行人の存在
春休みが始まってすぐのことだった。
俺は両親に話があると呼び出された。
俺たち双子の秘密がばれたんじゃないかと、怖くて夜も眠れなかった。
しかし、話の内容は、それ以上に残酷なものだった。
『桜と瑠依の縁談話』
桜が結婚するのが嫌なんじゃない。
かと言って、瑠依だから嫌とかでもない。
俺はただ、怖いだけ。
何が怖いのか、誰が怖いのか、それは、
瑠依の兄、行人の存在だ。
行人の存在は果てしなく怖い。
けれど、死ねとまでは思っていない。
あいつは、桜のことを想っている。
それも、異常なほど。
◆
あれは、俺たちがまだ幼稚園児だったとき。
蒼井家と九条家は近所に住んでいた。
瑠依とは幼稚園も一緒だったため、けっこう仲もよく長い間遊ぶこともあった。
その時、決まって一緒にいるのが、瑠依の兄、行人だった。
九条家は他のお金持ちどもの頭が上がらないほど、権力ももち優位な立場にたっている家柄で、そこの長男、行人は他の人からもちやほやされており、不自由のない生活を送っている。
というのが、表向きに知れわたっている。
実際、俺もそうだと思っていた。
でも、それは全く違うのだ。
行人は九条家の長男であるが、家を継ぐことはできない。
それは行人が母親の連れ子だから。
今の父親とは一切血がつながっていない。
九条家はちゃんと、九条の血が混じった人じゃないと継げないのだ。
そういうこともあり、行人は瑠依と違って、一人孤独に育ったきた。
それでも、行人は瑠依のことを恨んだりはしない。
もしかしたら、行人は自分自身に与えられた『罰』だと思っているのかもしれない。
そんな中、行人の不安や悲しみを取り除いたのが、桜だというのだ。
桜自身は何にもしていないというのだから、俺にも分からない。
でも、きっと行人自身が救われるようなことを桜はしたのだろう。
桜は無意識に人を助けているということが多々あるから。
俺も、何度も救われたことがある。




