幕間:ある四人の非日常
「クソがっ」
髭面の男は、頭に巻かれた包帯をさすりながら吐き捨てた。
「久しぶりの獲物だったのによ。あの女はムカつくし、あの男は強ぇしよ」
元々、この四人組は大きな街同士を繋ぐ街道沿いにいた。人も荷も絶えない、稼ぎの多い場所。だが縄張り争いに負け、押し出されるようにこの寂れた街道まで流れてきた。
「あいつら、せめて何か落としてねぇか?」
「お頭ぁー! なんか見つかりましたぜー!」
間延びした声が、茂みの向こうから飛んでくる。
「お、マジか! 金目のもんか?」
髭面の男が茂みをかき分けて近づくと、手下の一人が小さなペンダントを差し出した。
「これです」
「……ほう」
無造作に手に取る。青い宝石がはめられ、見事な装飾が施されている。吸い込まれそうなくらいに透き通った青――だが、どこか濁っている。ひんやりとしているのに、どこかぬるい。手を離した後も、指先に触れているような感覚。
「……なんだ?」
「変な感じしませんか?」
別の手下が、首をかしげる。
「……いや、綺麗じゃねぇか。これ、売れるぞ」
髭面の男は気のせいだと思うことにし、軽く笑ってみせる。手下たちの目の色が変わる。
「マジすか!」
「よっしゃ! 街まで売りに行くぞ!」
髭面の男はペンダントを握りしめる。その指先に、わずかな力がこもる。
「どこの街へ行きます? 一番近くても、五日はかかりますぜ?」
もっともな話だった。
「……あー。まぁ、のんびり行こうや」
少し考えて、肩をすくめる。
焚き火が、ぱち、と弾ける。夕暮れの森。四人は円を作るように座り、獲ったばかりの肉にかぶりついていた。脂が落ちて、火が揺れる。いつもの光景。
「……なあ、あの爆発、やっぱ変じゃなかったか?」
誰かが口を開く。別の男が、骨を噛み砕きながら応じる。
「二回……でかいのあったよな」
「火薬の匂いしなかったし、それに、なんか……風がぬるかった」
「あと……あの被さってきた、黒いモヤな」
会話が途切れる。誰もその先を言わない。胸の奥に、妙な引っかかりが残っていた。
いつの間にか、空は黒い雲に覆われ始めていた。今にも雨が降り始めそうだ。
髭面の男が、肉を引きちぎりながら言う。
「あの二人もピンピンしてたしな。大したことなかったんだろ」
軽く笑う。それに合わせて残りの三人も笑った。
「だよなぁ。ビビりすぎか」
笑い声は上がった。だが、誰も長くは続かなかった。引っかかりが残っている。
焚き火の明かりの中、髭面の男は黙って手元を見下ろす。そこにあるのは――あのペンダント。指で軽くなぞる。売れば金になる。それは間違いなかった。だが。
「手放したく、ねぇな……」
小さく、ぽつりと漏れた本音。近くの手下が顔を上げる。
「何か言いました?」
「……あ? ……いや、何でもねぇ」
一瞬、間が空く。ぶっきらぼうに返し、そのまま、ペンダントを握り込む。少しだけ、強く。
その時、焚き火の向こうで一人の手下が、何も言わずにじっと髭面の男を見ていた。
「……なんだよ」
「いや……なんでも、ねぇです」
そいつは、ゆっくり首を振る。だが、その目はペンダントから離れていなかった。
風が吹く。森の奥から。湿気を含んだ、わずかに生ぬるい風。焚き火の煙が揺れる。
その中に、ほんの一瞬だけ――黒い靄が、混じった気がした。
――ポツッ。
振り出した雨から逃れるように、四人は森の奥へ走り出した。




