第40話 大作戦会議
勘弁してくれよ……。
外まで追うことはできなかった。
目立つ行動はしないようにという思考が邪魔した。
体育館に血を残して出ていけなかった。
問題が解決したらまた問題が起こる。
てか、俺の血ってこんなに早く蒸発するんだ。
俺の血は一瞬で蒸発していた。
出て行ってよかったと思うぐらい。
そっか、導魔の血になっちゃったんだ。
そして、俺は次の日も、次の日も飛澤に接触しようと試みた。
それでも、あの日以来学校にすら来てないし、女子の家なんて聞けるわけない。
くそ、駄目だ。イラついたら。
あと一週間もないんだ。
佳紬由さんに相談するべきか?
でも今は出張中だ。
俺が何とかしないと。
***
俺は自室のベッドで深く沈み込みながら考え続けた。
じゃあ、もし戦うことになったら? 殺すのか?
いや、できないな。助けるしかないさ。俺だってそうやって生きている。
でも一つ疑問が残る。
なんであいつあんなに波導の調整うまいんだ?
俺よりもうまかった。
全く気付けなかった。俺なら気づかれただろうな。
それに、妹が同じ学校なんて偶然あるか?
『あなたは、ある組織に狙われているわ』
組織?
静香を攫ったナイフの男も、ボスがなんとかって。
俺は組織に狙わているのか。
俺というより、こいつか。
影の下に視線を落とす。
どこまで計算されている?
妹が同じ学校なのはどうなんだ?
そうか、妹が同じ学校だから、明美さんが俺に当てられたんだ。
じゃあ、飛澤の力の正体は組織からによるもの。
その時、俺の影が水面のように揺らいだ。
!!!
影の中からあの、銀色の髪の少女が姿を現した。
「シオンか……?」
「よう、久しぶりだな」
あれ以来、姿どころかいるかどうかさえ分からなかった。
「……何じゃ、お前様」
「……化け物に、つままれたような顔をしおって」
「……それを言うなら、狐だろ」
「はは、まあそんなことはどうでもよいな」
こいつ、確実に弱々しくなっている。
あのショッピングモールでは考えられないほどの、威厳の少なさ。
港のころよりもこうなんていうんだろう、殺気が無くなったのかな?
身体も、俺と同じぐらいの大きさになっている。
「我が主人様よ、もう一つ疑問に思わないといけないことがあるじゃろう」
「なんだ?」
「あの小娘の力というより、波導の量じゃろう。まさか見ておらんかったのか?」
「量?」
「ああ、あれは普通の人間が出せる量じゃなかったぞ。あのハサミも大きさが変わっておったからのう。ただのハサミで人間の胸を貫通できないじゃろう」
何をいきなり言いに出てきたんだ?
こいつ。
「なんじゃ? 不服か? わしの力を借りるのが」
「……」
ああ、不服だよ。
そらそうだろ。
俺自身の力で解決するよ。
お前に頼るぐらいなら、佳紬由さんに頼るさ。
シオンは深くため息をついた。
「なあ、我が主人様よ、わしたち二人はあの日」
シオンは静かに歩み寄りベッドに座っている俺の横に座った。
「お互いの血肉を喰らい、傷つけ殺し合い、存在を否定し合った」
「どうじゃったか、女王の味は、最悪じゃったろう?」
「わしはお前様を許さんし、我が主人様もわしを許さんじゃろう。そして許しをもらおうとも思わんじゃろうな」
「じゃが、わしらはそれでいいんじゃ。お前様は願ってもないじゃろうが、わしとお前様の波導は繋がり合い、主従関係が結ばれておる」
「そして、わしは我が主人様の波導に縛られてしまった」
「わしらは運命共同体。いや、運命そのものなのじゃよ」
シオンが俺を見つめてきた。
ああそうだよ、こいつは俺の家族だ。
それは否定もしないし訂正もしない。
それでも、でも……。
「お前様はこの先、何十年と生きる。いや何百年もか」
「……少なからず導魔成分があるお前様は、いつ死ぬのじゃろうな?」
「家族も死に、友人も死に、恋人も死ぬ」
「我が主人様の周りはみな、老けないお前様を見ながら死んでいく。じゃが、我が主人様は今の姿のまま年を取る」
「それから、わしと永劫の時を二人きりですごすかもしれんのう」
「1000年という永劫の時はただただ色あせていた」
「なあ、嫌じゃろ? お前様。殺してくれんか? このわしを」
「ーーシオン!」
俺はシオンに叫んだ。
「冗談でも、本気でもそんなこと言うな。俺はお前を殺さない。それはあの時決めた。これがどんな結果を持とうともな。一生生きていく」
「一生、生きていくか」
シオンがフッと笑った。
「面白いな。わしら、導魔に使う言葉としてはピッタリじゃな」
「じゃが、お前様よわしを呪うでないぞ。時というのは残酷じゃ。いつかこの選択を後悔するときが来る。1000年生きたわしは、この世を良いものとは思えんかった」
「お前様よ、生きるという意味も死ぬという意味どちらも勘違いするでないぞ。それに導魔になるということもな」
「お前様がわしを選んだことをわしは後悔させてやる。所詮人間と導魔の隔たりじゃぞ」
「そうか……。いいさ、後悔したってお前が生きてさいれば」
「俺も後悔させてやるよ。お前が死のうとしたことを。俺といて良かったて思わせてやる」
「やってみるがよい、人間よ。わしはもう2度と退屈は嫌じゃぞ」
そう言い放ち、シオンの身体が、再び黒い影へと溶け込んでいく。
はー……全く手のかかる同居人だよ。
シオン、お前は俺の家族なんだぜ。
俺がお前を幸せにするとか、かっこいいことは言えないけど、俺と一緒になったこと、絶対後悔はさせないよ。絶対。
***
ということで、明後日か。
マクドナルドに寄って静かに考える。
どうすれば飛澤を助けれるのか。
このままじゃ戦ってやっつけるしかないぞ。
でもどうすれば、殺さなくても傷つけないといけないのか。
俺は明美さんに救われた。
明美さんがいたから結果生き残った。
「まだ考え事をしておるのか? 我が主人様よ」
「シオン、なんで出てきた。隠れろよ」
「別にお前様のことなど誰も見ておらんよ。わしがここにいても怪しまれん。それにまだお前様を助けてないからのう」
「なんだ、もう出てくる気になったんだ」
「別にお前様がわしを後悔させると言った。それを見たいだけじゃ」
「ここで本題じゃ、あの小娘の波導はな、呪いじゃ」
「呪い? あのー藁人形とかの?」
「ああ、おそらく組織? などというものから与えられたんじゃろう。つまり、奴を殺すかお前様が死ぬかじゃないと呪いは解けない」
「それによ、島で出会ったあの女がいなければ、お前様はあそこまで傷つかなかったじゃろう。何を気にしておるんじゃ?」
「それでも傷つけれない。殺すことはできない。明美さんも被害者だなんて言わないさ。でも妹を攻撃していい理由にもならない。明美さんを殺したのは紛れもなく俺なんだ。それでも俺はここで死ねない」
「明美さんの言葉をあいつに届けないといけない。復讐に駆られちゃダメだ、明美さんはそれを望んでいない」
シオンは俺が頼んだプチパンケーキを頬張りながら話を聞いていた。
ちょっと待てそれは俺のだぞ。
「ふん、そうじゃな。まあそんなことはやつに届かんじゃろうな。なんせただの言い訳にしか聞こえないものな。人間一人殺すぐらいで悩みすぎるなよ。お前様」
「お前様、他に食いもんはないのか?」
「まあ頼んだら食えるけど、何がいいんだよ? 甘いのか? しょっぱいのか?」
「どちらでも良い。人間の飯を食えれば」
「お前は今、俺の波導がないと生きれないんじゃないのか? 飯でもエネルギー吸収できんの?」
「いや全然じゃ。我が主人様がおらんとわしは生きれんよ。ただの嗜好品じゃよ」
「そうか、まあいいや。仕方ない頼んでやるよ」
「じゃあ、10個一気欲しいのう」
「10個なんて頼めるか! 後一つだけだ」
「なんじゃと! このパンケーキとやらもとてつもない味じゃし、他のもたくさん食わせるんじゃ。人間よ、なぜわしにこれを隠しておった」
「知らねえよ。別に隠してないしな」
ポチポチとスマホを操作する。
まあセットぐらいは頼んでやるか。
「まあいいや、頼んでやったから本題だ」
「他の解決策は無いのか? 極端すぎないか?」
「波導というのはそんなもんじゃ。特に呪いとまで行くとな」
「無理な力は無理な結果を生む。あの娘は相当のデメリットがあるじゃろうな」
「じゃからこそな、やつを救うならお前様が殺してやれ。そうでもせんとやつは一生呪いに苦しむことになるぞ」
シオンは、頼んだハンバーグセットを一目散に開けて食べた。
ムシャリムシャリと音を立てて、バーガーからポテト、ドリンクを一気に食べ干した。
そうだな、どうなんだろうな。殺すのが全員幸せになるのか。
違うだろ。なんで楽な道を歩もうとしてるんだ。
俺が傷つく道ならいくらでもあるだろ。
「なあ、シオン。一つ頼みを聞けんか?」
「わしはお前様の眷属じゃぞ? 頼みは聞けんが、命令なら聞いてやろうか」
「よしじゃあ命令だーー」
これが成功すれば、助けれるかもしれない。
あいつを。




