだ。


 館に入る。

 エントランスの真ん中で、レキはへたり込んでいた。

 その目の前に、誰かが仰向けで倒れている。


 アレンだった。

 胸を刃物か何かで深々と抉られて、血を流して。


 その隣にはフィーナも横たわっていた。

 同じような傷を受けて、虚ろに宙を見上げている。


「……あ…………ああ…………」


 なんで。

 なんでこうなってしまうの。


「アレン……くん。フィーナ……ちゃん」


 2人はもう、話さない。


「あ…………あああああああっ! なんで、どうしてぇっ!?」


 2人に縋り付いて、レキは感情を溢れさせた。

 取り返しのつかない現実への悲しみが、どこまでも響き渡る。


「なんでこんなことになるの!? どうして2人がこんな目に遭わないといけないの!? 2人がなにをしたっていうの!?」


 わからない。

 答えようがない。


「初めての友達だったのに! また会おうねって約束したのに! こんなの酷いよ、あんまりだよ……うわあああああああああん!」


 魔法を教えた。

 一緒に食事をした。

 そんな時間はもう来ない。


 レキの慟哭が響くなか、厨房への扉が開いているのを見つける。

 行きたくなかった。でも、行かなくては。


 中には大量の食材がテーブルや床問わずに散乱していた。

 最後の別れに、私達にご馳走を振る舞うつもりだったのかもしれない。


 部屋の片隅で、誰かが、腹部を真っ赤に染めたまま壁にもたれかかるように倒れている。


 クラウディアだ。


「……!」


 その時、彼女の体がかすかに動いた気がした。

 まだ息がある。


「……ロ……ザ……ちゃん……」


 口端から漏れる声。

 居ても立ってもいられず、私はクラウディアを抱きかかえる。


「クラウディア、しっかりして! すぐに助けるから!」


 ――助ける? どうやって。

 もうポーションを飲ませるどころではない。

 傷は臓器まで到達している。今すぐにでも高位回復魔法で治療しなければ、体力の無いクラウディアでは助からない。

 無理だ、もうどうにもならない。


「あの子……たちは……」

「……生きてるわ。少し怪我しているけど無事よ、安心して」


 ……大嘘だ。

 それなのに、クラウディアは血の抜け切った白い顔に温かな笑みを浮かべる。

 私は腕に力が入りそうになるのを必死で堪える。


 どうしてそんなに穏やかでいられるのだろう。

 私とは大違いだ。


「……ありがとうね」


 別に、感謝されることなんか。


「この数日は……賑やかで、とっても楽しかった。ローザちゃん……たちが……来てくれた……お陰だよ……」

「……私は」


 大したことは何もしていない。

 私は私の思うようにしていただけ。

 なのに、何でそんなに満ち足りれるのよ。


「がんばってね、ローザちゃん……」


 何を。


「なれる、からね。あなたなら……すてきな貴族に……」

「……」

「誰からも慕われる……愛される領主さまにきっとなれる。だってあなたは、こんなにやさしいんだもの」


 違う。

 違うのよ。

 私はやさしくなんかない。

 それじゃ、駄目なのよ。


「まるで……娘ができたみたいだったよ。最後に、こんなプレゼントが待ってるなんて……長い間、生きて……よかった」


 違う、違う、違う!

 私はあなたが誇っていい人間なんかじゃない!


「クラウディアさん……!」


 後ろでレキの声が聞こえる。

 おぼつかない足取りでこちらまで来ると、膝をついて彼女の手を握る。


 クラウディアはしわくちゃな顔にもう1度、笑みを浮かべた。


 そして――



「生まれてきてくれて、ありがとう」



 それきり、彼女が言葉を口にすることはなかった。


 大声で泣きじゃくるレキ。


 泣けない私の代わりに、泣いてくれているみたいに。



 腕の中に、小さなその人は、いる。









 おかあさん。









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