一幕 諸所の正義 その肆
―福山東警察署内
宗一郎は軽やかな足取りで、署内の注目を一斉に集めながら歩いていた。
カツン、カツン、とローファーが床を打ち付ける音が、一定のリズムを刻んで廊下を響かせている。
廊下にいる警察が彼を避けるように壁際に寄るため、必然的に彼が通るための道が自然と形成されていく。
彼が通るのを心底嫌そうに軽蔑を込めて睨む者もいる。
けれども彼は、そんなことは気にも留めずに気味の悪い笑みを張り付けたままだというのだから、尚のこと質が悪い
そして、彼は警察署の端にある部屋へと入る。その部屋は他の部屋に比べて狭く、物もあるので入るのは三人程度が限度だろう。
その部屋の名前は、福山特殊捜査室。要するに警察の問題児を集めておくための捜査室だ。
「やぁやぁ、私が帰ってきたよ」
男は楽し気に声を弾ませながら、室内の者達へと言葉を浴びせる。
「何か良いことがあったようで」
室内のソファーに沈むように寝てゲームをしているジト目の男が言う。
「あぁ、手がかりを見つけたんだ」
「へぇ」
興味なさげなジト目の男だが、律儀にも合槌だけはうつ。
しかし男はジト目の男の素っ気ない対応も無視して、自分の話を自分勝手なまでに続けた。
「そこでさぁ、五十嵐君には彼を尾行してほしいんだ。ついでに彼の友達っぽい子もね」
そう言いながら胸ポケットの中にある写真を一枚出して見せた。
ジト目の男―五十嵐も多少興味を持ったのか諦めたのか仕事だからかは分からないが、少なくとも自分の意思で写真に写る青年を見た。
その青年は「彼」ではなく、黒髪の地味目な青年だった。
「なんというか...普通な子ですね。こんな子が彼と友達とはにわかに信じがたいですが」
「あぁ、でも会った感じちゃんと友達してるっぽいよ」
彼のパシリなどではなく、れっきとした友達。
五十嵐は納得がいかないような表情で、その写真を自分の胸ポケットへと入れた。
「仕事ですしね、それじゃあ行ってきます」
五十嵐はそこらに投げていた上着を肩にかけて、部屋を後にする。
宗一郎は先ほどまで五十嵐が座っていたソファーに座って足を組み、肘を太ももにおき鼻の前で手を組んで思考を巡らせる。
―彼と一緒に居た青年は多分、《プレイヤ―》だろう。
―あの焦り様、私の目はごまかせない
宗一郎は清十郎のように多くの目や耳を持っているわけではないが、自分の目や耳で見える範囲は清十郎以上の情報量を読む。
また、その情報を基に真実を組んでいく推理力も高く、伊達に正義の警察を名乗っていない。
その目と頭脳をもってしても、完璧な結論を出すことはできない。彼の中では、三つほどの結論が出ていた。
一つ、青年が《プレイヤー》であること。
二つ、青年が《プレイヤー》の協力者であること。
三つ、何かを知っている第三者であること。
けれども宗一郎の中では、三つ目の結論はほぼないと思っていた。根拠はなく、ただの直感だ。
青年を《プレイヤー》だと思ったのだって、ただの勘だ。あった時、何か自分と同じようなものを感じたのだ。
それを確かめるための尾行であるのだ。
―さて、《プレイヤー》だと分かったらどうしようか。
―槍に近づけさせないために殺すか、槍に近づくために利用するか。
―けれども、殺すのは正義としてどうかと思うが...まぁ、大いなる正義の礎だ!!
―だが、権能が全くもって分からない。
―私の【言霊】に掛かればどうってことないだろうが...サンプルは私の権能しかない。
―もし、私の権能よりも強ければ?相性が悪ければ?権能の反射とかいう権能だって考えうる。
―権能がバレるというのは、本当に避けるべきだ。
―そして、権能を持つ同士のアドバンテージは地位でも権能でもない、情報だ。
宗一郎がふと思考をやめると、スマホがブーブーと振動していた。画面に映る名前は「五十嵐 風次郎」と表示されていた。
応答ボタンを押して、耳に近づける。
「どうした?」
もしかしたら尾行しているのがバレたのではないのだろうかと、掠れるような声を絞り出して聞く。
すると向こうから聞こえるのは呑気な声だった。
「彼等って今どこいるかわかります?」
そもそもどこにいるのか分からない様だった。
そこで自分の失敗を思う。
―あぁ、確かに何処か言ってなかったなぁ。
「すまん、言い忘れてた。ところで、その辺で聞き込みしてないだろうな?」
「え?はい、してませんけど」
「ならいい」
もし聞き込みなんぞをしてしまえば、警察が彼を探していたという情報がすぐにでも彼の耳に届くだろう。
彼の情報網は侮ってはいけない。
「あぁ、それで彼らの居場所だったね。えっと...確か、ケ〇タに行くと言ってたと思うよ。いなかったら今日はいったん引き上げていいよ」
宗一郎は、彼らと離れた後に遠くから聞こえた彼らの会話を思い出しながら言った。
それを聞くとスマホの向こうから弾んだ声が聞こえる。
「おぉ!!今100円祭りしているケ〇タですね。やはり彼だ、お目が高いなぁ」
そう言うと、スマホの向こう側からエンジンをかける音が吹き始める。
それを合図に宗一郎は電話を切って、スマホを置いた。
―さぁ、とりあえずは五十嵐君の報告を待とうか
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