二幕 幸と仁義 その陸
運ばれたのは少し古めかしいアパートの中だった。お世辞にも奇麗とは言えない、ボロくて小さなアパートだ。
そのアパートの一室には多種多様な四人が集まっていた。服装や性別、年齢といったモノが全然違う四人。その中に関係があるとしたら、全員が何らかの形で《遊戯》に巻き込まれた人々だ。そして遊蓮以外の者は宗一郎の部下だ。
その内の一人の女性が遊蓮のけがの手当てをしてくれている。
その女性の名は山田 恵莉奈。警察にしては化粧が濃く、制服が改造されていてもはや原形をとどめていない。
スカートはヒラヒラのミニスカで、上着の裾は腹よりも少し上までしかなく、シャツに包まれた豊かな胸を強調している。
名前は山田 恵莉奈。当人は山田という名前が可愛くないからという理由で気に入っていないようだ。そのため、遊蓮にもエリちゃんと呼ぶよう初めにあった時に言われた。
「ありがとうございます、エリさん」
「もー、えりちゃんって呼んでよー」
「いえ、年上の方ですので」
この通り、エリちゃんと呼ぶのには抵抗があったため、さん付けで呼ぶことにした。恵莉奈は釈然としないように頬を膨らませていたが、あまり強くは反発しなかった。
「いやぁ、びっくりしたよー、宗くんに呼ばれてきたら怪我した高校生がいるんだもん」
「ちょっと他にバレたらいけない事件の関係者だからな」
「へぇー」
恵莉奈は好奇心やら訝しむような視線を遊蓮に向ける。その瞳には冷めているけれども熱がこもった。
「じゃあ話してくれ、何があった?」
宗一郎の声は冷たく体を震わす低い声だった。いつも張り付けている薄気味悪い笑みを剥いでいる。
窓から差し込む光が彼らの顔を照らしているのも相まって、取り調べのような雰囲気で緊張感もあった。
―さぁ、何から話そうか。
―というか何を話さないべきか。
―少なくとも、彼女を匿うのは言うべきでないだろう。
―これをヤったのが彼女というのは...あやふやにするとして...
―彼女の能力についてもだ。
「学校の女の子に誘われてホイホイ付いて行ったら刺されました」
「ん?」
「屋上に行ったらだまし討ちされました」
「何があったらそんな状況になるの⁉」
話を聞いていた恵莉奈は声を少し荒げて驚く。
「山田、俺らがいる世界はそういう世界だ」
「そうそう、俺らはそれに巻き込まれるんだよ」
宗一郎と風間は恵莉奈にさも当然かの様に返す。自分がよく知るその二人の返しが更に困惑させる。
そんな恵莉奈を放置して、宗一郎は続きをという風に手で合図を送る。
それを見て意図を理解したのか、遊蓮も話を続けた。
「彼女は多分、《プレイヤー》だと思います。確証はありませんが」
「どんな権能か、みたいなことも分からないか?」
「えぇ、どうやって刺されたか分からないってのが唯一にヒントって感じですかね」
嘘と真実を織り交ぜながら話す。ほとんどが本当であるが、彼女とのかかわりについては極力隠している。
実際、そこのところに違和感を覚えない警察たちではない。
「なぁ、その女子生徒って誰かわかるのか?」
「いや、分かりませんね。手紙が机に入れられていていて、それにほいほい付いて行った感じなんで」
「んじゃあ、その手紙を調べるか」
―どうする?
―どうやって辻褄を合わす?
「手紙は証拠隠滅のために取られました」
苦し紛れの言いわけだ。やはりそんな言い訳では彼等にはあまり通じず、彼らは怪訝な顔をする。
「手詰まりってわけか。まぁ、要注意人物が不動高校にいるとわかっただけでもいいと思うべきか」
宗一郎の口調は重く、自分に言い聞かせるようだった。それがなぜ言い聞かせているのかを、ピリピリと締め付けるような空気が遊蓮に悟らせる。
遊蓮は少し申し訳なさそうに視線をそらし、目を反らす。
「すまない、君を攻めるつもりはないんだ」
遊蓮の反応から自分の行いに気が付いた宗一郎は、雰囲気を少し和らげていつもとさほど変わらない様子で謝罪を述べる。
そして遊蓮の方を向いたまま、話を始めた。
「だが...その生徒について探ってもらえないか?無理はしなくていい、できる範囲で」
―流石にこれは断れないな。
―断ったらこの協力関係が崩れてしまう。
―それは困る。
―この関係は、まだ必要だ。
「そうですねぇ、自分の学校生活にもかかわるものですしね」
この言葉には嘘偽りはない。自分の学園生活だけでも安全な場所にしたいというのはある。
望月 紫苑にの対応について遊蓮は個人的に解決させようとしている。
始末するなり協力関係を結ぶなり、この宗一郎との話し合いが終わったのちに決まることだ。
ただ、望月 紫苑の権能や精神状態については未だ不確定要素が大きいため、警戒は必要だと考えている。
まぁ、どちらにせよ個人的なカードにしたく思っている。そのためにも宗一郎らに感くぐられてはだめだ。
―どうにかして注意をそらさないとな。
―この福山にこの人らが警戒すべき対象があればな。
―いや、良いのがあるじゃないか!!
「そう言えばですが、この福山を縄張りにしている暴力団...たしか月禅会がこの《遊戯》に参加する可能性ってあります?」
「何故それが気になる?」
―よし食いついてきた!!
冷ややかな宗一郎の声とは裏腹に、遊蓮の心の声は歓喜をあげていた。
「いえ、もし参加するようなことがあれば一番怖いなぁと。裏の人間だから何かしらブレーキやネジが壊れてそうで...その上、組織力がある。これ以上に怖いモノなんてあるかって程ですよ」
「確かにねぇ...奴らが入ってきたら面倒だな。情報も人も多いいから無いこともない。警戒するに越したことはないな」
「えぇ」
遊蓮は宗一郎たちの意識を多少でも移すことに成功した。割合は半々と行った所だろう。
だから、遊蓮はボロを出さないように細心の注意を払う。
「なぁ」
急に声をかけられ、遊蓮はビクンッ!!を体を強張らす。
「は、はい!どうしました?」
「そんな驚かんでも...君はさ、この《遊戯》についてどう思う?」
突拍子もない一言だった。
だが、遊蓮以外の人間からしたら当然なる疑問。なんせ、急に神から人知を超えた能力をただ与えられて、運命の槍のある《遊戯》について教えられたのだから。




