一幕 諸所の正義 その玖
学校に着くと職員室へと直行した。
職員室までの階段は静かで唯一聞こえるのは、教室から漏れ出る先生の声だけだ。
それが職員室にいく足を急かす。
職員室の戸を叩き、中へと入る。
「失礼します。二年七組二十三番小鳥遊 遊蓮です。遅刻届を取りに来ました」
いつになっても職員室に入るのは緊張する。特に今は遅れてきている、場違いだから尚の事。
職員室に残っている数人の先生たちから、冷ややかな視線を浴びせられる。
誰か先生が来ないだろうかと、じっと扉の前に立って待っていた。
革靴の音を鳴らしながら一人の先生がやってきた。金髪の高身長の先生。その姿には見覚えがあった。
「君また遅刻したんですか?」
呆れ混じれに先生はそう言った。
「ちょっと最近寝不足で」
「そうか。まぁまたこれ書いてくれ」
そう言ってポケットから一枚の遅刻届を取り出して遊蓮へと渡した。
以前もそうだったが遅刻届を常備しており、取り出すのはマジックでだ。
取り出された遅刻届は畳んでポケットに入れられているのではなく、折り目をつけずに入れているようだった。
「以前も思たんですが、これってマジックですよね?」
「あぁそうだよ」
以前から気になっていたことを聞くと、先生はさも得意げに声を張って答える。
「どういう仕組み何です?」
「そりゃ企業秘密ですよ」
長い人差し指を立てて口の前へと持ってくる。その姿は、男でも見惚れてしまうほど美しい。
「残念。では、ありがとうございました。失礼します」
聞けないならもういいやと遊蓮は職員室を後にした。
クラスに着くと保険の時間で、アル中の先生がお酒を飲む危険性について語っていた。
「失礼します」
そう言って遊蓮は自分の席へと座った。
一瞬だけチョークを書く手を止めたのだが、遊蓮の姿を確認すると再び黒板の上を走らせる。
遊蓮は自分よりも前の方に座っている清十郎の背中を見つめた。
―後であの先生について聞こう
情報だからお金を請求されるかもしれないが、金を払ってでも知っておかなければならない気がした。
授業が終わると清十郎はすぐさま遊蓮の所へとやってきた。
「最近遅れることが多いな。大丈夫か?」
「あぁ、ちょっと寝不足でね」
「そうか、気をつけろよ」
清十郎は本気で心配しているようだった。
―遅刻程度で大げさだなぁ
「あぁ、ところでさ、なんかさっきから見てたけどどうかしたか?」
「あぁ、そうだ。背の高い金髪の外人の先生知ってる?」
「あぁ、アレクサンドル先生かな」
聞くからに外人の名前だ。雰囲気的に西洋の名前だろう。金髪で色白というのは西洋によくある特徴だ。
「多分その先生だと思う」
「あの先生がどうしたんだ?」
その声と瞳はただ純粋なる疑問を映していた。
「あの人のマジックってどういう原理か知ってる?」
「いいや、わからんな。あの種については俺も気になってんだよなぁ。つい最近から始めたっぽいけど」
清十郎ですら知らない情報だなんて、どんなに厳重に閉ざされているのだろうか。
―どこまで知られたくないんだか。
そのかたくなな意思に遊蓮は一周周って尊敬の念すら抱き始めていた。
「あぁ、そうえば言わないといけないことがあったんだった」
「ん?何?」
「風間さんが学校終わったら展望台で待ってるってさ」
―......え?
遊蓮は焦り、冷や汗を滝のようにかいて顔を薄青く染まらせ、恐怖か不安かは分からないが、そういう表情へと顔を歪めていく。
刑事。それも先ほど接近した刑事の上司と来た。
そりゃ不安にもなる。
―ここで行かなければそれこそ本当に疑われるのではないだろうか。
「わ、分かった」
「まぁ、なんかあった時のためについていこうか?」
「いや、いいよ。僕を待ってるんだろう?だったら一人で行くよ」
―もし、権能について聞かれたらまずいしなぁ。
――――
―福山東警察署特殊調査室
「宗くーん、どこ行くのぉ?」
堅苦しい肩書の部屋の中で、その真逆のゆるい女性の高い声が響く。
その言葉を受けた宗一郎は、口をへの字に曲げて少し疲れたような呆れたような顔をして女性へと振り向く。
「言葉遣いはもういいからその呼び方はやめろ、山田」
「えーやだー。あと山田は可愛くないからエリちゃんってよんで!!」
山田 恵莉奈。特殊調査室の一員であり、可愛いモノが大好きな二十代女性。
五十嵐と同じく宗一郎の正義によって救われた人の一人である。
少し軽く、めんどくさいものを嫌うため、制服を着崩している。そのためもあり、上の連中からは宗一郎と同じくらい嫌われている。
「で、どこ行くのぉ?」
「清十郎くんの学校にある展望台」
端的とういうか素っ気なく言う。明らかにめんどくさそうであった。
けれども日常的なことだったのか特に気にした様子もなく、話を続ける。
「ついに清くん、なんかやったんだぁ?」
「いや、まぁ...後々話すと思うけど、事件の有力者に会いに行く」
「ふーん、そっか。行ってらっしゃい」
宗一郎の言葉の端々からなにかを察したのか、笑顔で宗一郎を送り出した。
その行く結末は未だ誰も知らぬまま、その真実を閉ざすように戸が閉まった。
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