幕間:ある三人の決断
――十日前。三長老会議。
静まり返った部屋。窓の外では、風が木々を揺らしている。部屋にいるのは三人の男だった。
重い沈黙の中、最初に口を開いたのは――コワルバスだった。
「……行かせる」
短く、断定。
すぐに返ってくる、低く、鋭い声。シェスヴァフだ。
「却下だ。……何を考えている。……あの子を、一人で行かせるつもりか?」
コワルバスは視線も動かさない。
「……一人にはせん。グローを付ける」
間髪入れず、シェスヴァフは言い放つ。
「そもそもだ。何が起こるのかも分かっていない。そんな場所に巫女を送るなど――」
コワルバスが言葉を被せる。
「瘴気もある。巫女が行くべきだ。放っておけば広がる。あそこだけの話じゃない」
「マシャハが行くならそれでもいい」
「マシャハは今、集落の要だ。動かせるわけがないだろう」
コワルバスの提案に、即、否定を重ねたのはシェスヴァフだった。
「なら、選択肢は一つではないか」
沈黙。
その空白を、クーラマフが静かに埋める。
「……二人とも。感情で話をするのはやめましょう」
「していない」
「感情ではない」
ほぼ同時に返ってきた言葉に、クーラマフは小さく息を吐きながら指を組む。
「では整理します」
「災厄の詳細は不明。時期も、規模も、内容さえわからない。――今は大人数を動かせません」
「しかし、ミスダクの集落とは連絡が途絶。そして瘴気の増加は事実」
一度、間を置く。
「対処は必要です。ただし――」
続く言葉は、冷静だった。
「巫女一人を送るのは、リスクが高すぎる」
「もう一人いる。向こうの巫女だ」
コワルバスの一言。一瞬の静止。
「……生きていると?」
シェスヴァフの声に、わずかな揺れ。
「死んだとは決まっていない」
クーラマフが目を閉じる。
「仮定の上に仮定を重ねるのは、好ましくありません」
「動かない理由にはならん」
コワルバスは即答した。
「お前はいつもそうだ。全部揃うまで待つ。――その結果がどうなるか、もう見ただろう」
その一言で――空気が変わる。
シェスヴァフの目が、わずかに細くなる。
「……何が言いたい」
コワルバスは答えない。ただ、視線を外さない。
クーラマフが静かに割って入る。
「やめなさい。過去の話をここで持ち出す必要はない」
その一言に、僅かな重み。
シェスヴァフは何も言わない。だが、拳はわずかに強く握られていた。
「……シェリエールは、優秀です。しかし、未熟でもある」
クーラマフが続ける。
「だからグローを付けると言った。……早とちりで済めばいい。手遅れになるよりは」
コワルバスが返す。
クーラマフは、ゆっくりと視線を上げ、コワルバスに言葉を向ける。
「確認です、コワルバス。シェリエールを、娘を一人行かせるのですね?」
「何度も言わせるな」
「……あなたがそこまで言うのなら」
一呼吸。
「完全な反対はしません。――ただし条件があります」
その声は静かだが、揺るがない。
「護りを付けること。フィーア・イーナを持たせましょう」
シェスヴァフがわずかに目を見開いた。
(……俺が言うつもりだった)
コワルバスは鼻で笑う。
「ずいぶん大層だな」
「あなたの“勘”に賭けるのなら、それ相応の備えが必要です」
クーラマフは即答した。
「……いいだろう」
コワルバスが頷いた。
「……勝手にしろ」
シェスヴァフの言葉は突き放すようでいて、どこか、わずかに柔らかかった。
誰も勝っていない。誰も負けていない。ただ一つだけ、決まった。
――シェリエールは、ミスダクの集落へ向かう。




