都会モンがなんぼのもんだし①
一気に目的地まで行っちまうのかと思ってた道のりだが、想定外の問題があった。
「めちゃさぶっ」
北の山ばかりの土地とは聞いてたが、ここはうちの禿山なんざたぁ高さが違う。はじめはちぃと肌寒かったくれぇだったのに、山を登ってくとドンドン気温が下がっていくんだ。
もちろん歩いてるぶんには耐えられる程度。だが、魔導トライクでスッ飛ばしたら寒くって寒くって堪らん。
「父ちゃん、もっとゆっくり進んでっ。めっちゃ揺れてっし」
「耳元で騒ぐな。喧しい」
で、結局は俺が魔導トライクを乗せた荷車を引くハメに。
ちなみにベリルは持ってきた服を着込めるだけ着込んだうえに、俺の背中にへばりついてやがる。
いちおうノウロも押すと言ってはいるが……。
「ハヒッ、カヒッ、ハヒッ……」
少し前から呼吸が怪しい。さっきからずっと押されてる感じせんもんな。たぶん手を荷台の縁に引っかけてるだけだぜ、こりゃあ。
「なぁノウロ。ムリすんな」
「そーそー。身体動かす系は父ちゃんに任しとけばイイってー」
「そ、そんは……トルトゥ、ゴホッ、ッ、ゥガ様に引いてもらった、に、ッ、荷台に乗る、など……ハッ、カハッ……ハヒッ……」
「ぶっちゃけアンタが押した方が遅くなるし」
身も蓋もねぇ言い方だが、まっ、事実だ。
しかし、ここまでハッキリ言われちゃあノウロも引き下がらず得ない。恐縮しつつも荷台に腰をおろした。
「汗拭ったら、ありったけの服を被っとけ」
「あーしのはちゃんと洗ってから返してねー」
「ありがとうございます。しかしトルトゥーガ様は大丈夫なのですか?」
「俺か?」
俺ぁ、背中にへばりついてんのがやたら体温高ぇからな。荷台引っぱるっつう適度な運動もしてるし、身体が冷えるなんてこたぁねぇ。
「オメェとは鍛え方が違う」
これ以上情けねぇ気分にさせてやることもあるまい。いまのノウロには素っ気ねぇくれぇでちょうどいいさ。
「ひひっ。なーんか父ちゃんカッコつけてっしー」
「うっせ。テメェも風邪なんかひいて手間かけさせんなよ」
「だーいじょーぶ〜っ。父ちゃんの風除け、けっこーイイ感じだし」
親父を風除けとか言ってくれんなや。ったく。
こんな具合に、魔導トライクに引っぱられてるときよりは山登りの速度は落ちた。
◇
予定してたより進みが遅れていく。こうなると食糧も足りなくなるかもしれん。早ぇうちから現地調達するべきか。
「おうベリル。俺ぁちょっくらメシを調達してくるから、そのあいだノウロを頼んだ」
「それって逆じゃね?」
たしかに逆なんだけどよ、いざとなったときに身を守るチカラを考えるとこう言わざるを得んのも事実。
「すぐ戻るつもりだ。火ぃ焚いとけば寄ってはこねぇだろうが、もし獣がきたらお得意のコケ脅し魔法でなんとかしろ」
「ええ〜、あーしも狩りやってみたーい」
「ダメだ。時間をかけたくねぇ。だからテメェらは留守番だ。いいからワガママ言わずメシの支度でもしておけ」
「はーい」
不貞腐れた返事を聞き流して、いったん野営地を離れる。サクッと獲物を狩って帰らんと。
話に聞いてたとおりの細くてノッポな木々が生えるだけの森。そこを人が通った跡を頼りに進んでくだけだから、ちょいと踏み出せば、あたりはすぐに獣たちの縄張り。
デカいのはいなそうだが、手頃なのはちょいちょい見つかった。
食えるとこだけ持ってくため、その場でバラして血抜きして肉にしちまう。残りは勿体ねぇが埋めて、狩りは終わりだ。
野営地に戻ると、美味そうな匂いが漂ってきた。
これまでは石みてぇに固いパンが野営んときの主食だったが、コメは嵩張らん割に炊くと膨らむし腹持ちもいい。なりより美味ぇ。
「父ちゃんおかえりー」
「おう、ただいま。さっそく水を頼む。肉を洗っちまいてぇ」
「ほーい。ワル商人、そこの塩とってくなんなーい。あと香りイイ葉っぱもー」
ホント、贅沢な野外メシだぜ。腹に溜まるモンよりも調味料を優先して載せてきてんだからよ。
おかげでまともなメシにありつけるんだから、文句はねぇがな。
しばらくぬるい湯と塩と香草で獲ってきた肉を揉み込み、臭みが抜けたら完成だ。あとは焼いて食うだけ。
と、思ったら、
「ワル商人、そっち一口大に切っといてー。こっちハンバーグにすっから」
野営のメシでそこまですんのかよ。俺ぁもう腹ペコなんだが。
「父ちゃんも! 鉄板あっちっちにしたら、肉焼いてってっ」
「こんなに寒いんだ。焼いてすぐ食わんと冷めちまうだろ」
「いーのっ。肉寿司にすんだからっ」
ちまちま食うの? たしかにスシは美味いけどよ……。
「もー。しゃーないなー。んじゃ、はいこれ」
と、呆れ顔したベリルから、器にペンペンッと盛ったコメの山を渡される。
「焼けたの乗っけて焼き肉丼にして食べてて。父ちゃんはいっぱい動いたから、先食べてていーし」
「おっ。そうかい」
俺だけ先にメシにありつくのはすまねぇと思うが、腹の虫が鳴り止まんのだ。悪く思うな。
いい具合に火の通った肉を乗っけたら、豪快に塩と香草を振って——いただきます!
——————ッ! うっめぇえええ!
蕩ける柔肉をガツガツ口んなかへ放り込んでってたら、裾を引っぱってベリルが邪魔してきた。
「んだよ」
「あーん」
「ハ?」
「あーんだってばー。あーしのお手て、肉寿司握って塞がってるっしょー。見たらわかんじゃーん」
ったく。甘えやがって。
まっ、俺だけ食ってるのも微妙だったからいいんだけどよ。
「ほれ」
「はむっ——んんん〜! でりしゃーす‼︎」
「次いけるか?」
「うん! けどワル商人も腹ペコだし」
そう言われてノウロを見れば、こっちを物欲しそうに見てやがった。
「ほら、オメェも食っとけ」
「で、では……」
焼き肉とコメの割合に注意を払い、いっちゃん美味い塩梅に掬って、食わせてやる。
目を見開いて噛み締めてくさまに、俺も大満足だ。
だってのに、
「この絵面、マジ需要ねーし」
ベリルはつまらんことを言う。
このあと俺は焼き肉丼を食いつつ食わせる係を担い、ノウロが焼いた一口大の肉とハンバーグをベリルが握り、ようやく三人揃ってのメシに専念できるようになった。
そこそこ腹は落ち着いてはいたが、
「肉ズシってのぁ魚を乗っけたスシより俺の舌に合うぜ!」
美味いモンは美味い。
「私も堪能させていただきましたよ!」
「ほーほーほー。つーことはハンバーガーの次に、お寿司を流行らせられんじゃね。お肉なら王都でも手に入るし」
「いえ、小悪魔会長。コメの単価を考えると、とても庶民の味には……」
「てゆーかそもそもお寿司は高級品だし。めっちゃ高くても売れるってー。そしたら冷凍のお魚とか使うのもあり? せっかくだしお妃さまとお姫さまにグルメリポートやってもらおっかなー。いひひっ。したらいきなし人気店じゃーん」
大丈夫か? さっそく新聞を私物化しようとしてるよな、コイツ。




