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『その身体は、誰の魂で生きているのか』  作者: 紅玉道


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20/23

幕間:悲劇の記憶

「危険だとは思わなかったのか? また繰り返されると」

人間に武器を渡す――その発想自体が、シェスヴァフには受け入れ難かった。

「我々が渡さずとも、奴らは自分たちで武器を作る。それに、人間との衝突を避けるために、お前があれだけ動いたのではないか」

シェスヴァフが作ったジュネスの村が、今は交流の窓口として機能している。

「ふん。お前のことだ。あれは象徴だ、などと言うかと思ったわ」

「武器はあくまで武器だ。使い手次第で、守る力にも凶器にもなる。それに、悲劇の象徴など、残す意味があるか?」

コワルバスの問いにシェスヴァフは即答する。

「残す必要がないからこそ、我々は武器を捨てた。エルフを狂わせた象徴としてな」

しばし二人は睨み合ったまま黙る。お互いにわかっている。

見ている先に大きな違いはないと。そこへ至る道が違うだけだと。

「二度とごめんだ……友を斬るなど」

 コワルバスの小さな呟きに、シェスヴァフの目はかすかに揺らいでいた。


しばし終わりのない議論を交わしたのち、シェスヴァフが話題を変えた。

「空間のねじれ、とは何だ。過去の記録に何か残っていないか調べるか」

「確かに抽象的過ぎるな。それくらいしか出来ることはないだろう……」

 コワルバスにも、思い当たることがなかった。


 そして二人の話題は、もう一つの懸案へと移る。

「儀式はどうなると思う?」

シェスヴァフの視線は机に落ちている。コワルバスはかすかな笑みを浮かべながら返す。

「下を向くなどお前らしくない。何か問題が起これば対処するだけだ」

呆れたような顔でシェスヴァフが言う。

「シェリエールは、やはりお前の娘だな。さっきの顔は、そう決めている顔だったよ」

その言葉には答えることなく、コワルバスは一呼吸置き、シェスヴァフに質問で返す。


「俺からも一つ聞く。フィーア・アナムなら、時間はまだあるはずだ。なぜ、可能性が低いとわかる? エルフと人間の差か? だが、人間の魂をアナムに取り込んだものはいないはず」

空気が、少し張り詰めた。

今度はシェスヴァフが押し黙る。だがすぐにコワルバスに視線を向けて話し出した。

「……一度、取り込んだことがある」

コワルバスは黙ってシェスヴァフを見ている。

「取り込んで半日ほどだ。アナムから取り出した瞬間に、消えた……」

その目は後悔をたたえながらも、決して逃げていなかった。


「フィーア・アナムなら、アナムの三倍は長く保管できる。瘴気爆発から、今日で四日目」

コワルバスの言葉で、二人は同時に目を閉じ、しばし沈黙する。


「それでもすでに、時間切れか……」

コワルバスは独り言のようにつぶやく。そして。

「コワルバス、私はあの時……」

「それ以上は、今、必要のない情報だ」

何かを言おうとしたシェスヴァフを遮るように、言葉を被せる。

「問題は、魂が出るのか。そして、出た後どうなるかだ」

コワルバスはそう言うと、シェスヴァフに目をやり、すぐに視線を戻す。

「お前の昔話は、すべてが終わった後に聞く。他に、何かあるか?」

コワルバスの質問に、シェスヴァフの答えはシンプルだった。

「奇跡が起きるのか……見守るしかないだろう」

二人はそれ以上、言葉を続けなかった。


「ディリン、今の話だが……」

コワルバスは、部屋の隅に控えるディリンに声をかける。

「……はい。うたた寝をして、議事録が取れていませんでした」

ディリンは返事とともに、紙を一枚破り捨てた。

「すまないな」

それだけ答え、コワルバスは部屋を出ていこうと立ち上がる。

「ディリン、シェリエールから次の報告が来たらすぐに教えてくれ」

 シェスヴァフもそれに続いて立ち上がる。


「かしこまりました」

そう言うと、ディリンは出ていく二人を静かに見送った。

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