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11 そしてまた死に戻る 

レキ視点です!

 どうしよう、このままじゃローザさんが……!


 さっきまであんなに憎んでいた相手なのに。

 今までの仕打ちを思い返したら吐き気がしてくるのに。


 でも彼女の言ったことは本当だった。

 ボクは狙われていた、それもあんな化け物に。

 そしてローザさんはボクを守るために命懸けで戦ってくれた。

 生きて欲しいという思いが伝わってきた。


 助けたい、この人を。

 でもどうすれば。


 ギルドに戻って回復できる人を呼んでくる?

 駄目だ、ガルムさん達に見つかったらタダじゃすまない。

 あの人達はたぶんローザさんと違う。

 重傷のローザさんを見ても、平気で見殺しにしそうな気がする。

 だからといって治療魔法も使えず応急手当の知識も無い自分にはどうすることもできない。


 どうしてボクは何もできないんだろう。

 10年以上生きているのは間違いないはずなのに、これまで一体何をしてきたんだろう。

 情けなくて嫌になる。


『その人を助けたいの?』


「えっ?」


 その時、誰かの声が聞こえた気がして、ボクは辺りを振り返った。

 当然のように、周囲には誰もいない。

 相変わらず大雨が降り注いで水面を叩き、川がごうごうと音を立てて流れている。こんな状況では耳元で囁かれでもしなければ声なんて聞こえるはずがない。

 けれど今、確かに聞こえた。

 男性か女性かはわからないけど、透き通った声だった。

 そしてもう1度。


『助けたいんだね、彼女を』


「う、うん! だけど君はだれ? どこにいるの?」


『だったら、交代だ』


「……!? うぐっ」


 すると頭の中が揺さぶられるような感触がして、ボクはたまらず膝をついてしまう。

 それから脳裏に浮かび上がる小柄な人影。

 顔まではわからなかったけど、内側に現れたもう1人の誰かは、目と鼻の先を超えてボクに近付いてきた。

 そして完全に重なり合うと“誰か”はボクに代わって体を動かせるようになった。

 それは言葉通り、肉体を明け渡してしまったような感覚だった。

 視覚や聴覚はそのままでも、自分の意思では指一本動かせない。

 代わりに襲ってきたのは強烈な眠気。

 もしかしてこのまま体を乗っ取られてしまうのだろうか。


『大丈夫。任せて』


 不安が伝わったのだろうか。

 優しさに満ちた声が聞こえた直後、ボクの意識はあっという間に途絶えた。



 ◇◆◇◆



「初めて歩くのが、どしゃぶりの中だなんてね」


 ぐっしょりと濡れた体に髪と服が張り付いている。

 空を仰げば大粒の雨が顔を叩く。

 “この子”はあまり好きじゃないみたいだけど、()()にとっては新鮮だった。

 とはいえ堪能している時間はあまりない。


 白い顔で横たわる女の顔を覗く。

 おなかは血だらけ、呼吸も止まっていて顔は真っ白。

 胸に手をあてると、水の流れに体温を奪われた冷たい肌の感触だけが伝わってきた。


 驚いたよ。

 さんざんこの子を見下していたきみが、まさか命まで投げ打ってくれるとは思わなかった。

 ただの気まぐれだったとしてもちょっとは見直したかな。

 とはいえチャラにはできない。


「約束だから助けてあげる。でもタダじゃない」


 息はしてないみたいだけど彼女の魂はまだ冥府に降っていない。

 体の修復はそこに転がってる魔族の血肉を代用すれば間に合うし、ぼくの残り少ないライフを仲介すればすぐにでも甦れる。

 でもあいつらと渡り合うには力不足だろうし、何よりきみの性格が変わったとも思えない。

 またいじめられたりしたら目も当てられないからね。

 だから、ぼくは思いついた。


 ()()()()()()()()()()()()()()()


「まだまだピンチは訪れる。他に頼れる人間がいない以上、きみに守ってもらうしかないんだ」


 それがきみの贖罪だ。

 そのための力は貸してあげるから。


 全ての処置を終えた後、雨の向こうから誰かの気配がした。

 成人男性ほどの背丈をした蒼白い影がこちらへ近付いてくる。


「あちゃあ……こんなに早いなんて」


 現れたのは、一体の異形。

 宝石をはめこんだような双眸に照らされる顔立ちは水晶で彫刻した竜とでもいうべきか。角も牙も全てが透き通り、凶暴さとは別の神秘性すら醸している。

 戦斧のような長柄の武器を片手に持ち、ローブのような衣を纏う全身は、雨をはじきながら淡く発光していた。

 さっき遭遇した魔族に勝るとも劣らぬ存在だというのは、すぐにわかった。


「お迎えにあがりました。我らが王よ」


 人間などあっさり噛み砕いてしまいそうな顎から、外見にまったく似つかわしくない女性の声が漏れる。


「千年の眠りから目覚めて間もなくこのような失態を見せてしまい、お詫びの言葉すら思い浮かびません。ですが私やウルカヌスを含めた上級精霊が事態の収拾に動いております」


 精霊。

 つまり彼らも動いているということか。

 というよりこの雨はきみの仕業かな。

 明らかに水属性っぽいものね。


「人魔の戦いは日を追うごとに世界を血で穢しておりますが、まさか御身にまで手を伸ばすとは」


 戦争なんてどうでもいい。

 世界の行く末よりどんなものよりも、一番大切なのは。


「かくなる上は再度の大崩壊も考慮すべきかと。ひとまず、その卑小な器からの解放を先に――――……?」


 この子の未来なんだよ。


「……誰だ、お前は」


 恭しい振る舞いは消え、一転して敵意を向ける精霊。

 やっと気付いたね。

 でも困るんだよねえ、その質問。なにしろ名前なんか付けてもらったことないんだから。


「さて、どうしたものかな」


 2人で少しでもゆっくりできる時間を作ってあげないと。

 それがぼくの最期の仕事。


 性格の悪い魔導士さん。

 かわいい末っ子を、よろしく頼むよ。



 ◇◆◇◆



「ううん……あれ」


 ボクが目を覚ますと雨はもう止んでいた。

 雲間から青空が見え始め、川も穏やかな流れを取り戻している。


 どのくらい意識を失っていたのだろう。太陽の位置からするとそう長くはないはずだけど。

 ボクの中に入ってきたあの人は誰だったんだろう。いや、それよりもローザさんは。


 河原を見渡すと彼女はすぐに見つかった。

 おなかを確認すると傷は嘘のようにきれいさっぱり消えていて、胸もわずかだけど上下している。

 どうやら無事みたいだ。


 お互い助かったみたいだけど、これからどうしよう。

 追手は他にもいるのだろうか。


「とりあえず体をかわかさなきゃ」


 2人ともびしょ濡れのままだったことに気付いたボクは、ローザさんを引きずるようにして近くの小屋に向かった。

 ボクが運んでいる間も、ローザさんは自分の杖を手離そうとしなかった。



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