一幕 諸所の正義 その伍
違和感は昨日、ケ〇タにいた時から感じていた。何かにずっと監視されているような気がしていた。
しかし、ケ〇タから帰る時にはそれは感じなくなっていた。
誰かが清十郎をつけていたのだと、遊蓮が理解したのはその日の夜中だった。
それを気づくと、遊蓮はチャットアプリLIMEを開いてメッセージを送った。
遊『今大丈夫?』
清十郎は情報を扱う故なのか、いつも一分以内には既読をつけていた。
今日とてそれは変わらない。
既読がついて一分も経たずに、返信が送られる。
清『あぁ、大丈夫だ』
遊『多分、ケ〇タからつけられてない?』
清『だねぇ』
清『でも、良く気付いたな』
遊『なんか視線を感じて』
清『そっか』
遊『それで、なにもされてない?』
清『あぁ、大丈夫だ。それに誰かもわかってるしな』
清『今日会った刑事の人いただろ?風間さん』
遊『関わったらいけない人でしょ?』
清『あぁ、俺をつけてたのはその人の部下だ』
遊『なんでつけられてたの?』
清『さぁ?思い当たる節が多すぎてわからんな』
遊『まぁ、気を付けてね』
清『あぁ、あの人には細心の注意を払わないとな』
清『まぁ、お休み。また明日』
遊『うん、お休み。また明日』
つけていたのが風間の部下だと知り、遊蓮は自然と納得してしまった。
前々から宗一郎を《プレイヤー》だと疑っていた。そのため、遊蓮は彼を《プレイヤー》と仮定して状況を整理していた。
その仮定とタイミングから遊蓮は結論を導き出し、つい呟いてしまった。
「まさか、本当の目的は”僕”か⁉」
その呟きは、暗い部屋の中に静かに反響する。
遊蓮の導き出した結論は十分なまでに考えうる話だった。
宗一郎が権能の事を部下に伝えていなかった場合、直接遊蓮を尾行するよう指示するのはおかしな話だ。
ただの平凡な男子高生だ。
しかしながら、清十郎の友という肩書があればどうだろうか?清十郎とつるんでいるため、遊蓮も何かあるのかもしれないから一緒に注意して見るよう言っていたら、清十郎の方に行くのも納得がいく。
明日から二人になるかもしれないし、いつまで続くかもわからない。
遊蓮はどうにか行動を起こし、尾行をどうにかしなければならない状況へと追い込まれていた。
そろそろ《遊戯》についても進めなければ、出遅れてしまう。いや、もうすでに出遅れているのかもしれない。
だから、いま行動が制限されるのは控えたいところだ。
―やっぱり、俺の権能【遊戯】を使う必要があるか。
正直、敵を前にして権能を使うのもどうかと思うが、やむを得ない状況だった。
遊蓮の権能【遊戯】は、悪戯の神ロキから授けられた権能で、能力は触れたモノに命令を書き込めるというモノだ。―簡単に言えば、プログラミングと一緒だ。
制約があるとするならば、触れなければならないこととそのモノができる範疇の事しかできない。
例えば、服に鉄の強度を持たせたり、紙を爆発させたりなんかは無理だ。
だが、自動で動かすことは可能だ。
触らずにギターの音が鳴らしたり、物を移動したりできる。
それらの実例は、遊蓮が実際に行った実験から得たモノだ。
権能の能力は実の所、使い方と能力しかわからない。何ができて何ができないのかは分からない。【遊戯】ならば、触れて命令を書き込むということは分かっても、何に対して有効なのかどこまでの命令が可能なのかなんてモノは分からず、そのあたりは手探りで探し求めなくてはならない。
明日は実験をしようと、布団に深くもぐりこんだ。
翌日、遊蓮は起きてすぐ権能についての実験を行うために外に出た。あたりを見るも不自然なものはない。
命令を書き込むのはカラスだ。その次に猫。そこらにいるから実験もしやすい。
一応、外では人目もあるため、人の目がないところにいるカラスとアメショの猫を別々の箱に入れて持ち帰る。
実験する内容は一つ。それは、生物に命令を組み込めるのか?というモノ。
もし、人にも命令できるというのならば、遊蓮は自分は行動せずして多くの事が出来うる。
だがしかし、生物に命令を書き込んだ場合どうなるかわからない。だから遊蓮は生物に命令を書き込む実験はしてこなかった。
どうなるのだろうかと期待と不安を抱きながら、その辺で捕まえたカラスに命令を書き込んだ。
―命令.小鳥遊 遊蓮の半径5M以内の高度10Mを飛べ。
―命令.小鳥遊 遊蓮が二回手を叩いたら小鳥遊 遊蓮の元に降りてこい。
カラスはバサリと羽を大きく広げて、空へと舞い上がる。
遊蓮はカラスが上空に飛んだのを見ると、パンパンッ!と手のひらを二回打ち付け、音を空まで聞こえるように鳴らす。
遊蓮の頭上10メートル辺りをぐるぐると回って飛んでいたカラスは、手を叩く音を聞いてか勢いよく遊蓮の前に下降してくる。
―索敵とかに使えるか...たとえば何かがあればカァと鳴くようにするとか。
とりあえず、これで生物に命令を書き込むことが可能と分かった。
次は猫だ、人により近い哺乳類で試す。できれば猿とかがいいが、この辺りにはそういない。
猫を撫でながら命令を書き込んでいく。
猫は自分が何をされているかも知らずに、グルグルと気持ちのよさそうな音を立てる。
多少の罪悪感はあるが、人類のためと思えば仕方のないことだった。
―命令.この家の庭を一周して小鳥遊 遊蓮もとに帰ってこい
猫はトコトコと右左右左と手足を交互に前へと出して歩いていく。
そして五分ほどたった時、歩き出した方向とは逆の方向から猫はやってきて、遊蓮に向かって「にゃー」と呑気にも鳴いた。
これで哺乳類にも命令が可能と分かった。
人は神が自分等に似せて作ったという神話もあるが、化学の世界では人は猿だ。
しかしながら、遊蓮は神という存在を目の当たりにしてしまったため、素直にそれを信じることが難しくなっていた。
「やっぱ、人じゃないとなぁ」
自分に人にやれと促すように呟く。
その隣では猫がカラスをウルウルとした目で見つめて、尻を振っていた。今にでも跳びかからんというようだ。
「おい、止めろ!」
強く言い放ちつつ、猫の頭を軽く抑えた。それが嫌だったのか、頭を後ろへ後ろへと動かす。
―そう言えば、名前でも付けようか。
―命令.名称を白萩に設定
「よろしく、白萩」
遊蓮は白萩の頭をなでながら、顎に手を移動させてマッサージするかのように撫でる。
するとまたグルグルと音を立てて、クルリと遊蓮の手に頬ずりをする。
次にカラスへと手を伸ばす。
逃げようと暴れるが、逃がさないように両手で包み込む。
―命令.名称を漆に設定
漆を包み込む手をどかして、再び白萩の頭の上に手をやる。
―命令.漆を襲うな
すると、白萩は興味を失ったかのようにその場に寝ようとしている。
―白萩は飼うとして、漆はカラスだし飼うわけにはいかないしな...
鳥獣保護管理法によって野鳥を捕まえたり、飼ったりすることはできない。
漆への命令はすべて解除し、野に帰すこととした。
猫を抱き上げ、家の中へと入って時間を見ると時計の針は八時を示していた。
「やべ!遅刻する!!」
遊蓮はカバンを持って急いで家を出た。
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