第41話 執着、執念
9月28日。大阪、万博記念公園
時刻は17時32分。学校が終わりすぐに駆けつけた。
まだ夏の暑さも残り、太陽も公園を照らしている。
「遅かったわね。律儀に着替えてきたんだ」
「なあ、飛澤。こんなこと俺が言っても仕方ないけどさ、明美さんは復讐なんて望んでいない」
「あなたにお姉ちゃんの何がわかるっていうのよ! あなたのせいでお姉ちゃんは死んだのよ」
ガシャン!!
巨大なホチキスが俺を挟もうとした。
飛澤の呪いは、恐らく自身の持ち物(文房具だけかも)を巨大化、強化する。
この消しゴムの呪いが込められているな。
「あぶねえな、いきなり。後いいこと教えてやんよ、飛澤。俺はその程度じゃ殺せないぜ」
飛澤、俺を殺すなら狙うのは一つ。心臓のみだ。
本気の右腕を飛澤の前に打ち付ける。
飛澤は、巨大な消しゴムで盾を作る。
「それだけの波導を、お前今大丈夫か?」
「何の心配よ、人殺しのくせに今更全人ぶらないで」
こいつ……。
まあいい、我慢しろ凪人。
シュン! シュン!
次はボールペンか。
2本の巨大なボールペンが俺に向かって飛んでくる。
所詮威力だけ。力を与えられても、技術がない。
俺と同じだな。
俺は波導の探知をするのにも時間がかかる。だから、戦闘中はろくに使い物にならない。
それはこれからの課題だな。
でも今日は違う。相手も初心者なら、探知を使う練習だ。
「……!!」
いない、どこにいるんだ!
そうだ、あの体育館でもあいつに気づけなかった。
「じゃあね、木場くん」
グシュッ!
初心者として侮りすぎた。
心臓にシャーペンの芯が貫通した。
まずい心臓は。
まだ俺の不死は円城寺さん曰く不完全。
だから、心臓や脳を破壊されると死ぬかもしれないと。
再生が始まらない。
シオンが弱体化したことにより、前まで再生できたものも今は一時的かもだが、できなくなっている。
シオン……。
***
「やった! やったよ、お姉ちゃん」
「仇はとったよ! この人殺しを殺したよ」
彼女は歓喜した。姉の仇を取れたことに。
「……ぐっ」
だがその喜びも一瞬だった。
彼女の呪いが反動として帰ってくる。
「な……なにこれ? 全身が痛い。嫌だやめて、ねええ、やめてよ」
ジュウウ……。
「何? なんで? なんで? 木場くん?」
「そこ……で…… 黙って寝ていろ……」
「シオン、これでいいんだろ」
シオンはさっきまで俺が倒れた場所に立っている。
血はすでに蒸発していた。
「ああ、そうじゃ。呪いも波導に一部。導魔のお前様なら喰えるじゃろう」
***
マクドナルドにて。
「じゃあ命令だ。俺は死ぬよ。殺される」
「だから、俺を助けろ。できるだろ?」
「どういうことじゃ?」
「まだ俺の不死は完全じゃないだろ? だから心臓潰されちゃあ俺は生きれないだろ? だから死んだ判定で飛澤の呪いを達成できないかなって」
「まあできるじゃろうな、じゃがわしがお前様を助ける保証があるのか?」
「は、助けないのか? 俺を」
「ふん、わしはうぬの眷属じゃからのう。仕方ないのう」
「じゃが、失敗もあるぞ」
「分かってるよ、それだったらお前は晴れて独り身だ」
「違う、呪い娘のほうじゃ。呪いそのものが止められん可能性もあるし、呪い返しはどうする? 反動はあり得なく大きいじゃろうな」
「俺が吸うよ。お前を弱体化したように飛澤の波導だけを吸い取って俺が呪いを受ける」
「それにそれがダメなら、俺は潔く死ぬよ。その後の呪い返しはシオン、お前に任せるよ。頼んだぞ」
「呪いを受けるのか。まあ良い任せておけ、お前様が死んだ後は楽しませてもらおうかのう」
***
「飛澤、ちょっと我慢しろよ」
まさか、彼女以外の女の子の首に歯を立てるなんてな。
シオンの身体を食ったようにそれを波導だけにするだけだ。
「やめて、木場くん。何してるの?」
痛い。駄目だ、これが呪いか。鼻から血が。目も充血してきた。
脳みそも破裂しそうだ。
「お前様!!! 避けるんじゃ」
ズドッーンッ!
なんだ? 何があった?
熱い。右腕がなんだこれ。
右腕がどんどん黒く壊死していく。
「お前様、大丈夫か?」
「飛澤は? どこいった?」
「呪い娘なら、向こうに飛ばされた。じゃが厄介なことが起きたな。まさかあの呪いが実体化しおったぞ」
「実体化? どういうことだ?」
「簡単に言えば、導魔のようなものじゃ。呪いが生物に成ったんじゃ。お前様、右腕を一度切れ。呪い死ぬぞ」
そういってシオンは俺の右腕を切った。
血が噴水にように噴き出た。
「い、いってえ……」
「お前様、早う立て。やつを祓わなければならんぞ」
「分かってるよ。飛澤は助かるんだよな?」
右腕が静かに元に戻っていく。
「さあな」
「お前、さあなって」
「お前様、ずっと思っておったことじゃが。わしを助けた時からじゃ。お前様のそれは優しさでも強さでも無いぞ」
「自分を襲ったものを助ける、許容するのがいい人間だとでも思っているんじゃろ?」
「違う、俺はただ」
「ただ?」
「自分のせいで傷つく人間が増えるのが嫌なんだよ」
「そうか、じゃああの導魔も殺さなくてよいな。そのまま放置しようかのう」
「何言ってるんだよ? ふざけるなよ」
「ふざけてるのはお前様の方じゃぞ。誰も傷つかないように? 舐めるんじゃないぞ。誰かが死ぬのは当たり前じゃ、誰も死なないようにするなんて無理なんじゃぞ。お前様も生きていてわしも生きていて、お前様の恋人も生きている。そんなこともう、この先二度と起きないと思って戦え」
「さもなければ、何も救えんぞお前様は」
「あの呪い娘も助けれないし、このままじゃ世界が終わるかもな。呪いというのはそういうものじゃぞ。決めろ、何を助けるか」
「俺は、俺を助ける。だから戦う」
「自分が傷つくのが嫌なのも受け入れる。絶対に自分が傷つかないようにするそれだけだ」
「よい、分かった。尽力を尽くそうか」
「それをいうなら力を尽くそうだな。てか、昔はそっちだったのか?」
すまないな、シオン。俺はずっと誰かを守る事を勘違いしてたよ。
時には何かを捨てないといけない。自分以外の何かをな。
だから俺は戦う。俺は弱いんだ。
ありがとう、シオン。俺はまた強くなれたよ。




