一幕 諸所の正義 その捌
遊蓮が再び尾行されているのに気づいたのは三日ほどたったころだった。
さして権能を使っていなかったため、バレてはないだろうが...不安は大きく積もっている。
学校近くにある森の中から監視しているとは気づいているため、その場に行こうと思えばいつでも行ける。
けれども、小さいカメラや小型マイクを身に着けているかもしれない。
接近するのは多大なリスクがある。
だが、ここでどうにかしなければ監視は続くことだろう。
翌日、遊蓮は行動に移すことにした。
家を出る時間を普段よりも一時間遅め、森の近くにある公園に自転車を止めてリュックを背負ったまま森に入った。
季節は夏が終わろうという頃なため、少しだけ葉が落ちている。
葉で足を滑らせないことと音を立てないことに注意しながら、深い森の奥くへと進んでいく。
大小さまざまな虫が飛び交って、耳元をかすめると「ぶーん」と不快な音を鳴らす。
ほんのりと残る夏の暑さと湿度が、額に汗を流さす。
あと数メートル歩けば相手は近づいていることに気が付くだろう。
遊蓮は持ってきたリュックの中から手作り人形を三体取り出して、辺りにそっと置く。
その人形には顔なんてなく、あるのは四本の足と改造されたBB弾銃だけだ。
すると、置いた瞬間にその人形は走り始める。
「いけ、自立式四足歩行型BB軍」
小さい声でそう呟くと、カサカサッと音を立てて目的の場から少し離れた所へと走っていく。
目的は陽動だ。
目的の場へ行くとBB弾を放つように命令している。
無事に動いているのを見ると遊蓮も前へと進む。自分だとはバレない様に仮面をかぶりながら。
まぁチョイスがピエロなのは、なんとも言えないが。
少し近づいたところで、木の上から掴まれた。
「っんな⁉」
掴まれたことでバランスを崩して尻餅をつき、木の上にいた人は遊蓮の背後に飛び降りて右の前腕をつかむ。
振り払おうとするも、強い力で握られており振りほどくことができない。
ならばと掴まれてない左の手で相手に触れようとするけれども、踵で甲を踏まれる。
そのままの流れで、掴まれている前腕が捩じられていく。
「っぐ、あぁああああああ!!」
肩から肘にかけて生じる関節の痛みが、喉からこみあげる悲鳴を止めることができなかった。
「そんじゃ、仮面は取らせていただきますよ。ピエロさん?」
挑発的な口調で馬鹿にするように言いながら、仮面へと手を伸ばす。
―命令.避けろ
左手でふれている土にそう命令を一気に流し、土が手の辺りを避けてぽっかりと地面に穴をあける。
隙間ができた瞬間に、手をどけて相手のズボンの裾から中へと滑り込ませる。
―命令.行動を禁ずる
すると、ピクリとも動かなくなった。
―命令.右手をどけろ
遊蓮は、続けて命令をする。
相手は左足を先ほど開けた穴に突っ込んだまま、右手を離す。
その時、遊蓮は初めて背後にいる人物を見た。黒髪に細い目の男。青年というには落ち着いた雰囲気で壮年というには幼さが残っているように思える。
この男の名は、五十嵐。
五十嵐は、何が起こったのか意味が分からないという目で睨みつけてくる。
―命令.《遊戯》について知っている事を話せ
ぎこちなくかくついた動きで口が開かれていく。さながらロボットのようにも思える。
「かみの、ゆうぎ。けんのうをもつ、ぷれいやー」
命令によって喋らされているためか、とてもぎこちなく話す。感情のないようにも思える無機質な声だが、瞳には憎しみや憎悪、悔しさ、申し訳なさといった感情が混じり合わさっていた。
それは遊蓮に向けられたものなのか、それとも別の何かに向けられたものなのかは分からない。
「うんめいをかなえるやり、がどこか、ある」
五十嵐は《遊戯》の多くの事を知っている。ここまで知っているのは《プレイヤー》かその協力者だろう。
「かざまさんが、ぷれいやー」
ふと言われたその情報が、遊蓮の今までの仮説を裏付けるものだった。
それにプレイヤーの一人が分かるというのは、この《遊戯》では大きい意味を持つ。
そして能力を知れたならば、大きく優位に立てるだろう。
「かざまさんの、けんのうは、ふるーふゔぇあたー。せいぎのめがみ、ゆーすてぃてぃあのけんのう。のうりょくは、ことばどおり、のこうどうをとらせる」
五十嵐から聞いた情報を軽く整理した。
―僕の能力と似てるな。
遊蓮の権能【遊戯】は、触れたモノに命令を組み込める。喋る必要はなく、その代わりに触れる必要がある。
それに比べて宗一郎の権能【言霊〈フルーフヴェアター〉】は、放った言葉を聞いた者にその行動をとらせれる。それには、距離による制限はないが、耳栓をされていた場合や言葉が理解できなかった場合は、効かないのかもしれない。
だが、十分な情報も得た。
―命令.誰を監視していたのかを答えろ
この答えによって大分、今後の行動が変わる。
「たかなし ゆうれん」
―僕か...
ドキリと心臓が鼓動をあげるのを感じた。
―やっぱり、風間さんは僕の事を怪しんでるんだね。
今までつけられていた目的が自分だと気づき、これから狙われることが増えるのだろうと冷や汗を流す。
遊蓮はゆっくりと五十嵐の頭に手を乗せた。
そして狙われないための命令を一つ組み込んだ。
―命令.小鳥遊 遊蓮の行動には目を伏せろ
その後、五十嵐に書き込んでい行動を禁ずる命令を解いて、学校へと向かった。
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