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16 どうして

「レキがいなくなった!?」


 それは唐突な知らせだった。


 次の日の朝食時。

 私達は明日にはコーエンを発つことをクラウディア達に告げた。

 アレン達は残念そうに肩を落としながらも、しばらく会えなくなるレキと最後に町で遊びたいと言った。

 今日一日は好きにさせようと思って何も言わず送り出したのだが、昼を過ぎて日が傾き始めても、3人が戻ってくる様子はなかった。

 ようやく館に帰ってきたアレン達が口にしたのが、少し目を離した時にレキが消えてしまったという報告だった。


「おれたち町で遊んだ後、広場の料理屋さんでご飯を食べたんですけど、店を出た後、いつの間にかいなくなってて……!」

「どうしよう、レキちゃん、どこへ行ったんだろう……!」


 すっかり混乱した様子の2人を落ち着かせながら、私はすべきことを考える。


「あなた達はここで待ってなさい。私が探してくるから」

「で、でも……!」

「危険に巻き込むことになるかもしれない。お願いだから、ここにいて」


 もしレキが追手に攫われていたとしたら、アレン達を関わらせるわけにはいかない。

 私がなんとかしなければ。


「おや、慌てた様子でどうしたのですか?」


 その時、騒ぎを聞きつけたクラウディアと女剣士がこちらへやってくる。


「悪いけどここを頼むわ。レキがいなくなったのよ」

「なっ!?」

「……っ」


 それだけ告げると、私は魔杖を手に町へ急いだ。

 相手が追手ならば衛兵に協力してもらうなんて暇は無い。もはや時間との戦いだった。


(けど、だとしたら妙ね。私には何も仕掛けて来ないなんて)


 連中の標的には私も含まれている。

 レキだけを攫っても、私だけ雲隠れされてしまうことだって有り得ない話ではないのだから。

 単に最優先で確保しただけなのかもしれないが、どうも腑に落ちない。


(でもそれじゃ、町にはもういない……? 探すべきは内と外、どっち?)


 そうこうしている間にも町の中心部が見えてくる。

 手がかりを探すべく、ひとまずは適当に聞き込みを行おうとしたその時、男が1人、私の前に立ちはだかる。

 男はそのまま私を人気の無い路地裏へ誘導した。


「よう姉ちゃん。もしかして連れをお探しかい」

「……だったら?」


 チンピラの風体をした品の無さそうな男だった。

 汚い笑みを浮かべながら得意げに口を開いてくる。


「大人しく付いてきな。なあに悪いようにはしねえ――がっ!?」

「場所だけ言えば用は無いわ。早く吐け、ゴミ」


 男の襟首をつかむと、そのまま魔力を込める。

 手間を掛けさせてくれる。

 だがこれではっきりした。こいつらは()()()()()()

 とすると、ディオスの一味か。

 何のつもりか知らないが舐めた真似を。


「俺に手を出したら連れの居――い、イギイイッ!?」

「町のどこかにいるのは確定みたいなものだから自力で探してもいいのよ。おまえを焼いた後で」

「ひっ! に、西の郊外の廃屋だ!」


 それだけ聞いた私はさっさと雷魔法で男を昏倒させると、町の西側へ駆け出した。



 ◇◆◇◆



「レキちゃん、無事でいて……」


「ばあちゃん、どうしたの?」


「……そんな。もしかしてあの子が……」


「おや……あれは衛兵? もしやレキが見つかったのでしょうか」


「――おい、ここにジャスティという名前の女剣士はいるか」


「わたしですが、何か用でしょうか」


「町の住人からお前に暴行を受け大怪我を負わされたと訴えが届いてな。悪いが詰め所までご同行願おうか」


「えっ!?」


「違います! ジャスティさんはおれたちを守ろうとして!」


「先にわたしたちを襲ってきたのはあっちです!」


「とにかく確認が済むまで拘束させてもらう。大人しく来い」


「そんな! わたしは……!」



 ◇◆◇◆



 すでに空は茜色に染まり始めていた。

 クラウディアの館とは完全に反対方向である町の郊外。

 石や丸太などの建材置き場として使われているためか、建物の数もまばらで、明らかに使われてないと思われる廃屋は1つしかなかった。


「レキ、いるの。――っ」


 平屋の扉を開けた途端、左右から襲いかかってくる2つの影。

 初めからまともに話をする気もなかったか。

 だが遅い。

 振り降ろされた剣閃を杖でいなすと、反転して局所に一撃ずつ喰らわせる。


「ぎっ!」

「うげっ!」


 悶絶して床に転がる男共。

 身なりからしてさっきの奴の仲間に違いないだろう。


「おうおう。やるなあ姐ちゃん」


 奥から声が響く。

 壊れた窓から差し込む夕日に照らし出されたのは、2人の男。そして、口端が裂けてしまいそうなほどの猿轡を噛まされた挙げ句、ロープで体を縛られたレキだった。


「魔導士らしいが用心棒なんてよく引き受けたもんだ」

「っつーわけで得物を捨てな。オトモダチが傷物になるぜ」


 見ているだけで吐き気のこみ上げる嗤いを浮かべ、レキの頬にダガーの刃身を面白半分にあてがう男。

 私は溜め息を吐くと魔杖を放り投げる。


「くくっ。ザグザさんもすげぇよな。遠目で見ただけで人質を取りゃ寄ってくるってわかんだからよ」

「昔から汚ねぇ手が十八番だからな。ほら、お姉ちゃんが助けに来たぞ。何か言ってやれ」


 男はレキの猿轡を強引に外すと、その頬を持って強引にこちらと向き合わせる。


「ごめん……ぐすっ……ボク……!」

「あなたのせいじゃない。……すぐ謝るなって前に言ったでしょう」


 レキは私の顔を見た途端、ぽろぽろと大粒の涙を流す。

 そんな姿を見て一層愉悦に満ちた表情を浮かべる屑共。


「健気だねぇ。しかしよく見りゃいいオンナじゃねぇか。そうだストリップでも――」

「《ツイン・ライトニングスピア》」

「うごぉっ!?」「げひっ!?」


 同時に放たれた2本の紫電が奴らを貫く。

 杖が無ければ魔法を撃てないだろうという、ゴブリン以下の浅知恵が屑の屑たる証左。

 ダガーを突き立てられるよりも早く魔法を撃つなど造作もない。


「ぐっ……クソが……ひぃっ!」

「そんなに見たいなら見せてあげる」


 まだ意識のあった男の顔面に靴底を見舞う。

 敵の気配が無くなったことを確認してから、私はレキのロープを魔法で切って解放した。


「うう……ありがとう、ローザ……」

「大丈夫? 怪我は?」

「う、うん……」 

「……しかし、こいつら何考えてるのかしら」


 レキを攫って一体何がしたいのか。

 すると息をつく暇もなく、レキが口を開く。


「そ、そうだ! 早くクラウディアさんの館へ行って!」

「は?」

「捕まってすぐの時、ここに集まってたディオス達が言ってたんだ。今日でもう全部カタをつけるって……!」


 レキの話では、ディオスは前回の倍以上の手下を従えてクラウディアの館を襲撃する算段らしい。

 どうやらレキを攫ったのは邪魔な私を一時的でも切り離すためだったようだ。


「まさかそんな」

 

 そんな真似をしなくても、クラウディアはもう全部手放すつもりでいるのに。

 襲撃って何。誰と戦うっていうの。


(どうしてそうなるのよ。あんな……何の力も無い年寄り相手に)


 私が……得られなかったものを……。


 クラウディアのそばにはジャスティ(あの女)がいるはずだ。簡単に後れを取るとは思えないが、嫌な予感が拭えずにいた私は急ぎ館へと向かった。



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