第4章4 投資の種を蒔く
テーブルの上にはまだ小銅貨が積まれている。
一番上に乗っている、まだ作られたばかりの新しい銅貨が輝きを放っている。
今度はまとめて手に取った。
「メルナドには商業の他に、農業や運輸、冒険者ギルドなどもあります」
言葉の数だけ地図の上に置いていく。
「同様にラディアにも、他の国にもそれぞれの産業の数だけある」
数え切れないほどの小銅貨が、地図の上に散らばった。私はそれらを見渡して、言葉を続ける。
「これは、伸びる産業に賭ける方法ではありません。ひとつひとつには失敗もある。災害で被害を受ける街もあれば、資源が尽きる鉱山も必ず出る」
私はフロスケイルの小銅貨を地図の外によけた。
「国も、産業も、技術も、――そして人も、永遠に上がり続けるものなどありません」
そこで顔を上げ、クロードの瞳を射貫いた。
「最初から、外れを想定して組み立てる。ひとつが沈んでも他の産業がカバーする。広く、浅く、多種多様に、そして――長く、時間を掛けて。全てが同時に沈まないように」
部屋の中に、沈黙が訪れた。
クロードは身じろぎもせず、小銅貨と地図を見つめている。
「――つまり」
彼は重々しい言葉を響かせる。
「賭けではない。勝ち負けを当てに行く訳でもない」
私は黙って頷いた。
「だから、崩れにくい」
「はい。最初から外れは訪れると想定して設計された仕組みです」
「しかし」
クロードは鋭い視線で私を見つめ返す。
「それでも失敗は起こる。――その責任を、あなたは取れるのですか」
私はきっぱりと言い切った。
「私は、取りません」
一瞬、場の空気が凍り付く。
「正確には、誰かひとりが全てを背負うような責任は、作らないのです」
テーブルの下で震える拳を握りしめた。
「そのための、分散です」
「――面白い」
強く、意思の宿った声だった。
「この商業ギルド内では、決してたどり着けない発想だ」
彼は立ち上がり、私の隣に回り込んだ。
「あなたの覚悟に掛けましょう。いえ、賭けではない――仕組みに、乗らせてもらう」
そう言って、右手を差し出した。
一瞬、息が止まった。心臓がギュッと縮こまる。
しかし私は柔らかな笑みを浮かべ、彼の手を取った。
無骨な手だ。大きく厚く、そして包み込むような温かさがある。
力強く、確かな握手だった。
「世界を、作りましょう」
「ええ」
私は視線を動かした。
地図の上の小銅貨は黙ってそこにある。
それは、ほんの一粒の、最初に蒔かれた種だった。
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