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034_三人の職業

「そ・れ・で・よ! 結局、どうしてこの三つの懐中時計は同時期に売られたのかしら! このままじゃ私、昼しか寝られないわよ!」


 昼に寝てるというのは、サボりでしょうか。

 普段の言動は大雑把なところもあるが、基本は真面目なカレン先輩。

 流石にサボるようなことはしない……はず。


 ……そう信じたい。

 一瞬だけこちらを見たジョセフ工房長が怖いです。


「そうでしたね、その問題が残っていました」


「そうよ、エルナちゃんには期待してるよ!」


「ご期待いただき、ありがとうございます。でも、時計を分解して分かることは、これ以上ありません」


「え? じゃあ打つ手なし?」


 さっきまでの勢いはどこへやら、カレン先輩はがっくりと肩を落とす。


「いえ、あくまでも時計から分かることはこれ以上ないという意味です。これ以上は時計ではなく、時計を持ってきた人の情報が必要です」


 時計は持ち主のことを雄弁に語る。

 でも、今回買取に来た三人の女性は、少なくとも時計そのものに強い愛着があるようには見えない。

 そうなると、時計から得られる手がかりは、ここまでだ。


 売りに来た女性たちの直接的な情報が欲しい。

 でも、この謎の答えには、すでにある程度の見当がついていた。

 手がかりは、三人目の女性――私がすれ違ったあの女性だった。


 あとは、私の推測を裏づける情報さえ得られれば……ジーク先輩のあの態度についても、答えが出るはず。


「どんなことが知りたい?」


「そうですね……職業が分かれば最高です」


「職業ね……一人目の女性は、たぶん仕立て屋だと思うわ」


「どうしてですか?」


「査定を急いでいたみたいでね。『このあとお客様の採寸があるから、早く店に戻らないと』って言ってたのよ」


「なるほど……それなら、服に関わる仕事をしている可能性は高そうですね」


「私もそう思うわね……えっと、二人目はね……」


 カレン先輩は記憶を探っているようで、両手の指でこめかみをぐりぐりと押していた。

 けれど、その努力も虚しく、めぼしい情報は思い出せなかったみたいだった。


「ダメね、特にこれといった情報はないわ……」


「見た目はどんな感じでしたか? 買取の名簿には『ニーア・ルーズベルト』さんと書いてありますね」


「うーん、ブロンドの普通の女性だったわね……服も特に派手じゃないワンピースだったわよ……」


 ブロンドの女性で、名前はニーア・ルーズベルトさん。

 身なりに特徴なし。

 ここから職業を割り出すのは難しそうだ。


 私とカレン先輩は唸って、頭を悩ませていた。

 すると、それまで無言で作業をしていたジョセフ工房長が口を開いた。


「ニーア・ルーズベルト……? ああ、娘と何度か行った宝飾屋に、ブロンドの店員がいた。たしか、そんな名前だったはずだ」


 ジョセフ工房長、娘さんがいたんですね。

 あの筋骨隆々のジョセフ工房長が、娘さんに付き合って宝飾屋を巡っている姿を想像する。

 ……なんだか、ちょっと可愛いかもしれない。


「ジョセフ工房長、ありがとうございます。これで女性全員の職業が分かりました」


 そして、同型の懐中時計が、どうして同時期に三つもここへ持ち込まれたのかも。


「あれ、エルナちゃん。三人目はまだ分かってないよ?」


「三人目については、先ほど思い出しました」


 三人目の女性。

 店の前ですれ違ったときから、どこかで見たことがあるような気はしていた。

 でも、すぐには思い出せなかった。


 ようやく分かった。


「とっても美味しいケーキを焼くことで有名なお菓子屋さん。『蜂蜜の庭』で働いている方です」


 店の前のガラス越しに、何度か見かけたことがある。

 いつかお金に余裕ができたら、絶対にここのケーキを食べてみたい。

 そう思って、何度も店先を眺めていた。


 すれ違ったときの、あの甘いケーキの香り。

 お菓子屋で働いているうちに、服や髪に染みついたものだったのだろう。

 あの匂いを思い出しただけでも、お腹が空いてきた。


「それじゃ、これで全員の職業が分かったね……えっと、仕立て屋、宝飾屋、お菓子屋か……うーん、共通点はないように思えるけど」


「いいえ、三人とも、商品を売るお店で働いています」


「ほうほう……えっと……それって重要なのかしら?」


「はい、とっても。この三名が同時期に同じ型の時計を持ってきたのは、それぞれが働いているお店が関係しているからです」


「仕立て屋……宝飾屋……お菓子屋……」


 カレン先輩は眉間に薄くしわを寄せて、呟く。


「カレン先輩なら、その三つのお店にはどんな時に行きますか?」


「そうね……仕立て屋には、気合いを入れたいときかしら。宝飾屋とお菓子屋は、仕事を頑張った自分にご褒美をあげるときね」


 私も自分へのご褒美でケーキを食べたいです……


「では、同じ日に三つのお店へ行くとしたら、どうでしょうか?」


「同じ日に服を買って、アクセサリーを買って、ケーキを買う……もしかして!」


 どうやら閃いたようだった。


「誕生日かしら?」


「誕生日、もしくはそれに類する祝い事の日なら、その三つのお店に行ったとしてもおかしくはないと思います」


 誕生日でなくとも、その人にとって大切な日なら当てはまる。


「そうね……同日に三つのお店に行く理由は分かったわ……でも、これと今回の三つの時計が持ち込まれた件とは結びつかないわよ」


「実は結びつくんです。その三つのお店に時計屋を加えると、三つの時計がここへ持ち込まれた理由が見えてきます……」


「……どうやら私にはお手上げみたいね……もう全部の答えを教えてちょうだい!」


「すみません、もったいぶったつもりはないのですが……推測に頼っている部分が多いので、間違っている可能性もあります」


 ある程度の筋は通っていると、自分では思うけど……


「間違っていてもエルナちゃんを責めたりしないわよ。だから教えて頂戴!」


 カレン先輩は両手を合わせてお願いしてくる。

 実は時計を分解できた時点で、私はすでに満たされていた。

 でも、自分の中には答えが出ているのに、それを外に出さないのは気持ちの良いモノではなかった。


「分かりました、私の推測をお話します」


「ありがと、エルナちゃん!」


「……でも、すみません、最後に確認なのですが……カレン先輩が今週、お仕事をお休みした日を教えていただけますか?」


「今週なら四日前に休んだわよ」


「なるほど……」


 そして、私はジーク先輩に視線を向けた。


「では、ジーク先輩は四日前、出勤していたということでよろしいでしょうか?」


 話が振られるとは思っていなかったのか、ジーク先輩はびくりと肩を跳ねさせる。

 それから、少し引きつった顔を私に向けた。


「うん。出勤していたよ」


 ジーク先輩は観念したように、小さく息を吐いた。


「……どうやら、本当に全部分かっているようだね」


次回は解答編となります。



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