表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『その身体は、誰の魂で生きているのか』  作者: 紅玉道


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/17

第四章:再会 前編

二人が出てきたのを見て、俺は立ち上がった。

「……随分、長かったな」

いつの間にか日が暮れかけ、辺りは薄暗くなっていた。


「お待たせしました、ユウさん」

シェリエールは、ひとまず報告が終わった安堵か、少し表情が和らいでいた。

「俺たち、これからどうするんだ?」

「明日の朝、また指示するから今日は休めとのことです」


「あー、疲れた。早く家に帰ろうよ」

「アーリンの家、行っていいのか?」

俺の言葉に、アーリンはちらりとこちらを振り返り一言。

「別に嫌ならいいけど」


「……ありがとう」

(野宿しなくて助かった)


アーリンに案内され、中心部からやや離れた高台にある家に通された。

「二人とも、座って」

言われるがまま席につくと、アーリンがシェリエールの頭に手をかざす。


「……あの、アーリン?」

恐る恐る、という感じで声をかけるシェリエールに、アーリンは集中したまま答える。

「自覚してないけど、シェリエール。判断も感知も、弱まってるはずよ」

シェリエールは少し視線を落としたが、すぐに背筋を伸ばし目を閉じる。

「深くはない。まだ、何とかなる」


しばらくして、アーリンは手を離した。

「二、三日はゆっくりした方がいい。頭もスッキリしてくると思うわ」

「申し訳ありません。ありがとうございます」

シェリエールが頭を下げる。


「さて、次はあんただけど。――まず、何者?」

ド直球な問いだ。

「うーん、この身体はグローで、でも、俺は……ユウで」

「……グロー?」

そこで、俺たちはアーリンにまだ詳しい話をしていないことを思い出した。


俺とシェリエールは、ここまでの経緯を話した。

神託と、その調査のために来たこと。

瘴気爆発でグローの魂が消え、俺が中にいたこと。

この森でのことも。

アーリンは、時々難しそうなことをシェリエールに質問しながら、一通りの話を聞き終えた。


「……」

沈黙したあと、アーリンが口を開いた。

「やっぱり、あんたの魂は歪んでる。問題は、一つの器に二つの魂が混在していること」

その言葉にシェリエールが強く反応した。

「そんな……あり得ません……」

グローの魂は無かった。シェリエールはそう言った。でも今、そうじゃないと突きつけられる。

彼女の表情からは、何も読み取れなかった。ただ、握った手が小刻みに震えている。


「混在って言っても、一つは残渣ね。弾き飛ばされた魂の欠片が残ってるだけ」

アーリンは俺をただ見ている。

「今日は、あんたの瘴気を浄化だけする。そうしないと、視えにくいから」

そういうと、シェリエールの時と同じように、俺の頭に手をかざす。


「なあ、アーリン」

「なによ?」

俺はアーリンに聞いてみたいことがあった。

「アーリンはどうやって巫女になったんだ?誰でもなれるわけじゃないだろ?」

見た目は十歳くらいの少女だ。しかも前任者もいないのに、これだけ立派にやっている。

それがちょっと不思議だった。

「私のおばあちゃんが巫女だったの。お父さんから、すごい巫女だったって聞いた」

俺の浄化をしながら、ゆっくりと、少し誇らしそうに話してくれた。

「この娘はいい巫女になる、って言ってくれたみたいでさ。ずっとそのために勉強してたの」

素直にすごいと思った。才能があったのかもしれないけど、ちゃんと努力もしたんだ。

「アーリンってすごいんだな」

「――っ、ふん」


「シェリエール、しっかりしなさい」

アーリンが、まだショックから立ち直れていないシェリエールに静かに声をかける。

「ごめんなさい。私の力が弱まったばかりに……」


「もう!落ち込むのもおしまいっ」

「明日の朝、またあのおじいちゃんたちの話聞くんでしょ。寝たらスッキリするわ」

そういうと奥の部屋へ引っ込んでいった。どうやら、寝床を用意しているらしい。


(なんだ、やっぱりグローがいたのか)

俺は、深く考えていなかった。ただ、一つだけ気になった。

身体が勝手に動いていたことも、言葉がわかることも。……シェリエールが気になることも。

全部、“グローが中にいるから”なのか。


両親のものだろうか。きれいに整えられたベッドが三つ、準備されていた。シェリエールと会ってから三日目。怒涛の勢いで色んなことが起きて疲れていた俺は、すぐに眠れるはずだった。……だが、眠れなかった。


「だからっ、あの時はこう言えばよかったのよ!」

アーリンの声が、部屋に響く。元気だ。いや、元気すぎる。


「ねえ、聞いてる?」

「……聞いてる」

俺は、横になったまま答える。体は重い。それでも、眠気はなかなか来ない。

理由は一つ。……うるさい。


「シェリエールも!ちゃんと聞いてる?」

「ええ、聞いていますよ……でも、アーリンも休みませんか?」

少しだけ、優しい声音。

「大丈夫だって!私、全然平気だから!」

即答。


(……一番休んでないの、お前だろ)

心の中で突っ込む。さっきまで“休みなさい”と言っていたのは誰だったのか。


だが、それを口には出さない。

(しょうがないか)


アーリンが、なぜこんなに喋るのか。本当のところは分からない。ずっと一人でいて、久しぶりだからなのか。沈黙が落ちると――何かを思い出してしまうからなのか。


ふと、視線を横に向ける。シェリエールも、何も言わない。ただ、静かにアーリンの話を聞いている。止めない。いや、止められないのかもしれない。

やがて、アーリンの声も少しずつ途切れていく。

「……でね……それで……」

言葉が減り、間が増え――気がつけば、シェリエールの膝に頭を預けたまま、眠っていた。

(いつの間に、あんなに懐いたんだ?)


「……寝たか」

「ええ」

しばらく沈黙。今度は、自然な静けさだった。


「……明日から、いよいよだな」

誰に言うでもなく呟くと、ようやく眠りについた。



朝。外に出た瞬間、思わず息を呑んだ。この高台から見下ろした先に広がる光景は、どこか現実離れしていた。柔らかな光が、木々の間を抜けていた。静かで、穏やかで――まるで、時間が止まっているみたいだった。


「……綺麗だな」

ぽつりと漏れる。その言葉に、アーリンの表情がほんの一瞬だけ揺れた。だが――

「当たり前でしょ!ここ、私の集落なんだから」

すぐにいつもの調子に戻り、少しだけ、胸を張る。

「さ、行くわよ」

アーリンが、先に歩き出す。相変わらず元気だ。

(……こいつ、はしゃいでるのか?)


今日は、俺も一緒に話を聞かせてもらうことにした。何をするべきか、きちんと聞きたかった。

「繋がりました」

シェリエールの言葉とともに現れた影は一つ。コワルバスだけだった。

(あれ?この人……どこかで会った気がする)

俺は、妙な感覚を払うように頭を振る。



「おはようございます」

「変化は?」

挨拶への返答はなく、問いだけが返ってきた。


「昨夜は、アーリンの家に宿泊。異変は認められませんでした」

シェリエールはすでに、巫女としての顔になっていた。


「ふむ」

一言だけ返すと、すぐさま指示が始まった。必要なことだけを、ただ並べていく。


「今日から、お前たちにしてもらうことを伝える」

「一つ、瘴気の発生源の特定。可能な限り絞り込め」

「二つ、蛇との接触。何を知っているか聞き出せ」

「三つ、ユウとやらの魂の状態確認。不審なことがあればすぐ報告しろ」

「最後、増援が数日で行く。神隠しの調査、後の動きはその者の指示に従え」

「……以上だ」


「承知しました。途中の報告については、また明朝でよろしいでしょうか?」

「それで構わん」

今朝の報告は、それで終わった。


「よし、シェリエール、まずはどうする?」

「そうですね。まずは森を調査。あの蛇を探しながら、瘴気の濃い所を確認していきます」

そして、シェリエールは俺に向き直り、ゆっくりと告げる。

「夕方戻ったら……ユウさん、あなたの魂の状態を、アーリンに確認してもらいます」

「……わかった」


「じゃ、さっそく行こっか」

アーリンが、元気に先陣を切って歩き出す。


「え、アーリンも来てくれるのか?」

俺の問いに、当たり前のように答える。

「当然でしょ。シェリエールはまだ頼りないし、ユウは信用できないし。ちゃんと見てないと」

「でも、アーリン。危険が伴います。その……」

シェリエールが途中で言葉に詰まる。


「シェリエール……?まさか、私が子供だからって置いていこうとしてる?」

「い、いえ。アーリンの力は分かっています」


「でも、本当に危険です。昨日、瘴霊に襲われました。今日だって、その可能性はあります」

今度は、しっかりとした言葉で伝える。

アーリンもシェリエールを見据え、宣言する。

「ここは、私の集落。森のことだってわかる。なにより……私はミスダクの巫女なの」

「瘴霊だって、見たことはないけど……。でも、ちゃんとどんなものかは知ってる」

こちらは全く引く気配はない。


(これは、ダメって言っても、ついてくるだろうな……)

「わかった……。アーリン、案内頼むよ。その代わり、あんまり突っ走るなよ」


「は? あんたが指図しないでくれる?」

そう言うとさっさと歩き始める。俺も慌てて追いかける。

「おい、だから勝手に行くなって。みんなで一緒に行くから」

「じゃあ、早く付いておいでよ。ほら、シェリエールも!」


シェリエールもわずかに頬を緩め、その後を追う。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ