一幕 諸所の正義 その拾
放課後になり、遊蓮はすぐさま展望台へと向かった。
展望台の駐車場には黒い車が一台しか止まっていなかった。いつもであればトラック運転手が休憩するためにいるはずだ。
しかもその車をよく見ると、かすり傷やぶつかってへこんだ跡が多く見つけられた。
不思議に思いつつも展望台へと昇る長い階段を上がる。前にも来たことはあったが、高さの全然違う会談は昇ると足が疲れる階段だ。
昇って一休みしようと思ったけれども、できるだけ早く行きたいという思いもあるから休まずに螺旋状のスロープを歩いてあがった。
一歩踏み出すごとに冷や汗をかいて、恐怖と緊張が絡まり合って心臓の鼓動が高まっていくのを感じる。
この一歩を踏めば、死ぬんじゃないか?この一歩を踏めば、想像を絶する苦しみを与えられるのだろうか?
遊蓮はそんな恐怖を思いながら一歩を踏みしめる。
上がりきると、格子に体重をかけて宗一郎が待っていた。
「やぁ、久しぶりだな。小鳥遊 遊蓮くん」
名前を言われたことによって遊蓮は体を固まらせる。そんな遊蓮に宗一郎はコンコンと音を鳴らしながらゆっくりと歩いて来る。
不気味な笑みを張り付けたまま。
遊蓮は作り笑いを浮かべて、震える声を抑えて返事を返す。
「お久しぶりです。風間さん」
「名前教えたっけ?あぁ、いや清十郎くんか」
「えぇ。それで、僕に何の用でしょうか?」
「あぁ、そうだった」
目を細くし目頭を下げ、口を三日月型へと歪めながら、笑っていた。
自信満々に確信した当たり前のことのように彼は三日月型に歪められた口を開いた。
「君だろう?」
一番初めから前置きや駆け引きもなく、核心を突いてく。
―急だなぁ。
遊蓮は一応覚悟していたものの急なことだったため、多少の驚きはあった。
しかしながら、急に殺し合いになるのが最悪の場合だったため、そこは免れていいと思っていいだろう。
けれどもいいとは言えない。宗一郎は遊蓮が《プレイヤー》だという証拠を何か持っているんだろう。
だから...
「えぇ、僕は《プレイヤー》です」
やはり宗一郎は知っていた当たり前のことだったようで、真実への驚きや見抜けたことに対する喜びも見せずに、ただ不気味な笑みを浮かべるだけ。
「権能について聞く気はない。聞いたとて真実は聞けないだろうしね。だが、一つだけ提案がある」
提案―その言葉がこの状況でどれほどの恐怖があろうか。
だが、恐怖と共に多大な希望もある。
だから、答えを出すのは提案を聞いてからでいいだろう。
「その提案とは何でしょう?」
「私達で同盟を組みましょう」
他の《プレイヤー》は仲間や部下を使うかもしれないが、遊蓮は一人だ。
清十郎を引き込めばいいと思うだろうが、彼に情報を教えた場合はこの《遊戯》そのものが決壊する可能性すらありうる。
なんせ、彼だ。その情報を売るもよし、自ら使って槍をとるもよし。
それに正直、遊蓮は清十郎をあまり巻き込みたくはなかった。
だからこの提案は、喉から手が出るほどうれしくはある。
「同盟。聞こえはいいですが、条件やないようになりますね」
「まぁ、そりゃ信用できないよね。そこでさ、君は同盟に何を求める?」
一歩。宗一郎は足を踏み出し、遊蓮との距離を縮める。
その一歩を踏みこんで距離を縮めることで、遊蓮に威圧を与えようとしているんだろう。
だが何よりその行動によって感じさせられる威圧は、絶対的な自信そのものだ。
これだけの距離で自分が負けるとは思っていない、驕りと自信。それが、遊蓮に恐怖を与える。
まるで、お前なんてすぐにでも殺れるんだぞって喉にナイフが充てられているような感覚だ。
遊蓮は一歩、後ろへと下がる。すると、宗一郎も一歩前へと出る。
―下がっても舐められるだけか。
―なら、進む!
覚悟を決めた遊蓮は、一歩前へと踏み出した。
「権能の秘匿、情報の共有、協力の三つです」
宗一郎は唇の端をなぞるようにして「ふむ」と音を上げる。
交渉が始まり、宗一郎も遊蓮も半歩後ろへと下がった。
「初めの二つは良いが、協力というのが不明確だ」
「立場を利用した協力です。僕は学生、貴方は刑事。それぞれにしかできない役割というモノがあるでしょう?」
「学生というのは限られたものだが...一理あるな」
「ところで、風間さんは何を求めるので?」
聞かれるだろうと薄々気が付いていた宗一郎は、特に驚くこともせずに頭の隅で先ほどの話について思考しながら答えた。
「悪事を行っていない高校生を殺すのは俺の正義が許さなかった。しかしながら、放置するには危険があった。まぁあと、利用するためだな」
どこまでが本当の事かは分からない。利用というのがどのようなことかにもよるが、しかしながら不思議な人であった。
「よし、分かった。とりあえずは先ほどの三つの内容で同盟を結ぼう」
そう言うと、宗一郎は右手を遊蓮へと突き出した。
「はい、よろしくお願いします」
遊蓮は突き出された右手を握った。
右手に伝わるぬくもりと強さを感じながら、宗一郎はニヤリと笑って言葉を放つ。
「それじゃあさっそく協力してもらおうか、神島橋下の変死体の犯人捜査について」
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