都会モンがなんぼのもんだし②
「ゔぅ〜さっぶ。帰ったらゼッタイもっこもこのコート作っちゃるっ」
こんな愚痴がベリルの口から溢れるようになったころ、ようやくタリターナの北方領地に到着。
畑は荒れたまんま放ったらかし。狩りにいってる痕跡もまるでねぇ。
そこにはここの連中がどうやってメシ食ってんのか不思議になるほど寂れた寒村があった。
村の者らは予期せぬ来訪者を戸から一瞥しただけで、まったくの無反応。
ただ一人だけ、代官らしき人物が出てきたのみ。
「オメェが代官かい?」
「あの……どちら様でしょうか?」
こういう場面でいつもならしゃしゃってきそうなベリルだが、寒さには勝てないらしく未だ背中にへばりついたまんま。
「俺ぁアセーロ・デ・トルトゥーガって者だ。タイタニオ殿からの手紙を預かってきている」
「さようですか……。申し遅れました。私がこの村の代官、フィリオでございます」
「じゃあ、まずはこいつを読んでくれ」
代官のフリィオは手紙に目ぇ通すと、胡散くさげに俺らと手紙に視線を行ったり来たり。
ややあって、
「……さようですか」
と、見るからに渋々っつうツラ。
つづけて「荒屋で恐縮ですが」と断りをいれ、滞在場所へと案内してくれた。
なんつうか……。
「ヤな感じー。マジ疑り深そーだし」
「そう言うなや」
一息つく間もなくベリルがブー垂れる。
俺も思ったが、いちいち口にはせん。
「寒い土地はそれだけで生きていくことが難しいのです。しかもここは山奥にありますので、滅多にこない来客に戸惑ってもいるのでしょう」
ノウロは慣れたもんだと余裕の構え。
「つーか、ここって雪降ったりすんのかな?」
「時期によるでしょうけど、積もるのでは」
「こんなお家で大丈夫なーん?」
たしかに隙間風がびゅうびゅう刺してくるし、雪なんか降った日にゃあ、その重みで潰れちまいそうだ。
ましてや領主から紹介された貴族を泊める家でこれだもんな。他の家屋がどんなもんかはお察しだぜ。
「ふーむ。まずは生活環境からかなー」
…………いまのは幻聴の類か?
そうであってほしいところだが、コイツの声はよっく聞こえるんだよなぁ。
「まず寒くないお家でしょー、それから工場建てるじゃーん。んで——」
「おい待てやベリル」
やっぱり聞き違いじゃあなかったらしい。
「なーにー」
「悠長にも程があんだろ」
「いやいや、こんな寒くっちゃ紙作り捗らないってー。お水使うんだしさー。それに村の人たちマジ閉鎖的だし」
「代官以外は顔すらまともに拝んでねぇがな」
「それそれー! あーしらぜんぜん歓迎されてなくなーい。そーゆーよくない雰囲気のまんまお仕事お願いしても、きっとテキトーやるに決まってるし。あーしなら『ウゼーし』って、めっちゃ雑にやっちゃうかも」
ああ、オメェならわざとヘマこいて二度と頼られんように振る舞いそうだな。つってもそこまで器用な連中には見えねぇんだが……。
「父ちゃんぜんぜんわかってなーい」
「なにが?」
「陰キャ体質ナメちゃいけねーし。あーゆー人たちって、マジで他人を拒むためならなんでもやっからね。わざと風邪引いたりケガしたフリなんて余裕だもん」
「で、なにが言いてぇ」
「だからー、あったかいお家建ててあげて、仲良くすることからはじめねーと!」
ずいぶんと気の長ぇ話だぜ。しかも、いくらか含みがある気がするのは俺の気のせいかい?
「小悪魔会長にはなにか策があるようですね」
「ひひっ。わかっちゃーう」
「それはもう」
俺にもわかるように話せや。
「だいじょぶだいじょぶ〜っ。父ちゃんはあーしのゆーとーりにしとけばいーしっ」
いちおうノウロに『勝算はありか?』と目で尋ねると、ニッコリ頷くのみ。
ベリルに信用は一切ねぇと断言できる、だがノウロがヘマ打つとも思えん。ここは言われたとおりにしておくか。
◇
翌日——
「皆の衆。領主タリターナ様からのお達しで、我々はトルトゥーガ様の事業のお手伝いをすることになった」
この主体性がカケラも見当たらん代官のセリフから、作業ははじまる。
集められた村の者らはブツクサ文句垂れることすらしやがらねぇ。ただ迷惑そうな目を向けてくるのみ。
土地土地で生き方ってのはある。そんくれぇ俺だって心得てるさ。
ここでは余計なことはしない、目立たない、大人しくしておく、ムダな体力は使わない。そういう振る舞いが美徳とされてんだろう。
なにもない土地柄から考えて理に叶ってんのかもしれねぇがよ、なんとも居心地がよくねぇ空気が漂ってやがるぜ。
しかしだ、こんな雰囲気なんぞベリルが気にするわけはなく……。
「はいはーい。んじゃさっそく四人組に別れちゃってー」
しかし反応は、芳しくない。
ここでベリルは想定どおりと言わんがばかりの性悪な笑みを浮かべて、
「いひっ。余った人はあーしらと組んでもらうし」
急かす。
この煽りもあって、村の者らはようやく重い腰をあげた。
そこまで他所者といっしょはイヤか。
こう思わせるほど遠慮なく我先にと四人組を作っていった。
んで、一人余ったのは……。
「アンタのお名前はー?」
「……プルパ」
と名乗る五つか六つくれぇの娘だ。見るからに、なにやら事情がありそうな陰りのある表情。
ガキが余り者にされたのを見ただけで、だいたいの察しはつくがよ。
「あーしベリル。こっちは父ちゃんで、あっちで仕切ってんのはワル商人ねー。よろ〜っ」
「…………ん」
微かに頷くだけか。
こりゃあ面倒をみる方もみられる方も、どっちにも責任がありそうだ。
他所の土地の話だから首を突っ込むつもりはねぇがよ、あまり気分のいいモンじゃあねぇな。
こんな心中まで冷え込んじまうような空気のなかでも、ノウロはテキパキと組になったら連中へ指示を伝えていく。
ちなみに最初の作業は、
「よーし。一番に終わらしちゃおーう、おーう!」
穴掘りらしい。
……なんつうかよ、俺ぁ事あるごとに穴掘ってばっかりだな。




