二幕 幸と仁義 その漆
「はい?」
あまりに唐突だったためか、遊蓮の口は疑問の音を無意識に立てていた。
この《遊戯》についてと言われても、自分が立てたモノだからさほど不可思議に思ったことなどない。
だが、巻き込まれたものはどうだろうか?
「君はこの馬鹿気たモノに何も思わないのか?何の目的で開かれたか?この力は何か?とかさ」
新鮮だった。他の人はそんなことを考えているのだと知って。
確かに目的はいいにしても、力に疑問を浮かばなかったのはいささかどうだろうか?
触れたモノに思考した命令を書き込むなど、普通じゃあできえない。それこそ人知を超えた技だ。
正直、直に神に合ってそういう感覚がマヒしていたのかもしれない。
「そうですねぇ、意外と意味なんてないのかもしれませんよ。ただのエンターテイメント、神の娯楽。そういうものなのかもしれませんよ」
「確かにそうかもしれないな、俺らが足掻きもがく姿を見て楽しむなんざ神らしい。宗教家が聞けば怒りそうだがな」
宗一郎はそう言って乾いた笑いをあげた。その笑いの対象は神の手で躍らせる自分ら人類か、それとも自分等を見て天で嗤っている神へか。
「まぁ、さておきだ。これからも何かあったら頼む」
「えぇ、こちらこそ」
宗一郎が差し出した手を遊蓮は熱く握った。それは契約や交友の証ともいえる。
「君の家まで送っていこう」
「あ、ありがとうございます」
正直刺されたところは痛いし、窓からは朱い火の光が差し込んでいた。もう暗くなり始めている。
気が付けばもうそれほどまでに時間がたっていた。ここに来たのは昼過ぎ位なはずだったのに、随分と時間が経ってしまったものだ。
だから遊蓮は車で送ってもらうことを有難く了承した。
少し前なら警戒もあっただろうが、何かやるならこの場面で結構だ。
ただ注意する点は、家がバレてはいけないことだ。どの辺りにあるかバレるだけでも避けるべきだが、それは仕方がない事とする。
部屋にいた者は一人が動くのをきっかけに立ち上がる。
宗一郎と風間、遊蓮は玄関の方へと向かい、恵莉奈もそれに付いて行って出て行く彼らを見送った。
「お邪魔しました」
「また怪我したらおいで」
「そう怪我はしたくはありませんがね」
「それはそうだね」
礼と共にクスリと笑い合う恵莉奈と遊蓮。
「山田、また後日詳しく話そう」
「うん、わかった」
「あと、人に喋るなよ。絶対に」
宗一郎は厳しく念には念を押す。その雰囲気に恵莉奈は柔らかな表情を少し固めて頷いた。
それを見ると宗一郎は恵莉奈に背を向けて外へと出て行く。遊蓮も恵莉奈にお辞儀してその後を追う。
部屋を出て、外の階段を下りた所はこのアパートの駐車場になっており、そこには見覚えのある黒いバンが停まっていた
運転席の窓が開いて、そこから風間が顔を出す。
「乗ってください。いつでも出れますんで」
「あぁ、分かった」
階段を降りるときにカンコン、カンコンと金属の階段特有の音を奏でる。
来た時と同じように宗一郎は助手席に、遊蓮は後部席に乗った。
車内にはシックなジャズが奏でられていた。その洗練されて落ち着くようなメロディーに遊蓮は大人の雰囲気を感じていた。
「すいません、何から何まで」
「いや、礼には及ばない。これも俺の正義に従ったまでだ」
正直、正義というモノを被っている宗一郎の動きについては読みにくい。何をするかわかったもんじゃあない。
「じゃあ、行きますよ。遊蓮くん、家までのナビお願いね」
運転席に座る風間がルームミラーから後部席に座る遊蓮を見ながら、遊蓮の家までの道のりについて尋ねてくる。
遊蓮はそれにコクリと小さく頷くと、道を言い始めた。
「えっと図書館のある中央公園までお願いします」
「そこでいいの?」
「はい、そのあたりに住んでいるので」
「わかった」
その指示通りに車は二号線の方へと走っていく。道は渋滞しており、信号が変わるごとに四、五台ほど進むものだからあまり前へと進めていない。
普段であればこの道はそこまで混んでいないイメージだったが、その時間は遊蓮が下校する時間であり社会人たちが家へと帰宅する時間よりも少し早いのだ。
しかしながら今の時間は普段の下校時とは多少ながら時間が過ぎている。正確に言うなれば、日が落ち始める五時過ぎ。ちょうど仕事が終わり帰宅する者、部活終わりの学生を迎えに行く者たちがごった返す時間だ。
「なぁ、遊蓮くん。今後神が干渉してくるとは思うかい?」
突然と宗一郎は遊蓮へと語りかけた。
話を振られた遊蓮はというと、ビクリと体を跳ねさせていたのだが質問を聞くとじっくりと考える姿勢をとった。
―思いもよらなかった。
―そうだ、奴らは暇人だ。いや暇神だ。
―ならばこの《遊戯》に爆弾を投下してもおかしくない。
―例えば、鵺のようなキメラ、僕らのような権能持ち
―正直、あると思う
「そこまで考えると思わなかった」
「いえ、可能性が高いと思いまして。僕に権能に与えた神は特にそのようなことをやりそうな雰囲気だったもので」
「そうか?私に権能を与えた神は、結構厳正な感じだったがな」
「権能を与えてる神は人によって違うんでしょうかね」
遊蓮はここであえて知らないふりをしていた。なんとなくだ。
なんとなく、権能を与える神が人によって違うのは言わないほうがいいと思ったからだ。そう決めつけるのはいささかおかしい。
そうこう思考しながら話しているうちに、車は進んでいき二号線へと出た。
それからは思ったよりも早く進み、十分ほどで中央公園へとついた。
「このへんでいいですよ」
「そう?」
「えぇ、ありがとうございました」
遊蓮は礼を言うとすぐさま車を降りた。車に乗っている二人に手を振りながら、車が行くのを待った。
車が行ったのを見ると、遊蓮は自分の家の方向へと歩いた。




