都会モンがなんぼのもんだし③
サクッと縄張り済ませて穴掘りをしているんだが……、正直うちの組、四人中三人が役立たず。
ベリルもノウロもこういう作業ではお荷物。ついでにプルパっつう村のチビ娘も例外なく、な。
しかし俺の背中で楽してるベリルとは大違い。
「…………んっ。…………っ」
手を土塗れにして、プルパは懸命にできることをやろうとしている。幼さ由来だけでは説明つかん不器用な直向きさでもって。
これがなにから生まれた姿勢なのかを考えると……いいやヤメだ。こいつぁ他所の話。
俺にしてやれることなんざぁ、
「おう、プルパっつったか。オメェはなかなか感心な働き者だ」
「…………ん⁇」
「ほれ。他の連中に見つかる前に、口んなか隠しちまえ」
飴玉やるくれぇだ。
プルパは土に汚れた手で掴もうとするんもんで、俺ぁズボンで手ぇゴシゴシしてから、
「口開けろ」
「………ぁ————っ」
ポイッと放り込んでやった。
なんとも細やかな慰めだぜ。こいつぁいったい誰への慰めなのかねぇ。
「ひひっ。父ちゃん優しーじゃーん。プルパちゃん、お目め丸っこい飴みてーになってっし」
甘味は知らなかったのか驚いている。へへっ、口に合ったんならなによりだ。
「とうちゃん、ありがと」
これはベリルのセリフではなく、プルパからの礼だ。
つうかベリルから素直に礼を言われたことなんざぁ数えるほどしかねぇもんな。近々であったか思い出すのにも苦労するほどだぜ。
「——かぁああっ⁉︎ かっ……隠し子‼︎」
いまの戯言はベリルだ。胡散くせぇ驚き方しやがって。
「オメェがはじめに『とーちゃん』って教えたからだろ」
「いやいやいやマジのマジで? いちおーママに確認とっといた方がよくなーい?」
「——いいもんか‼︎ 絶対やめろ、絶対の絶対だからな」
「ふっひひ〜っ。考えとくー」
ったく。
「ほれ、口止め料だっ」
「——むぐっ」
減らず口の方にも飴玉を押しこんで、黙らせた。
朝からはじめた穴掘りも昼すぎには、俺んところは深さ一メートルで十メートル四方ほど進んだ。
他はといえば……、まっ、そんなもんだろ。四人組で四メートル四方。深さは変わらず。サボっちゃあいねぇらしい。張りきったってわけでもなさそうだが。
こりゃあ全世帯分の穴を掘るのに早くてもひと月ふたつ月は見込むべきか? いや足りん。コイツらがいつまでも元気いっぱいとは限らねぇもんな。必要最低限しか動かん連中のようだしな。
「父ちゃん。サクッとお肉よろー」
「ハ? いまから狩りにいけってか」
「まだ明るいし平気っしょ」
「おい、まさか全員分とか言い出すんじゃあ——」
「あーしらだけ食べてちゃ感じ悪くなーい」
…………だよな。
「みんながお腹いっぱいなるぶん獲ってきてねーー」
おいおい。俺が狩りにかかりきりになったらますます作業が進まなくなるぞ。
「だーいじょーぶ。今日だけだし。ひひっ」
とびきりの邪悪な笑みに見送られて、俺は晩メシを探しにいく。
◇
「これだけあれば充分だろ」
「ま、今日はこんくらいで足りるかー。父ちゃんごくろーさーん」
獲物を狩るどころか捌くまでさせておいて、この言い草。まったく労われた気がせん。
集落の真ん中に陣取ったベリルは、ノウロを助手——というか手足——にしてテキパキとメシの支度を進めていく。
固い部位は煮込みに、食いやすい部位は火を通すだけ。まったくもって簡単な調理ではあるが、塩や香草などでの味付けでうまい具合に仕上げていった。
材料自体はタダみてぇなもんだが、雑な割にいちおう高価な料理にはなってる。
この間の寒村の者らはといえば……、こちらを見ている、それだけだ。ただジッと陰湿な眼差しを向けくるのみ。
テメェとは無関係なことって様子とは違い、かといって積極的になにかしようってんでもなし。
少し離れた荒屋の陰で膝を抱えて座りこんで、まるで、黙ってさえいれば施されると躾けられたみてぇに。
変わった連中だとは思っていたが、このさまを拝んだときが一番不気味に感じた。
しかしベリルは、連中のそんな態度なんぞ歯牙にもかけず、
「はいはーい。ぜーいん注目ちゅーもーく!」
快活な声をあげた。
視線だけがアイツに向けられる。
そこに感謝の色はもちろん、期待もなんも込められてねぇ。強いて挙げるんなら『与えられて当然』っつうなんとも不愉快なモンだけだ。
「みんな疲れたっしょー。今日はあーしからのゴチだし。好きなだけ食べていーかんね——」
と言うや否やだ。誰彼構わずの押し合い圧し合い。鍋や鉄板をひっくり返す勢いで貪っていく。
草臥れて座ってたのかと思えば、やたらと元気じゃねぇか。
「トルトゥーガ様。こちらを」
「おうノウロ、気ぃ利くな」
事前に俺らの分は別の皿と鍋に取り分けてあったらしい。さすがに、あのなかへ交じっていくのは抵抗あるから助かったぜ。
さぁて、話の途中で放ったらかしにされたベリルはといえば、
「あー、いちおー言っとくねー」
怒ってるって雰囲気でもねぇか。
極めて淡々と、
「食べ放題は今日だけだし。明日っからはガンバったぶんだけ用意してあげっから」
冷や水をぶっかけた。
返ってくるのは不満だらけの目つき。
チッ。やっと表れた感情がこれかよ。
つうかベリル、ここの連中と仲良くするんじゃなかったのかい?
「ねーねーワル商にーん。一組あたりの平均ってどんくらーい?」
「そうですな。見たところ深さ一メートルで五メートル四方が目安となりましょう」
「だってー。つーわけで明日っからもよろしくど〜ぉぞっ」
言うだけで言うと、ベリルはこっちに。
その途中で、未だ睨むばかりの連中へ、
「あっそーそー。父ちゃんが働いたぶんは村に請求しないでおくから安心してー」
太々しくも向き直ると言い放つ。
「ワ、ワシたちへの給金は?」
「あるわけないじゃーん」
えっ、払わねぇの?
「そもそもタイタニオどのがずっとアンタらの生活費払ってたんでしょーが。なら、ちっとは働いて返したらどーなんさ。つーかさーあ、なーんにもしないで食べるご飯は美味しーん? んん〜? おお〜ん?」
「そ、それは貧しい土地ですのでっ」
「——シャラーップ!」
代官に怒鳴りつけたベリルは、俺の頭の上へよじよじとよじ登る。たぶん辺りを見据えてんだろう。んで、つづけた。
「あーし、今日一日でだいたいわかっちったかんねっ。みんな見た感じけっこー健康そーじゃん。元気に働けてるし。貧乏で困ってるフリしてるけどー、実はおうちにタイタニオどのから貰ったご飯とか溜め込んでんじゃないのー」
「「「………………」」」
「ひひっ。なーんかアンタらの体質ってゆーのが見えてきちゃったかも」
その見立てはわからなくもねぇ。だが、なにを根拠に決めつけている?
「あーしには丸っとお見通しだし」
あっ、これ証拠ねぇやつだ。
しかし阿呆は釣れたらしい。代官のフィリオはサッと目を逸らすと、他の連中も視線を泳がせてやがった。
つまりは図星ってことか。
「「「…………」」」
したたかな割に間抜けな連中だぜ。
「つーわけで! あーしが明日っから『働く喜び』ってやつを叩き込んであげっし」
ベリルは俺の膝に飛び降りたら、そのまんまイス代わりにしてメシを食いはじめた。
いきなりの働かせる宣言に固まってた連中も、一人が肉に手を伸ばすと、また元通り。
譲り合いなんざぁ微塵もなしの殺伐とした食事がはじまった。
いまんところカケラも『仲良く』って雰囲気じゃあねぇんだが。これもベリルの描いた図ぇどおりなのかい?




