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『その身体は、誰の魂で生きているのか』  作者: 紅玉道


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12/17

幕間:統治者ではなく、父として

ギシ……

クーラマフは自室に戻ると、ゆっくりと椅子に腰を下ろし、壁に視線を向けた。

そこには、一枚の絵が飾られていた。

肖像画としては珍しく、笑顔で描かれた女性。淡い紫の、やや癖のある髪。


「フィオナラ……行ってくる」


脳裏に浮かぶのは、笑っている姿。よく喋る声。自分を外へ引っ張る存在。

クーラマフの一目惚れだった。自分にないものを持っていた。

お喋りで、感情的で――その全てがクーラマフには眩しかった。

彼女と話す時間が、いつしか楽しみになっていた。

(お前に告白した時が、人生で一番緊張したよ)


「よく、叱られたな……」

記憶の中のフィオナラの声が聞こえる。

――「そんなの、やってみないとわからないじゃない」


「そうだな……やらなければならない」

その呟きに、わずかに力がこもる。

「フィンレイは、必ず、生きている」


娘は出ていった。ミスダクの青年のところに行くと。止められなかった。

「他の集落に行くなど、後悔する。お前のためだ」

フィンレイは、静かに返した。

「私の幸せは……私が決める」


「ごめんね、あなた……あの娘、私に似たみたい」

フィンレイが出ていった日。妻はさみしそうに笑っていた。けれど、これでいいという思いもその顔には浮かんでいた。


ミスダクの集落で起きた神隠し。残っているのは、アーリンという巫女一人。

他の者の消息は不明。もちろん、フィンレイも。

ふと、長老会議の時のコワルバスの言葉が思い返された。

(まだ死んだと決まったわけではない)

「仮定を重ねるな、と言ったのは私だったな」

だが、今はその仮定こそがクーラマフの希望であり、賭ける意味だった。



――そして。止められなかった者がもう一人。

「……兄上は、どちらを選ぶのですか」

弟はそう言って自分から離れ、内乱の中で命を落とした。


「お前は間違えている。あいつは、必ず集落を不幸にする」

私は正しいことを言ったはずだ。――それなのに。

なぜ、説得できなかったのか。なぜ、強引にでも引き止められなかったのか。



「……もう、失わない」

目を開けた。絵の中の妻がこちらを見ている。しっかりしなさい、と言うように。


「そう。私は、お前のそういうところが好きだったんだ……」

自分にないもの。強い意志と行動力。そして、ほんの少し“わがまま”で……。


「フィオナラ……。今日、私も少しわがままを言ったよ」

そして、少し笑みがこぼれる。

「あの二人には、言えんな……」



クーラマフは早朝、集落から発った。異変の中にいる娘のもとへ。


一人の父親として――迷いはなかった。

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