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使徒と遊戯のラグナロク  作者: 愚者
一章 混沌とする福山

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一幕 諸所の正義 その陸

 遊蓮が駐輪場に入る頃に、ちょうどチャイムの音が鳴り始める。

 その音は残酷にも、一人の駐輪場に響き渡る。


「ハァ...遅刻、か」


 そう呟くと、もう急ぐことはせずゆっくりと歩いて校内へと入っていき、上履きをとって職員室へと階段を上っていく。

 遅刻なんてものを初めてしたのだからどうすればいいかわからずに、職員室の前を行ったり来たりを繰り返していた。

 すると、扉を引きずる音がして直ぐに声がかけられた。


「おや?遅刻ですか?」


 耳に響いた時に気持ちのいい重低音の渋い声。

 職員室から出てきたのは遊蓮のあまり知らない先生だった。けれども校内の女子人気も高くよく目立つ先生だ。

 まぁ女子人気が高いから目立つわけではなく、異質だったからだ。

 肌は透き通るように白く、髪は絹糸のようにサラサラと光に反射して光る長髪の金髪、細身だがガタイがよく身長も高い。

 目鼻立ちが整っていて、正に眉目秀麗といえるだろう。とくに、狼のように鋭い瞳の奥には優しさを不思議と感じさし、少女漫画の先生と言われても自然と受け入れられる。

 その理由も、そもそも日本人ではなく、ロシアから来たらしい。

 その先生の全てが、少女が一度は夢に見る先生像そのモノであった。

 それ故に緊張もある。


「は、はい」

「では、この紙に必要事項を記入して担任の先生に提出してください」


 ポケットに手を突っ込むと、そこから一枚の紙が取り出される。

 渡された紙は遅刻届だった。

 それを渡すと先生は特別教室棟の方向へと歩いていく。その方向に行く先生はそう多くない。

 社会科か科学科、芸術くらいだろう。

 けれども芸術の先生なら見ればわかるだろうし、社会科か科学科だろう。

 遅刻届をよく見ると、ポケットに入れていたにしては折り目が不自然だった。

 できるだけ折らないようにして入れたみたいな折り目だ。


 ―変わった感じに入れていたんだな...

 ―それにしても遅刻届を常備しているなんてすごいな。

 ―さすが、モテる男は違うな。


 呑気にもそんなことを考えつつ、二年の教室のある四階へと昇る。

 時間的には朝のショートホームルームの途中だ。

 四階に昇ると、教室へ行く廊下を他クラスの生徒からの視線を受けながら歩く。

 ふと、窓から外を見ると、そこには路上駐車の車が止まっていた。その内の一台の中には人が乗っており、その人は校舎の端―七組の方を見ていた。

 だが、ふと遊連の方を向く。

 なんとなく目が合ったように感じたため、遊連はとっさに視線をそらした。


 ―なんで学校を見てるんだ?...不審者か?それとも、清十郎をつけてるやつか...


 もう一度見ると、視線は七組の方に向けている。だが、こちらの方も見られているように感じた。

 それがとても不気味で、遊蓮は少し足取りを速めて七組へと向かった。

 教室に入ると、皆が一斉に遊蓮を見る。興味、疑問、安心、無関心、警戒、色々な色の目線だった。

 担任―久松ひさまつ明子あきこは、無関心だった。彼女の中では、ただの遅刻だった。


「遅刻届はある?」

「まだ書けてません」

「なら、書いたら持ってきて」


 淡々と感情のない業務的な会話が行われ、遊連は必要なことだけ言って自分の席に座る。

 明子の報告を聞きつつ、遅刻届に必要最低限のことを記入して、ショートホームルームが終わった時に遅刻届を教卓へ持っていくと、明子は少し小言をネチネチと言いながら、教室を後にした。

 小言を言う明子に背を向けて、遊蓮は清十郎の所へと向かった。


「やぁ。おはよ、清十郎」

「おはよ、遊蓮が遅れるなんて珍しいな」

「...ちょっとね」


 遊蓮は言葉に詰まり、それを見た清十郎はハァとため息をついて優しげなで心配そうな表情をする。


「まぁ、ほどほどに気をつけろよ」


 その心配の言葉がとても心に深く突き刺さる。


「あぁ、僕は危ないことする気はないよ」

「ならいいけどな」


 清十郎は廊下の方を見る。廊下というよりかはその向こう側の外と言った方がいいだろう。

 そこにいる者を面白そうに、けれども厄介そうに見つめていた。


「あの人、昨日つけてた人?」


 清十郎は少し驚いた表情をして、嬉しそうに口元を歪めて口を開く。


「分かる?」

「そりゃ、あんな学校見てるやつ怪しいじゃん」


 清十郎はとても気分がよさそうに笑うと、廊下へと軽やかな足取りで出て行き、窓から身を乗り出す勢いで寄っかかる。

 そして、ポケットからスマホを出して右耳の辺りに持っていく。

 通知が切られているためか、バイブ音だけが静かに響いている。

 そしてそのバイブ音が鳴りやんだと思うと、清十郎が愉快そうに声をあげる。


「やぁやぁ、五十嵐さん。少しばかし尾行がお粗末様じゃあないっすか?」

 

 軽々しい口ぶりで、相手を煽るように語り掛ける。

 清十郎は自分をつけていた五十嵐という人に電話をかけていた。


『そりゃね、君ならどうせすぐにでも知るだろう?』

「まぁ、そうなんすっけどね。けど、監視するならもっと怪しまれないようにやってくださいよ。俺のダチも不審者だと思ってたんで」


 やんわりと止めろ、というかバレないようにしろと促していた。

 

『ハハ、そりゃ悪いことしたね。じゃあ、もう普通に聞くよ』

「えぇ、売れる情報なら売りますよ」


 学校の中だとかお構いなしに、警察に情報料を請求する。

 商魂たくましいなぁと、尊敬の視線で清十郎を見る。

 その視線に気づいたのか、清十郎は恥ずかしそうに顔を反らす。


『君さぁ、もしくは君のお友達がさぁ、何したんだ?あの人に目ぇ付けられるなんてさぁ?』

「…」


 清十郎は険しい表情で黙りこんで、左手の親指の爪を噛んだ。


『どうして黙っているんだい?何か思う節でも?』

「いや、ないっすね。ただ、『ない』という情報の価値がどれほどかと。まぁ、お得意様っすのでPeyPeyで五千円送ってくれたらいいっすよ」


 「ない」という情報だけでも金をとるというのがカモフラージュであることは分かっている。実際、この情報は五千円以上の価値があるだろう。

 彼自身、情報に対する価値は情報によって瞬時に価値をつける。

 だから、黙り込むということはない。あって「ちょっと待ってくださいね」と言って、計算するだろう。

 彼は、客との交渉は楽しくにこやかにするものだ。

 

『わかった、五千円送っとくよ』

「まいどあり!」

『んじゃ、俺はとりあえず報告しに帰るから、続行するか否かはあの人が決めるけどいいか?』

「はい、それでいいっすよ」


 意外にも、あっさりと告げる。まるで宗一郎がどう答えるかを知っているようだった。

 電話を切ると、遊蓮に視線を向ける。


「とりあえずはいなくなるらしいよ」

「そっか」


 安心も油断もまだできない。だって、目的が遊蓮の監視ならまた戻ってくるだろうから。

読んでいただきありがとうございます。

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