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使徒と遊戯のラグナロク  作者: 愚者
一章 混沌とする福山

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二幕 幸と仁義 その壱

 チャイムが鳴り、廊下にいた人たちはぞろぞろと教室に入る。


「起立、礼」

「「「「おねがいしまーす」」」」


 やる気の感じられないけったいな挨拶をかまして座る。

 古典の先生―神辺かんなべ 沙織さおりがチョーク黒板に音を奏でながら文字を書いていく。チョークが黒板を打ち付けるたびに白い粉がぽろぽろと雪のように零れ落ちる。

 沙織は、眼鏡の下には大きなクマを作っており、瞼も重々しそうに開いたり閉じたりしていた。

 白いシャツに黒いスカートという、言われてすぐに思いつくような先生像だった。

 けれども、目の下のクマが教師の大変さを物語っていた。まぁ、この人の場合は夜中まで恋愛小説を読み漁っていいるからだが...そんなことを知らない生徒は、彼女を見て教師を尊敬する。

 かくいう遊蓮もそうかと言われれば、多少の尊敬はあるが、それよりも他の先生には彼女疲れが見られないのが気になっていた。。

 清十郎に至っては何処からか彼女の趣味の情報を入手し、目の下のクマの理由についても把握していたためかたいしてどうも思わなかった。

 黒板を叩く音が止まったと思うと、 デカデカと右側に書かれていた。

 『平家物語』

 それは、本日扱うタイトルだ。

 

「えぇ、前回すると言っていたぬえのお話です。えぇ、一応聞きますが『鵺』聞いたことない人います?」


 それに対して、ちらほらと手をあげる生徒がいた。

 まぁ、有名な妖怪だが、妖怪に興味がない者は知らないだろう。


「えぇ、なら鵺についてから話しましょうか」


 そう言って黒板に絵を描いていく。

 可愛いサルの顔にふっくらとした体、手足は虎模様の猫の様な手、しっぽは蛇。

 まるでキメラ。元来あり得る生物ではない。ありえてはいけない生物。

 故に、妖怪や怪異と言われる。

 

「えぇ、この描いた絵の通り頭は猿、胴は狸、手足は虎、尻尾は蛇の怪物です」


 ただ淡々と語り、それからは普通に授業が行われた。

 本時の古典の授業は、鵺を退治する話だった。

 これを聞くと、昔から神が暇つぶしのための《遊戯ゲーム》をしてたのでは?と思ってしまう。

 一時間目の古典の授業が終わって遊蓮が廊下に出ると、車はもうなかった。


「もう帰ったんだろうな。または、ちゃんと隠れて監視してるか」


 後ろから遊蓮の後を追って、清十郎がやってくる。


「なぁ、遊蓮。お前、最近ちょっと変わったな」


 ―バレた!?い、いや...そんなこと


 遊蓮は少し俯いて、目を右往左往させる。頬を冷や汗が伝うのを感じる。

 

「あぁ、すまん!なんかいい方に変わった気がするよ」


 遊蓮が変わるような出来事が起こったというのならば、神との《遊戯ゲーム》だろう。


 ―確かに、最近楽しいかもな。


 実際、この命と世界と願いを懸けた《プレイヤー》たちとの、《神》との《遊戯ゲーム》を楽しんでいる。

 

「まぁ、それなりに楽しんでるよ」

「そっか、いいもん見つけたんだな」


 清十郎は深くは聞かず、ただほほ笑んで遊蓮の今の状況を祝福した。だがその後、真剣な表情をする。


「もし、俺の情報が欲しかったら言ってくれ。友達割で大分安くしとくよ」

「あぁ、ありがとう」


 ―多分、清十郎は僕が危ないことをしているって気づいてるんだろうな。


 気づいていながら表に押し返そうともせず、ただ何もしないでいてくれる。

 それだけでなく、裏側に入るなら情報が必要になることを見越して格安で情報を提供すると。

 ここまでしてくれる友人はそういない。清十郎も今の遊蓮の状況から何かを考えているのかもしれないが。


「あと、風間さんと月禅会には目を付けられないようにしろ」


 その声は低く感情がこもっていた。

 風間は正義に狂う刑事で、遊蓮も一度であっている。その時に確かに感じていた、彼の狂気を。

 そして月禅会は、いわゆる暴力団というものだ。

 福山の街には目立つモノで二つもの暴力団があるのだが、月禅会はその一つで福山を牛耳っている暴力団だ。

 だが、大々的にはそんなことしかわからない。


「なんで暴力団じゃなくて、月禅会限定なんだ?」

「ん~?答えてもいいけど...まぁいっか」


 少し悩んだが、ケロリとした態度で答える。


「頭首とその腹心がやばい。まぁ、突出して注意すべきはその二人だな。まず、頭首の神無月 月禅はカリスマ性、残忍性、知的性、行動力、仁義が備わっている。その上、未来予知とも思える程の予測、達人レベルの合気道、それ以外にもいろいろな能力を兼ね備えてる。本当に恐ろしいよ、あの人は。まさに最強というべきだろうな」


 ―未来予知!?権能か?...いや、《遊戯ゲーム》が始まる前からだろう。


「それっていつの情報?」

「ん?まぁ、一年以上は前かな。だから、技能を増やしてる可能性もあるなぁ」


 先ほど言ったことに加え新たな技能が増えたら、それこそ権能持ち以上に人間離れした存在だろう。

 権能を超えた力を持つ人間...それは《プレイヤー》以上の脅威になりうることを示す。

 もし、その人が《遊戯ゲーム》について知ってしまったら...もし、そういう人が多かったら?

 

「腹心の神宮司 竜司は、遊蓮の欲しい最新の情報だ。神宮司さんは、喧嘩っ早くて殺しの刀を使う」

「殺しの刀?」

「あぁ、人を殺すために磨かれた刀の技だ」


 清十郎は顔を青くして冷や汗をかきながら言う。


「大丈夫?」

「あぁ、少し嫌なもん思い出しただけだ。好奇心に忠実ってのも言いようだねぇ」


 遊蓮は知っていた。彼が昔、ヤクザの抗争を見学しに行っていたのを。


 ―神宮司さんって人が人を殺すところを思い出したのかな。


 清十郎の顔色は、深呼吸をすると少しずつ改善されていった。


「続けるぞ」

「無理しなくていいよ」

「いや、大丈夫だ」


 心なしかそう言う表情は嬉しそうだった。


「これが最近の情報で、あの人の体は刃物を通さない鋼鉄のように固いらしいんだ」

「は?」


 遊蓮は己の耳を疑った。


 ―は?刃物を通さない?そんなの普通の人なはず...


 遊蓮の思考はチャイムの音によってかき消される。


「チャイムなったしそろそろ座ろうぜ」

「あぁ、うん」


 二人は教室の中へと入っていく。

読んでいただきありがとうございます。

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