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第9章1 ケインと防具

 数日後、私はメルナドの街中で買い物をしていた。

 アークに紹介してもらった服屋で、新しい服を手に入れた。

 わざわざ商業ギルドの女性職員たちにお勧めの店を聞いて、さらに独自に調査もしたらしい。

 新しく商品が入荷する、そのタイミングまで教えてくれた。

 

 織物が名物のこの街で絶賛されているその布は、とても肌触りがよくて気持ちいい。

 思わずワンピースを二枚も買ってしまった。

「よくお似合いです」という言葉はお世辞ではなく、本当に私の雰囲気に合っている。

 買った服をそのまま着て、いい買い物ができたと上機嫌で店を出た。

 他に掘り出し物はないかと、あちこちを見て回っていた。


 今度は焼き肉のにおいに釣られない。

 そう思いながら歩いていると、冒険者の集団とすれ違う。

「よぉ」

 低い声で呼び掛けられて、大柄な男性の向こう側にいたのがケインだと気がついた。


「無事だったのね。よかった。今日はとまり木亭へ?」

「ああ。しばらく厄介になる。その前に、ちぃと、防具屋へ寄ろうかとな」

 へぇと私は声を上げた。

 彼はいつもギリギリの生活で、防具は修理で済ませていたはずだ。

「報酬と、火トカゲの魔石まで手に入ったからな」

「こいつ、大活躍でな。真っ先に飛び出して、手柄を独り占めだ」

「よせよ。お前らだって稼いだじゃねぇか」

 お金ができたから、命を守る防具を買い替えようと考えたのだろう。

 遠くを見る横顔は、今まで張り詰めてばかりだった彼の心に、余裕ができたように見えた。


「あの、私も一緒に行っていいですか?」

 私はケインに尋ねてみた。生活用品とは無関係の、武器防具の店は入ったことがない。

「――は?」

 ケインはまるで聞き間違えたかと言うような顔をして、私を見る。

 こんな弱々しい女が防具屋になんの用だと言っているようだ。

「ちょっと、興味があって」

 私は隠れて舌を出す。

 歴史の資料やゲームに漫画、そんな物でしか見たことがない。

 本物はどのようなものだろう。命に関わる物ならば、最先端の技術ではないか、と。


「……いいぜ。ついて来な」

 そう言って親指で店を指す。

 私はぱっと笑顔になって、彼の後を追い掛けた。


 大通りを過ぎて、人並みが切れたところに防具屋はあった。

 ケインがドアを押し、「邪魔するぜ」と言いながら中に入っていく。

 その後に続いて入ると、血にも似た鉄のにおいと、なめし革の渋いにおいが鼻についた。

 奥でカンカンと槌を振るい、防具を加工している音も響いている。


 「……へぇ」


 店の棚には様々な防具が並んでいた。

 体を覆う物、肩に当てる物、腕や足、頭に被る兜も置いてある。片隅には剣や槍なども並べられていたけれど、こちらは申し訳程度だ。

 武器は専門の店が他にあるのだろう。

 

 私は腰を落としてそれらを見た。

 牛や馬の革――だろうか。トカゲや蛇らしい革も使われている。

 

「おう。何か入用か若いの」

 奥から太い声が響いてきた。

 そちらに目を向けると、私よりも背が低いのに、岩のような体つきの、長く白いひげを生やした男性が立ち上がっている。

「ああ。新しい防具が欲しくてな。少しいい物を」

「いろいろ揃えておる。今の革装備より上となると――まずは熱で硬くしたボイルドレザーの胸当てじゃ。さらに守りを固めるなら、チェインメイルか、革の内側に薄い鉄板を仕込んだ鎧がええじゃろう」


 ケインは店主に説明された品に、じっと見入っている。

 革の継ぎや、ビスの打ち方。それから手に取って重さも確認していた。

 

 チェインメイルとは鎖帷子のことだろうか。以前日本の資料館で見たものとはかなり違う。ゲームで見た防具とも似ても似つかない。

 うーんと唸りながら私も見ていると、声が掛かった。


「そちらのご婦人はなんじゃ。とても戦えるとは思えん」

「あ、私はただの興味本位で――先日、街中で火トカゲに襲われたので、何か持っていた方がいいのかと」

 私は慌てて手のひらを向けて左右に振った。

 二人は顔を見合わせてハハッと笑う。

「そんなか細い腕で防具は持てん。大人しく家に引っ込んでいた方がええ」

「――そうですね」

 もっともな言い分だ。例え伝説の武器防具を手に入れたとしても、持ち上げられるとは思えない。

 軽めの革鎧ですら、私が着けたら歩くどころか転んでしまうだろう。

 最初からそんな物を使いこなせるとは思っていなかった。

 ただ少し――怖かっただけだ。


「それに――」

 店主は目を細めて私を見る。

「あんたは既に守られているから、心配は無用じゃ」

 と、不思議な言葉を口にした。


 どういう意味だろう。

 私は小首を傾げた。

 とまり木亭の人たちか、それとも火トカゲの脅威から守ってくれたクロードなのか。

 思いを巡らせている私の姿に、店主はただ笑うだけだった。


 とまり木亭への道すがら、注文を終えたケインは私にいろいろ話してくれた。

 

 オルグレンでの戦いのこと、騎士たちの活躍。

 攻撃を防ぐだけの防御魔法が、火トカゲを閉じ込め凍らせるという予想外の使い方をされたこと。

「そんな使い方があるんですか! 防御魔法ってすごいんですね」


 驚く私にケインは「守るっていうのは、攻撃以上に大切なことなんだな」そう、つぶやいた。

ここまで読んでくださって、ありがとうございます。


よろしければ、続きを読んでいただけると嬉しいです。

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