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『その身体は、誰の魂で生きているのか』  作者: 紅玉道


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10/17

幕間:父と統治者の狭間で

「……今日もですか?」

食事を運んでいたエルフからの報告を受け、ディリンは思わずこぼした。


コワルバスが食事を摂らなくなって、十日になる。あの日を境に、一度も口にしていない。

森から精気を得られるとはいえ、食を断てば衰える。それはエルフでも同じだった。


「……はぁ」

ただでさえ、気の重い報告がある。――それでも、ディリンは長老の家へ足を向けた。

「失礼します」

薄暗く静まり返った部屋。椅子に座る初老の男――コワルバスは、ただ目を閉じていた。


「コワルバス様……お食事、摂られていませんね?」

「…………」

返事はない。


「……報告があります」

姿勢を正し、声を少しだけ引き締める。

「ミスダクの集落と、いまだ連絡が取れていません……」

空気が、わずかに重くなる。

「予定通りであれば……もう、到着しているはずです」


「…………」

コワルバスは微動だにしないまま。


「……シェリエール様なら、きっと大丈夫です。……グロー様も付いていますし」

その瞬間、ほんのわずかにコワルバスの指が動いた。

――それだけだった。


「……また、西の森で瘴気を確認。マシャハ様が対応中です」

「ここ数日、森のいたるところで断続的な発生が続いています」

そのあとも、報告の間、コワルバスはただ黙したままだった。

「――以上です」

ディリンは一礼をして部屋を出た。


「……ふぅ」

コワルバスの家を出て、一息ついたディリンはある男と会った。

「シェスヴァフ様」


「おお、ディリン。コワルバスへ報告か?」


「はい。いまだミスダクの集落と連絡取れておりません。それと、西の森に瘴気が発生しました。シェスヴァフ様にも、後程お伺いしようと思っておりました」

「ふむ。人間の足でも、そろそろ着いていてもおかしくはない頃か」

シェスヴァフの言葉にディリンは頷いた。

「はい。ですので……もしかしたら、トラブルが起きている可能性もあるかと……」


「そうか……。わかった、報告はこれで構わん」

「かしこまりました。では、失礼いたします」


態度には出さないが、シェスヴァフもやはり気になった。

(シェリエール、無事でいろよ……)


ディリンを見送り、コワルバスの家に目をやりながらシェスヴァフは呟いた。

「まったく……娘が心配で飯も食えんとは」

「倒れられても困る」

そういうと、そのまま扉を押し開けた。


ディリンは、コワルバスの家の方を振り返った。

かすかに聞こえるのは、シェスヴァフと、珍しく声を荒げるコワルバスの言い合い。


その声を聞きながら、ディリンは小さく息を吐いた。

(……ありがとうございます。シェスヴァフ様)


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