戦翼
※こちらは、一般人による完全オリジナルシリーズです。
文脈がおかしい部分もあるかと思います。ご了承いただける方のみ、この世界をお楽しみください。
それでは、行こう、観測者。
蒼穹の空を、ともに見届けて欲しい。
数日後ー。
霧桜「そう、ゆっくり…。」
ひた…と足が床につく。
ぐ…と力を入れて、霧桜の手に支えてもらいながら、立ち上がった。
久しぶりに立ったせいか、まだふらふらとしている。
ハヤテ「…立てた!」
霧桜「…あぁ、よくやったな。」
その声に、ぱぁ…!顔を輝かせて霧桜を見る。
ハヤテ「うん!…ぁ、」
はっとした後、少し照れて顔を逸らしながら言う。
ハヤテ「…キリルさんの、お陰だよ。」
霧桜「…僕の、お陰?」
きょとんとした顔で首を傾げる。
ハヤテ「うん、キリルさんがいてくれたから、俺、こうして立てた。」
しばらくハヤテを見る。そして、
霧桜「…、そうか。」にこやかに答えた。
ハヤテ「…それに、俺、感謝を伝えなきゃって…あの、フードの、顔が見えない兄ちゃんに。」
フードで顔が見えない…リトの事か。
霧桜に乗せている手をぎゅっと握る。
ハヤテ「…フードの兄ちゃんがいなければ、今頃、俺、化け物のままでいる所だった。そしたら俺、自分の犯した罪を償う事さえ、出来なくなっちまう、から…!」
そして、俯いた顔を霧桜に見せて言った。
ハヤテ「キリルさん、俺、フードの兄ちゃんに会いたい!罪は必ず償う!だから…!」
必死な顔。
しかし、その目は確かに、揺るぎない決意の目をしていた。
真剣に話を聞いていた霧桜の表情は、ふ、と柔らかく微笑んだ。
そして、腰を落として目線をハヤテに合わせる。
霧桜「わかった、ハヤテ。一緒に、リトのところに行こう。」
ハヤテ「…!」
ハヤテの目が輝いた。
純粋な、可愛らしい子供の表情。
その姿を見て、つい顔が綻んでしまう。
こほん…と咳払い。指揮官としての矜持を…と心で己を制し、立ち上がって手を差し出した。
霧桜「歩けるか?」
ハヤテ「大丈夫!」
そう言って、2人で手を繋いで歩き出した。
【訓練エリア】
部屋が4つ、並んでいる。
ハヤテ「ここは…?」
霧桜「シミュレーションルームだ。戦闘訓練をここで行っている。リトは戦闘部門に所属している兵士で、よくここで訓練をしているんだ。」
そう言って、近くの端末を確認する。
最奥のシミュレーションルームが使用中と書かれている。
霧桜「早速やっているようだ。終わるまで見学しようか?」
ハヤテ「…!」キラキラな眼差し。
霧桜(社会見学に来た子供のようだ…。)
歩きながらそれぞれの部屋の仕組みを簡単に説明する。
部屋ごとに形状が異なっており、様々な状況下で戦闘訓練を行える。
そして、最奥のシミュレーションルーム。
1番広く、様々なパターンの地形、敵の配置、バリエーションに特化した部屋。
ぷしゅー…
音を発し、ドアが開く。
そこは、ベンチとロッカーなどの休憩スペース。そして、目の前に全面ガラス窓と入口の重そうなドアがあった。
ガキィン!…ドン!ガン!
戦闘音が聞こえる。
しかし、音は少なく、振動なども感じない。
霧桜「それは、このガラス窓とドアにあるんだ。」
軍用対衝撃ガラス。
戦闘時の衝撃に耐えうる特殊なガラスを使用している。
そして、重厚な鉄製のドア。
どちらも衝撃だけでなく、戦闘音も最小限に抑えこむ、訓練用の特別仕様の設計となっている。
ハヤテ「へぇ…凄い。」
興味津々できょろきょろと部屋を見回るハヤテ。その姿に霧桜はふっと笑った。
霧桜「見学はこっちだ、ついてきてくれ。」
そうして、入ってすぐ右の階段を上がると、難しそうな機械とガラスに覆われた窓。
そこから、上から見下ろせる見学スペースがあった。
霧桜と一緒に、見学スペースに立つ。
手すりを掴んで、その光景を目にした。
リトが、シミュレーションルームの中央に立っている。
荒んだ荒野。囲まれた形で配置された16機のエネミー。
すぅ…と息を吸い、はっ、と一気に吐いた瞬間、ダン!と地面を蹴る音と共に走り出す。
ガァン!!ドガガガ!ドン!
素早いスピードでブレードの連撃、蹴り技を入れる。
後ろへ吹き飛ぶ敵に即座に近づく。
ガッ! 他の敵から繰り出される攻撃を流し、
ヒュル…ガン!!!自身を回転させ、回転蹴りを入れる。
敵の目線が一斉にリトへと向かった。
飛び交う攻撃の間、身を翻して駆ける。
その速さは人間をゆうに逸脱していて、目で追うのがやっとだった。
ヒュ、ガチャン…
片手でブレードを持ち直し、もう片方の手には機械的な銃を構え、走り出した。
ダン!ダン!ダン!ダン!
エネルギーを媒体にしたタクティカルショットガン。
確実に敵を撃ち抜き、一気に数が減る。
残り、左に小型が2機と右奥に小型2機、大型が1機。
ダン!ダン!
小型に向けて撃つ。その後一気に距離を詰めた。
ズガガガ!
ブレードで連撃。
素早く身をぐるっと捻り、敵に向かって勢いよく足を突き出す。
ドッ…ガアアン!!
蹴り飛ばされた勢いで2機とも吹き飛び、右奥の2機へ突っ込んだ。
ノイズが走り、消えていく。
そして大型。
8本の触手のような器官による素早い攻撃が襲う。
フードの影で瞳がギラ…と光った。
身軽に避けつつ、ブレードで弾き流しながら、閃光の如く距離を詰める。
ザシュッ!!
硬い脚部に刃が走る
ドガガ!!
すかさずダメージ部分に蹴りを繰り出した。
ズン…!
エネミーの体勢が崩れ始める
背後へ回り、銃を構えると同時に、ガチ、と銃身を捻った。
ガチャガチャ…ガチャン!!
金属音と共に赤い光が走り、タクティカルショットの形状が変わり、エネルギーランチャーへ変貌する。
一瞬、呼吸が止まり、空気が張り詰める。
赤い光が銃口にかけて脈打つように銃身を走った。
リト「…ハイヤ。 」
ドォォォォ!!!
--爆ぜる轟音が空間を押し広げる。耳の奥まで焼き付くような残響が身体を震わせた。
放たれたエネルギー弾は、閃光の尾を引いてエネミーの身体を貫通する。
ふと、霧桜が笑った。
『シミュレーション、終了。クリアタイム、1:08。』
機械アナウンスが流れ、ふう、と一息つき、構えたブレードと銃を収める。
リトの戦闘中、ハヤテは息を飲んで見ていた。
はっ…と、戦闘が終わってから、我に返る。
ハヤテ「…す、凄い。」
霧桜「彼、強いだろう。」
ハヤテ「つ、強いなんてものじゃ…!あれは…!」
霧桜「あぁ。彼は【戦翼:リートム・リシッツァ】。戦闘面において彼は、蒼穹最強の兵士なんだ。」
ハヤテ「せん…よく?蒼穹…最強!?!?」
目を丸くして驚く。
霧桜「…ふふっ。」
笑いが漏れた。
ハヤテ「なっ…!?」
わなわなと顔を赤くするハヤテ。
己のオーバーな反応に、今更恥ずかしくなって顔を逸らした。
ハヤテ(し、仕方ないじゃんかぁぁ!!!)
霧桜「ふふっ、すまない。君の反応が良くて、つい…。蒼穹最強なんて聞いたら、誰しもそんな反応をするだろう。申し訳なかった。ほら、リトに会いに行こうか。」
ハヤテに手を伸ばす。
ぷく…と膨らませた頬が、ふはっ、と緩んだ。
元気に笑った顔に変わり、霧桜の手を取ってリトの元へと向かった。
霧桜「リト、訓練お疲れ様。」
リト「んー…て指揮官!?いつの間に来てたんだよ!」
リートム・リシッツァ。
片手に赤いグローブ、そしてラインの光る黒いジャケットに身を包み、その顔はフードに隠されている。
身体の動きに合わせてズボンに付いているチェーンがチャリ…と音をたてた。
霧桜「つい先程だ。今日も素晴らしい戦闘だった。」
ドリンクを片手に、フードの上から頭をかく。
リト「いやぁ今回はもうちょっと早く出来たかなぁなんて…、…っ!!」
はっとして指揮官を2度見する。
ゴトン…
手に持っていたスポーツドリンクが落ちる。
サササ…と少し距離を取り、そして、わなわなと手を震わせて…。
リト「ま、まさか…俺が射撃した時の…っ。」
霧桜「ああ、聞いていた。ハイヤ、とな?」
リト「ああああああ!!!!やめろおおお!!!」
突然頭を抱えて叫び始めた。
ハヤテは訳が分からず霧桜を見て聞く。
ハヤテ「…ハイヤって、何?…呪文?」(純粋な疑問)
霧桜「うーん…間違ってはいない。」(真顔)
リト「いやちげぇよ!?」(ツッコミ)
ハヤテ「…え、意味ある?」(困惑)
霧桜「言霊の力は、案外侮れないものだ…。」(ド真顔)
リト「乗るなよ!!ただのあんたの合図だよ!!真顔で補強してんなよ!!!!」(全力ツッコミ)
リト「ああああ!!!なぁぁぁんでよりにもよってこういうタイミングで来るんだよぉぉぉ!!ちょっとだけ言ってみたかっただけなのにさぁぁあ…!!」
両手で顔を隠してゴロンゴロンと転がり回る。
霧桜「別に構わないだろう。しっかり決まっていたしな。」…ふっ。
リト「吹き出してんじゃねぇか!?フォローする気あるかそれ!?!?」
ビシィ!と指さして突っ込む。
ハヤテ「…。 」
ぽかんとした顔でリトと霧桜を見る。
ぐおぉぉぉ…と悶絶しているところ、はた、と止まってハヤテを見た。
リト「ん、てか指揮官、その子供…」
ハヤテ「…!」
霧桜「ああ、そうだ。君が救った人核者、ハヤテだ。君に会いたいと言っていたから、連れてきたんだ。」
リト「おぉ、そうか。よっ、調子はどうだ?」
先程とはうってかわり、ひら、と片手を振る。
ハヤテ「えと、お陰様で。」
リト「そうか、よかったな。」
ハヤテに目線を合わせ、頭をぽん、と撫でながら、にかっと笑ってみせる。
ハヤテ「…あの、!俺を、助けてくれて、ありがとう。兄ちゃんが居なかったら、俺…」
ハヤテの声に、きょとんとした口元が、弧を描いて大きく笑う。
そして、頭に乗せていた手でわしわしと更に撫でる。
リト「いいんだよ!気にすんなって!これは俺のお役目だからよ。な?」
ハヤテ「わ、う…」
力強く撫でてくれるリトの手は大きく、安心する。
自然と頬が緩んだ。
リト「そうそう、その笑顔で、元気でいてくれりゃ、俺はいい。ハヤテ、だったか?」
頭から手を離し、目の前に拳を差し出す。
リト「俺との約束だ。また自分を見失いそうになっちまったら、俺の名前を思い出せ。戦翼は、いつでも助けに来る。な?」
ハヤテ「…!」
その言葉に、強く突き動かされる感覚。
そして、決意の眼差しで、リトの手に、拳を叩きつけた。
リト「うぉ!?思ったより強ぇな!?」
ひらひらと手を振って冗談交じりに言う。
その様子に、霧桜はふっと笑った。
霧桜「リトともう仲良くなったな。2人には、どこか似ているところがあるのかもしれない。」
ハヤテ「え?」
そう言われて、リトを見る。
相変わらず、フードに隠れて目元は見えない。
しかし、彼の口は弧を描いて、笑っていた。
不思議と安心する。
ふと、何かを思いついたように口を開いた。
霧桜「リト、これから少し、時間はあるだろうか?」
リト「え?ああ、次の業務まではまだあるけど。」
霧桜「よし、であれば…共に付いてきてくれ。」
リト「…え?」
蒼穹軍基地は、主に5つのエリアに分かれる。
【訓練エリア】
兵士が戦闘、行動訓練を行うエリア。
訓練だけでなく、戦闘や行動の基本を学ぶ講習なども行っている。
シミュレーションルームやトレーニングルームなどが備わっている訓練棟、戦術の基本教育が行われている講習棟。
そして屋外では広い敷地による模擬フィールドが広がっている。
戦闘だけでなく、ドローンなどの無人兵器やサポート機材の操縦訓練もここで行われている。
霧桜「蒼穹軍の戦力は全て、ここで培われている。」
リト「蒼穹の技術を惜しむことなく使ってる分、かなりリアルな戦闘訓練を受けられるんだぜ。」
【技術エリア】
武装や軍事機器の製造やメンテナンスを行うエリア。
戦闘武器や装備の開発、戦闘支援ドローンや通信機器などのメンテナンスが日々行われている。
ハヤテ「不思議な匂いがする…。なんか落ち着くかも。」
霧桜「オゾンと油の匂い、だろうか。ハヤテはこういうのが好きか?」
ハヤテ「…へへ、何かを作るのは好きです。」
霧桜「…そうなんだな。」柔らかく微笑んだ。
ふと、こちらに歩いてくる足音が聞こえてくる。
ノエ「お疲れ様です。指揮官、リトさん。」
淡々とした、落ち着いた口調。
緑色の瞳と髪、後ろでゆったり結わえて、オーバーオールをきち、と着こなした姿。
リト「ノエじゃねぇか。今日もドローンの整備か?」
ノエ「そんな所です。…その子が?」
ハヤテを見て、霧桜に尋ねるノエ。
霧桜「ああ。先日の作戦で保護した、ハヤテだ。」
ノエ「やはりそうでしたか。こんにちは、ハヤテ。僕はノディオン=エル。皆からはノエって呼ばれてます。」
にこ、と微笑んで名乗ってくれた。
ハヤテ「…えと、俺を助けてくれて、ありがとう。」
その言葉にきょとん…としたノエの顔。
そして、ふ、と笑って答えた。
ノエ「気にしなくていいよ。これが僕たちの業務だから。」
リトと同じ言葉。思わず頬が緩む。
ノエ「ここへはどんな御用で?」
リト「ハヤテを連れて、軍基地探検だとよ。」
ノエ「…療養中とはいえ、仮にも監視対象ですよね、指揮官…。」
じと…とノエが霧桜を見る。
指揮官は柔らかく微笑んで答えた。
霧桜「監視対象である前に、保護下の子供だ。僕が責任を持って監視する。どうか、大目に見てくれないか?」
少しの間指揮官を見て、やがて呆れたように口を開いた。
ノエ「…やれやれ。指揮官が仰るなら、僕から言うことは何もありません。ただ、上層部からお叱りを受けても、手助けしませんからね。」
霧桜「…あぁ、肝に銘じておく。」
その後は、柔らかな雰囲気が流れた。
【医療・研究エリア】
兵士が負う怪我や病気を治療するエリア。
それだけでなく、薬学や生物学に関する研究も行われている。
2棟に別れており、医療棟、研究棟がある。
?「ぎゃっははは…!!やっべぇ…!!まじでやっべぇぞぉぉぉ…!!」
研究棟の奥から聞こえてくる謎の声…。
リト「…あいつ……。」頭を抱える
霧桜「…離れようか。」
ハヤテ「えっ、えっ?」
ハヤテの肩に手を添えて、くるっと引き返した。
【中枢エリア】
軍基地の中心に当たるエリア。
ここで上層部(蒼穹国家)と連携し、情報を巡らせている。
作戦を立てるブリーフィングルーム、指揮周りの講習なども、この中枢エリアに付属されている。
?「りょうかーい。後は任せるね〜。あ、このお菓子食べちゃっていいから。猫ちゃんからの差し入れだよぉ。」
兵士「わざわざありがとうございます…!」
?「いいよいいよぉ。蒼穹にぃ〜?」
兵士「─栄光を!」
そんな声が聞こえてくる。声のする方向を見た時だった。
ドクン… 鼓動がはやる。
少し遠くにいるあの姿…薄紫の髪…華奢な体型…あまりにも…似ている。
ハヤテ「…っ!」
たまらなくなって走り出した。
霧桜「ハヤテ…っ!」
リト「おい!?急に走り出したぞ!?」
ハヤテを追いかける。
?「…んー?」振り返ったその瞳は、深紫。
フラッシュバック。友人の顔が重なる。
ハヤテ「…っ!!」そのまま飛びつく。
?「ふにゃっ!?」
がばっ!
飛びつかれた勢いで身体が後ろに傾いた。
どしーーーん!!!
リト「おいおいおい!?何してんだぁ!?」
兵士「だ、大丈夫ですか!?」
セラ「いったたぁ…もう…急になにぃ…?」
ハヤテ「心配したんだぞ!!!俺っ…!!俺ぇ…っ!!!お前が死んだと思って…!!無事でよかった…!!本当に…!!!」
首に抱きついて離れない。
セラ「ちょっ、ちょっと待って!?ボクいつのまに死んだ扱いされてるの!?てかこの子誰ぇ!?こんな子見た事ないんだけどぉ!!」
リト「おいハヤテ!落ち着け!そいつは多分人違いだと思うぜ!?」
ハヤテ「見間違えるもんか!!この髪に目の色!!何度も見てきた色だ!!それに今にも折れそうなほっせぇ腕!!!」
セラ「うぐっ!?」ぐさぁ…!!!
子供ながらのどストレートな言葉。
クリティカルヒット。
リト「ぶっ!?!?」吹き出した。
セラ「ちょっ!?ちょっと失礼じゃない!?ボク一応お!と!こ!の!こぉ!!!」
ハヤテ「知ってるよそんな事ぐらい!!だからいつももっと飯食えって、俺のパン半分やったりしてたじゃねぇか!!」
セラ「知らないよぉ!?人間違えてるってばぁ!!1回落ち着こぉ!?このままだとただボクがディスられてるだけだからぁ!?」
霧桜「ハヤテ、その通りだ。1度…彼から腕を離して、呼吸を落ち着かせてくれ。」
ハヤテ「嫌だ…嫌だ…!!」
涙が止まらず、顔が、身体が熱い。
霧桜「大丈夫だ、彼は逃げない。ひとまず、君が1度落ち着かなければ、…彼の首が締まる。」
セラ「ギブギブギブ…!!ほんとにしんじゃうぅ…!!!」
ぺちぺち!!と必死にハヤテの腕を叩く。
リト「ほら…落ち着け…!」
ぐいっ!とハヤテを引き剥がした。
ハヤテ「…っ!」そこでやっと、我に返る。
セラ「ぷはぁぁ…!!本気で逝っちゃうところだったぁ…!」
肩で息をしながら笑って言うセラ。
視界が滲む。また、人を…!
ハヤテ「ぁ…あ…ご、ごめ…なさ…っ俺…また…っ!」
その時、肩に手を添えられた。
霧桜が、ハヤテの目線に合わせて腰を落とす。
霧桜「大丈夫だ。」
真っ直ぐとハヤテを見て伝える。
霧桜「すまない。無理をさせ過ぎたな。心配せずとも、今の君には本来の核能力を使うことは出来ない。」
ハヤテ「…え……?」
霧桜「今の君の核は、エネルギーが枯渇している状態なんだ。だから…ここでは君が能力で誰かを傷付けることはない。安心してくれ。」
ハヤテ「で、でも俺…っ」
セラ「いや、本当に大丈夫だよ〜。それにボクも一端の兵士だし?能力でそう簡単にはやられないって。てか腕いいねぇ?」
首を擦りながらおどけて言う。
リト「呑気だなお前…。」
ハヤテ「そ…そっ…か…よかった…っ」
力が抜けていく。
落ち着きを取り戻したようだ。
霧桜「うん、それでいい。」ゆっくりと離れる。
セラ「ふぅ、ひとまずは落ち着いたー?じゃあ、また間違えられないように、自己紹介させてもらうねー?」
すく、と立ってぽんぽん、と服をはらう。
セラ「ボクは白波 繋羅。年齢は17歳っ。実はちょーっと偉い人なんだよぉ?」
にゃはっと悪戯げに笑って言う。
そんなセラを、ぽかん…と見つめるハヤテ。
顔も髪も、雰囲気も似てるのに…身長が…高い。
記憶の中の友人は、同じ目線に居たのに、目の前にいるセラは、明らかに目線が上だ。
ずいっ
セラの顔が目の前に近づく。
セラ「…誤認は解けたかにゃ?」
にこにこと笑った顔で見つめてきた。
ハヤテ「わ、わっ…!」わたわたと後ずさる。
セラ「あははっいい反応もらい〜っ。これでお互い様ね?」
こて、と首を傾げるセラ。
ハヤテ「っ…!」
その動作に何故だかドキッとした。
霧桜「セラ…悪戯が過ぎるぞ。」呆れた霧桜の声。
セラ「おぉ〜怖っ。キリル君がいるって事はぁ…この子がΩ(オメガ)•ノワールが保護した人核者くんかな?」
ハヤテ「あ…。」
霧桜「ああ、そうだ。」
セラ「やっぱり〜!猫ちゃん天才っ!しかも小さい子にモテモテだなんてぇ〜っ」
きゃ〜っと頬に手を添えながらくるくる回る。
ぽかーん…と眺めるハヤテ。
リトが肩に手を置いて言う。
リト「セラは元からああいう奴でなぁ。悪い奴じゃねぇから、勘弁してやってくれな?」
セラ「ちょっと戦翼君っ!まるでボクが変人みたいに聞こえるでしょお!!」
リト「変人だろ!!!」
はっとして、
ハヤテ「…あ、あのっ!」
セラ「んー?どうしたの?」
ハヤテ「お、俺は…ハヤテ。その、急に…飛びついちまって…ごめんなさい…。」
静かにハヤテを見つめるセラ。
ふら、と動き出したかと思えば、スタスタとハヤテの前に近づく。
セラ「ハヤテ君、そんな辛気臭い顔しちゃだーめ。ここは蒼穹だよ?俯くよりも、空を見上げて。」
そう言って、背中を見せて振り返る。
セラ「ボク達は、国家直属の軍人。君たちのような、路頭に迷った人核者を救う為に、日々精進しているんだ。」
セラ「見てて。これが、蒼穹軍だよ。」
くすっと笑う表情は、前を向く。
目線の先には、横に並ぶ兵士、リト、そして霧桜。
それだけでなく、その場にいる中枢エリアの兵士全員が、その場で立ち上がった。
セラが大きく息を吸った。
敬礼。背筋を伸ばし、胸元に右手を添える。
セラ「───蒼穹に!」
総員「───栄光を!」
揃った皆の声。
敬礼し、セラを真っ直ぐと見ている。
ハヤテの中でビリビリとした衝撃が走った。
ハヤテに振り返り、ふっと微笑むセラ。
セラ「じゃ、ボクはこれで。猫ちゃんはこれでも、忙しいんだにゃっ。」
そう言うなり、歩いて去っていった。
ぼーっとその背中を見届ける。
リト「全く…相変わらず気分屋だなぁ。本当猫みてぇな奴だわ。」
フード越しに頭をカシカシと掻きながら呟く。
霧桜「それでも、彼が上層部なのは変わらない。僕達も、上官としてのセラの姿を見習わなければな。」
リト「…年下が上層部、ねぇ。」
ぶつぶつと呟くリトに、くすっと笑う指揮官。
そんな2人を眺めているハヤテはまだ、蒼穹軍という大きな背中を前にした、その衝撃の余韻に浸っていた。
【居住エリア】
兵士達が身体を休める生活区画。
衣食住全てが行き届いており、食堂、浴場には温泉なども用意されている。
中庭では噴水、綺麗に整えられた植木、日当たりの良い憩いの場となっている。
霧桜「歩き疲れただろう。少し休憩しようか。」
そう言って、中庭のベンチに腰掛けた。
空を眺める。
蒼穹の空。
どこまでも蒼くて、どこまでも広くて…。
ハヤテ「…キリルさん…俺は…どうなるんですか。」
空を見上げながら、そう呟く。
指揮官とリトは、少し表情を曇らせた。
────分かっていた。
己の犯した罪は、誰がどう見ても重すぎる。
普通、そんな奴が軍基地を歩いていれば、たとえ己が子供でも、核能力が使用できなくても、警戒されて当然の筈。
──…優しいな、蒼穹って。
安心させてくれた。
笑わせてくれた。
これが日常なのかは分からないけど、それでも、ハヤテが緊張しないように接してくれた。
でも、いつまでも甘える自分じゃダメだから。
優しさに甘えていたら、後悔が重くなる。
己が潰れて、罪から目を背けてしまうから。
ハヤテ「教えてくれ。俺は…どうなるんだ。」
霧桜を見つめる。
揺るぎない決意の瞳。
まっすぐとした表情に霧桜は、頷いて口を開いた。
霧桜「…ハヤテ。君は──」
数日後。
体調も良くなり、すっかり身体が回復した罪人はその日、国家にて裁判が行われ、人核者拘置区画へ連行された。
そして後日、判決が下された。
-国家判決 : 蒼穹国安全維持法 第9条 に基づき、本件被告・「ハヤテ」を"軍管轄隔離収容区画"へ移送する。-
──────────
蒼穹軍基地・指揮官室。
コンコン…と扉をノックする音。
どうぞ、と声が聞こえ、ぷしゅー…と扉が開いた。
「よっ、指揮官。」
手を挙げてにかっと笑うリト。
霧桜「…ああ、リトか。」
リト「なんだよその反応はぁ。俺じゃ不満だってのかぁ?」
口を尖らせたような不満声にくすっと笑いながら答える。
霧桜「そういう訳ではないさ。ただ…」
リト「…ハヤテの事か?」
指揮官のデスクの端にもたれて言う。
霧桜「…君には隠せないな、リト。」
リト「当たり前だろ。」
…天井を見上げながら口を開いた。
リト「にしてもさぁ、指揮官ってあんなに、柔らかい声出せんのな。」
霧桜「声…?」
リト「あー…やっぱ気づいてなかったか。指揮官、声もだけどよ、口調も優しくなってたんだぜ?」
霧桜「…。 」
リト「ま、目は死んでっけどなっ。」
霧桜「…一言余計だ。」
その時、通信が入った。
「こちら上層部。Ω(オメガ)•ノワールへ通達。地上にてエネミーの反応を検知。新たな作戦を発令。詳細をお送りします。確認の後、中枢エリア・ブリーフィングルーム01までお越しください。」通信終了。
霧桜「こちらΩ(オメガ)•ノワール。了解した。」通信終了。
リト「お、作戦命令やっときたな?」
霧桜「ああ、詳細を確認する。ノエを呼んでくれ。」
コンコン…
リト「その必要はねぇみてぇだな?」
と指揮官を見てにやりと笑う。
霧桜「そのようだ。」ふ、と微笑んだ。
ノエ「失礼します。…あ、リトさんが先に居る。珍しい。」
リト「入って最初に言うことがそれかよ!?」
ノエ「くすくすっ、すみません…つい。 」
霧桜「早速だが、作戦内容を確認する。地上にて、エネミーの反応を観測した。最終目標は、エネミーの無力化だ。」
リト「掃討作戦か。うしっ、やってやるか!」
ばしっと両手の拳を合わせる。
ノエ「あーあー、戦闘狂は血気盛んで暑苦しいですねぇ。」
リト「はぁ!?」
霧桜「…喧嘩をするな。さぁ、内容は確認した。ブリーフィングルームへ向かうぞ。」
リト/ノエ「了解だ!/しました。」
通路を歩く3つの足音。
蒼穹の空は今日も、蒼く輝いていた。




