第6章1 日常に混じる違和感
今にも降り出しそうな空の下、私はサラと共に夕食の買い物に来ていた。
「今日は焼き肉でもと思ったんだけど、いいのがないねぇ」
「そうですね。煮込みに向く保存用の肉ばかりのような」
いつもなら活気にあふれた声が飛び交っているのに、妙に静かに感じる。
私たちはキョロキョロと市場を見回すが、どうも出店している店自体が普段より少ないようだった。
「しょうがないね。そのかたまり肉をもらおうか。使いやすいようにブロックに切っておくれ」
「へい毎度あり。90Gになりやす」
「ちょっと! それはかなり高いんじゃないかい」
「それが……橋が壊れて他の地域から肉が入って来なくなっちまって、先に来た人が買っちまったんでさぁ」
サラは絶句していた。橋が壊れた、ということは、他の物資も値上がりしてしまう。
「困ったねぇ。じゃあ70G分でいいよ。あとは豆と一緒に煮込むかね」
「麦も入れましょうか」
市場の人たちも、浮かない顔をしている。商品が来なければ、商売もできない。
「橋はいつになったら直るんで?」
「とりあえず木の板を渡して、最低限通れるようになるまでに丸一日、橋自体の復旧は、一週間で終わるのか、数週間掛かるのやら。馬車が通れるようになるには、かなりの日数が必要だろう」
「迂回するしかないんすか」
「近いところにもう一本橋があったらよかったんだが」
彼らの言葉を聞いていた私たちは眉をひそめた。
「結構日にちが掛かりそうですね」
「うーん、うちの人と相談して、値上がっていない食材で、別の料理を試してみるかねぇ」
「なら、私も魚料理を考えてみます」
こどもたちから川魚を譲ってもらって、お酒を掛けて蒸したらなんとかならないか……などと考える。
人々は片付けを始めていた。まだ日は高く、そんな時間ではないのだけれど、商品が売り切れてしまったのだろう。
橋が壊れた――それは、物流の要が断たれたということだ。
私はかつていた、現実世界を思い出した。
店の棚からお米が消え、水がなくなり、食料品は消え失せた。非常時に使われる乾電池や軍手などは数ヶ月見掛けなかった。
インフラが整っていたかつての地でもそうだったのだ。
この世界であれほどの危機が訪れたなら、命に関わるだろう。ここは私のいた世界よりはるかに脆い。
背中がゾクリとして身を震わせた。
もう少し、物流が分散していたら――。
先日契約したばかりの世界分散~ワールド~を思い出した。
荷馬車のガラガラという音や、馬の蹄の音。
ついこの前まで活気に満ちあふれていると思っていたその音さえ、今は迫り来る崩壊への序曲に聞こえてしまう。
ざわざわとした空気の中、私たちは市場を後にする。
不穏な影が人々の足元へと静かに忍び寄っていた。
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