終1 狙うもの
エノク→ダンクレオス→アクエリアス視点です!
新キャラばっかです!
「痛えよぉ……もう勘弁してくれよぉ……」
「死にたくねぇ……死にたく……」
「ゆるして……もうかえしてよぉ……」
天井のカンテラだけが光源の地下室に、男女の呻き声が響き渡る。
オレの優秀な部下が捕縛してきた『鋼の黎明』とかいう冒険者パーティーの連中が発したものだ。
椅子に縛り付けた3人は原型が無くなるほど全身至るところを切り刻まれ、あるいは打ち据えられていた。
全部、オレの配下の2人がやったことだ。
「もう知ってることは全部しゃべったじゃねぇかよぉ……!」
「レキをこき使ったことは謝る……だから許してくれぇっ」
「そんなのはどうでもいいっ! どうして霊器を匿ったの!? あんた達の目的は何!? そのローザとかいう女はどこ言ったのっ!? ぐすっ……早く言って! あたしだってこんなことしたくないのよ!」
「だから知らねぇんだよぉ! 今日の朝、急にレキを連れて行っちまったんだ!」
「金ならもういらない! だから助け――」
「話をそらさないで! むんっ!」
「ぐげっ、あがっ、痛ぇぇっ! ヤダ、ヤダ、やめでぐれぇっ!」
「イヤだあああああっ! ごぶっ! うげっ!」
「吐いてくれ、お嬢さん! 頼むから全部吐いて楽になってくれ! いいのか、お前の頬に切れ込みを入れたぞ! まだ隠し立てするなら、このまま皮を剥ぐっ!」
「やめ……やめて……うわ〜ん、ママぁ……!」
「〜〜っ! 許せっ!」
「あ……ギっあああああ! 痛アアアアアアアアア!」
部下の顔には涙が浮かんでいる。
当然だろう、誰が何の罪もない人間を好んで傷つけたいと思う。
「こんなに鉄球を血で染めさせてもまだ吐かないなんて! ふえーんっ……どうしてわかってくれないのよぉっ! このっ、このっ! このこのこのこのこのこのこのこのおっ!」
「げご、おえ゛っ……! たすげ……っ! やめ゛……っ」
「ゆるじ……っ! ぎっ、あがっ、お゛えっ」
「顔の次は髪だ! 頭の皮ごと全部引き抜かせてもらう! それが嫌なら話を……うう、神よ。私はなんて罪深いことを……」
「いたい……いたいよぉ……おうちに……かえりた……」
「!? 私がこれほど慚愧にかられているのに自分は帰宅の心配だとっ!? くきぃっ!!」
「あ……ぎあ゛っあ゛っあ゛っ!! やめでええええ引っ――いぎゃあアアアアアっ!!」
2人とも麦にたかる害虫にさえ憐れみを覚えるほどの善性を持つ者達。
大いなる救済のためとはいえ、拷問などという人の尊厳を蹂躙する行為に手を染めねばならない心の内は推し量れるものではない。
「もういいぞ、お前達」
「はぁ、はぁ……エノク様」
「ああ、また私は我を忘れて……可哀想に大丈夫かい、ゆるしておくれ」
頑張ったなと労いを口にして、オレは彼らのリーダーらしい男に近付いた。
「すまなかった。どうやら君らは本当に何も知らないらしい」
「……っ! てめ゛ぇ……フザゲんなよ゛ぉ……! 治ぜクソ野郎! 俺を解放じろっ!」
「悪いがオレ達のことを公言されるわけにはいかないんだよ。若者の命を奪うのは心苦しいが、理解してくれ」
「そ……ぞんな……っ! 助げて、助けでください! そ、そうだ! 俺ならローザ達を見つげで連れて来れます!」
「ああ! おれ゛だって、あいつとは付き合いも長いから、行きそうなところはすぐにわがるっ! だから、だから!」
「先輩がレキを連れてっだからこんな目に! 絶対見つげて殺じてやる!」
なりふり構わず命を乞う姿に、オレは感銘を覚えた。
そうだよな、誰だって死にたくないよな。
だけど心配するな。
「な、なにすんだ……?」
オレは懐からボトルを取り出す。
中に入っているのは偉大なるマレア様の加護を受けた聖なる水だ。
祈りを捧げながら、オレは彼らに水を撒いてやった。
「うぶっ……なんだこれ……!」
「これで君達は祝福された存在となった」
「……あ?」
これで君らの魂は清められた。
洗礼を受けた殉教者は偉大なる神の元で1つとなり、楽園への入場を約束される。
「キリー、パウンドメーカー。こいつらを解体しろ」
だから死を怖がらないでくれ。
辛いのはオレ達も同じなんだ。
「!? 待て! やめろ、来るなぁ!」
「う、嘘だろ! 頼む! いやだ! 見逃して!」
「やだやだ、ゆるして! 何でもするからぁ!」
家畜用の鋸を手に部下達は向かう。
何の罪もない人間を手にかけるのを、心の底から悔やみながら。
「無関係だったのね、ごめんなさい。でもあんた達の死は無駄にしないわ」
「許すだなんてそんな、許してもらわなければならないのは、こちらのほうだ……!」
「嫌だぁ、死にたぐないよお! マスター! ローザ! 助けでぐれえ! ――うぎゃっ……! グギュ……!」
「うギャアアアア! ゲボ……ブグ……!」
「わあ〜〜んママぁ! イギ……ギッ……ア゛ア゛ア゛ア゛!」
ぶしゃっ、ごりごり、ずしゅずしゅ――
人が死ぬ時はいつだって悲しい音がする。
こんなことになったのも組織の中にいる背信者がアレを逃したせいだ。
誰かは知らないが、その冒険者の女も繋がりがあったと見るのが妥当か。
せめて部下のどちらかでも顔を見ていればよかったのだが。人から聞いた人の特徴というのは存外あてにならない。
そうこうしている内に作業を追えた2人に、オレは指示を下す。
「オレは1度報告に戻る。お前達は引き続き“霊器”と女冒険者の確保に当たれ。早く事態を終息させて――救うぞ、この世界を」
「「はっ!」」
ローザとか言ったか。
どこの馬の骨かは知らないが、計画の妨害をするものは神と人類の敵だ。
必ず見つけ出して、洗いざらいしゃべってもらう。その後でしっかり仲間のところへ送ってやる。
◇◆◇◆
「うおおお〜ん! プテリスちゃぁ~んっ!」
生首になってしまった愛する部下を抱え、我は泣いた。
どうしてこんなことに!?
例の組織が血眼で探しているものを見つけたって喜び勇んで出て行ったと思ったら、死んで帰ってくるなんて!
なんだそれ~っ!
「誰だぁ! 我の大切な愛妾Aの首をぶった斬ってくれたのはぁっ! 奴らか! 奴らなんだな!? 八つ裂きにして食べてやるぅっ!」
「落ち着いてください、魔軍総督。少し聞き込みしたんっすが、冒険者の1人がいきなり“探しもの”を連れだしたそうで、どうもそいつがプテリスを殺したみたいなんっす。あと首をぶった斬ったのはウチっす。運ぶのめんどかったんで」
「ぼ、冒険者ぁ~?」
ウソだろ。例の組織じゃなくて、冒険者風情にやられたの!?
そんなに弱かったっけ? “前線”じゃ、上の下くらいのキルスコア出してたよねぇ!?
どっちにしても許されるもんじゃあない! 我は魔族にしては珍しく純情派で通ってるんだ!
「なんでも悪魔みたいな性格をしてる冒険者の女らしいっすけど」
「どうでもいいわ! そいつをここまで連れて来い! 我自らそいつをぶっ殺してやる!」
「そんな暇あるんっすか? 魔王様から招集かかってるんでしょ?」
「知るかぁい! 戦況が不利になる度に呼び出しやがって。我はあいつの奴隷じゃね~っつの!」
片手間で人間共の計画を調査してやってんだから十分貢献してるだろうが。まあ内容とかサッパリわかってないけどな!
そんなことより、愛する同胞を殺した人間の女。この礼は必ず……ん、待てよ?
「考えてみたら、その女はプテリスちゃんより強いってことになるんだよな?」
「はぁ……まぁ、結果だけならそっすね」
「じゃあ、むしろ我にはその女のほうが相応しいんじゃねぇの?」
「いやいや、相手は人間っすよ」
関係ね~よ。我は成果主義なんだ。
ミジンコだろうが竜に勝ちゃ、そいつのほうが上なんだよ。
そして強い奴は人間だろうが天使だろうが我は好きだぜ。魔族とタメ張れるんなら、相手としても相応しい。
それに今、悪魔みたいな性格だって言ったじゃん。案外気が合うんじゃないの。
「なんだか燃えてきた……! ラプトル、お前も探しに行け! それから……あれ、我はなんで生首なんか持ってんだ。きったね。とにかく人間の女ぁ! まずは1発戦ってお近づきになろうじゃね〜かぁ!」
「はぁ……いつも気分で動くんだから。まぁ、一応魔王様の命令通りだし、いいんっすかねぇ」
いい! いいぞぉ!
久々に気合が乗ってきた!
魔族に生まれて600年、ついにこのダンクレオス様に相応しい相手が現れたんじゃねぇか、ああ!?
◇◆◇◆
「どういうつもりだ、アクエリアス。王の御身を前におめおめ帰ってくるなど」
今にも戦闘形態を取ってきそうな表情のウルカヌスが私に詰め寄る。
「違う、あれは王ではなかった。精神の外殻だけが全く同じ構造をしているだけの、別物だった」
「巧妙に隠しただけかもしれないだろう。何か仕掛けがあるのかもしれないし、偽物というだけでも生かしておく道理は無い」
「徹底的に調べた上での結論だ。それに、一個の魂が命をかけた嘆願。無下に扱っては名誉にかかわる」
あの時、私と対峙した“何か”は、頭を下げて私に頼んだ。
『ぼくの命と引き換えに2人を見逃してほしい。この子はあなた達の“王”などでは無い。よく似ているだけの別人だ。その証左に、ぼくが消えた後で体のすみずみまで調べてもらって構わない。だから、命を奪うような真似だけはしないでほしい』
真摯に他者の命を思い願われ、ほだされた部分もある。だが事実、彼女の言う通りだった。
あれは、本当によく造られた王とは別の何かだった。
「攫われた王を案じる気持ちは無いのか。昨今の人間共の動きといい、裏があるに決まっている。もういい、私が行って直接王の居場所を吐き出させる。事情を知っているらしい、人間の女共々な」
「……好きにしろ」
去っていくウルカヌスの背を見つめながら、私は考える。
正確には、助命を乞ってきたのは、ひとりでは無かったこと。
彼女の中に宿る100には及ぶであろう魂が同じ思いを伝えてきたのだ。
どうか、この子の未来を奪わないで、と。
1つの肉体に複数の精神が宿ることは珍しくない。
だが、あれはまるで――
「……探りを入れるか」
嫌な予感がする。
この世界にとって我々にとって、大いなる破滅をもたらすような、邪悪なものの気配が。




