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『その身体は、誰の魂で生きているのか』  作者: 紅玉道


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幕間:ある巫女の憂い

ダーチの集落、神木の祠。祭壇の前で、マシャハはミスダクへ呼びかけていた。

だが、集落からの反応はない。シェリエールが神託を受けてから毎日試しているが、繋がらないままだ。焦りが募る。嫌な想像が離れない。


「……あの娘なら、大丈夫」

それでも胸騒ぎは消えない。頭を振り、ミスダクへ向かった愛弟子の無事を、ただ信じていた。祈ることしかできない自分に、わずかな無力感を覚えながら。

「ナハール様……シェリエールをお見守りください」


マシャハの師、ナハール。歴代でも指折りと謳われた巫女。

だが、エルフとしての自分を捨てると言い残して、姿を消した。

その理由を、マシャハは知っている。夫と自分の罪が、最後の引き金になったことも。


シェスヴァフは今も変わらず動いている。日課である集落の見回り、長老会議、ジュネスの村への視察――。あの人は、自分にできることをやっている。

彼は人間を拒絶するのではなく、共存を選んだ。人間の統治者と何度も話し合い、当時の長老を説得した。そして、ジュネスの村を人間とともに作った。

マシャハもまた、悲劇につながらない道を探し続けている。ジュネスの村で人間の治療をし、瘴気の浄化にも積極的に出向いている。

迷いながら。挫折しながら。それでも、歩みを止めずにいる。


二度とあのようなことが繰り返されぬよう。


二人で決めた。償い続けると。どれだけ時間がかかろうとも。

許されることはない。――それでも。あの時から、ずっと。


――百七十年。

息子カイルを失ってから。

いいえ――何より、あの人の罪を共に背負うと決めた日から。


マシャハは、シェスヴァフの話を思い出していた。


――私は、人間の子を殺した。


それが、シェスヴァフの罪。

アナム。本来は、瘴気から魂を守るための器。それを、人間の魂を抜くために使った。

行き場を失った、カイルの魂を移すために。


マシャハは彼を責めた。

――なんて馬鹿なことを。

だが、責めきれなかった。あの時の彼の顔を、知っているから。

だからこそ、ともに罪を背負うことを決めた。

家には、あの日から二着の子供服が今も残されたままだ。



「マシャハ様!」

緊迫した呼び声に意識が引き戻される。


「どうしました?」

振り返ると二人のエルフが肩で息をしていた。

「西の森で、瘴気の発生を確認しました!」

(やはり、ここのところ多いな)


「あなたは、アナムとグラナを持ち、私に付いてきなさい」

「はっ」

答えると、若いエルフはペンダントと杖を手に取る。

「そちらは、ディリンに報告を。私は浄化に向かうが、すぐに戻ると伝えなさい」

「はいっ」

ディリンの元へ駆け出そうとするエルフに、マシャハが付け加える。

「それと……ミスダクの集落とは、未だ連絡が取れていないと」

「……はい」


「さ、行きましょう」

マシャハは、迷いなく瘴気へと向かう。

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