本と好きと羨望と。
「ねぇ。」後ろから声がする。僕を、昼寝という桃源郷から呼び出そうとする声。
「ん…ん?」僕は眠い目をこすり後ろを振り向く。少し文句を言ってやろうかっていう、些細な反抗心と共に。
「寝ぼけてる?この昼休み、当番でしょ?」ぷるりとした、小さな口から快活な声が出ている。ああ、そうか。図書委員会の当番か。文句を言ってやろうという些細な反抗心は蜘蛛の子を散らすように消える。それから、親切にも、教えてくれた三村に感謝の思いが湧く。出なけりゃクラスのアイドル的存在に近い三村さんが、こんな冴えないチビに話しかけることはないか。何て自虐的に考えて、
「そうか、ごめん。忘れてた。」僕は申し訳なさそうに言う。
「先入ってるから!」そう言い残し図書室へ向かう彼女の背中を見ながら今、何時だっけと思う。三村が言っていたじゃないか、昼休みだと。寝ぼけているな、何て考えながら僕は立ち上がり、図書室へ向かう。
図書室に入ると寝ぼけて体が覚めた気がした。図書室は好きだ。人はまぁ、少ないし、本も沢山ある。何より落ち着くこの、紙の香りが好きだ。
「変わるよ。」貸し出しの当番をしていた三村さんにいい、席に座る。
今日はいつもより少ないな。こういう時に松野さんが来たらな、何て考える。
そういえば君はどんな本を読んでるのかな。結構図書室で見かけるけど、好きな本が一緒だったら良いのにな……。ささやかな妄想に入った所で、がらららと、ドアが開き、僕の思考は一瞬止まる。
「あっ」声を出す。「康生か。」少し残念そうな声で言う。「意外そうな顔するなよ。俺だって本ぐらい読むんだぜ?」やれやれとばかりに彼は言う。「あの、ラノベだろ?小学生向けの小説。」僕は少し意地悪する。「ラノベなめんなよ!?今高校生だって読むんだぞ?!映画化されてんだぞ!?」康生は顔を赤らめて、言う。ああ、この顔は自分の趣味を語るときの顔だ。「知ってるよ。冗談。」僕は言う。けど、僕はライトノベルは読まない。かといって人間失格や、こゝろ、とか、地獄変だとか言った、文学的作品も読まない。何度か読んだこともあるけど、中々に難解だと思う。僕には、少し早いのかもしれない。。僕が読むのは、大衆小説だ。松野さんがライトノベルを読んでいる可能性は高いけど、何だかライトノベルは、進まない。教室で本を読んでるときとか、康生が、「何読んでんだ?」とか言って、僕が読んでる途中の本を見て、ライトノベルじゃないことを知り、よく「ライトノベル読まねぇの?」って聞く。「うん」っていうと、「だからもてないんだよ。」とか言われる。モテる男は何を読もうとモテるのだ。と思うが、反抗するのも面倒で僕は大概、肯定するのだ。そう、僕はモテない。
「君の名は、観た?すっごく良いよね?」いきなりやって来た、明るくて高い声に驚く。
「おっ、三村も見た?めっちゃ良いよな!君の名は!」康生は嬉しそうに言う。心なしか顔がほんのりと染まっているような気が。
二人で会話が続いている。僕は、「君の名は」も知らないから、話がわからないから、仕方なく彼らを眺めることにした。康生に、「じゃあ読め」と言われるかもしれないけど、まぁいいだろう。ライトノベルが嫌いな訳じゃない、同じ本として僕が好きな、東野圭吾や、伊坂幸太郎の本と同じように尊敬している。
二人共楽しそうだ。康生なんか、ゲームの主人公がゾンビに銃弾ぶっ放すかのように、言葉を繰り出していく。それに1つ1つ丁寧にコメントを返す三村さん。
何となしに、聞き上手だな、とか、こういう所がモテるんだな、何て思う。…おかしいな。僕も聞き上手だと思うんだが。もはや聞き手に全てをかけているともいえるんだが。
それにしても、「なんか、良いよな。」僕は羨ましい。
僕も、松野さんと共通の''好き''の話をしたい、何て思う。
良いなぁ。
少しだけ、僕は二人に嫉妬して、
積まれた、薄汚れた本にむかう。




