ある日。
「君の世界に僕は要るのだろうか」誰に、という訳でもなく、言う。
…いや。僕は思う。きっと君にとって僕は風景の一部にすぎないだろう。
僕と過ごすこの一年も卒業してしまえば思い出の、ほんの、一部になって、やがて君の記憶から消えていく……。
僕は思う。「君は、僕の世界に必要です」
ああ、今日も1日が終わる。ぼんやりと和也は考える。
「今日も何にもなかったな…。」呟くように言って、ちらと右隣の列の端に座る君を見る。
君は、友達……確か上田さんといったかなと楽しそうに喋っている。その笑顔が眩しくて、罪悪感が湧いてきて、目を黒板に移す。
9月24日の文字が見える。よく考えたら三年生、というか中学校もあと半年で終わりだ。
あと半年で…。クラスの人と別れる、君とも…。
クラスが騒がしい。
がやがやとした音を
ベースに時々、高音がまじる。
何もしない自分に腹も立つし、五月蝿さにも腹がたつ。
体の力を抜いてみる。少し、リラックスしよう。大丈夫だ大丈夫。心の中で唱える、
まだ半年ある、時間はまだ、ある。
つい、思った言葉が口に出る。
「明日こそ…」
「明日こそ、何だ?」
急に、声が割り込んでくる。傲慢な感じだけど、どこか親しみを感じるような、声が。
「うわっ」
危ない。うっかり秘めた恋心を暴露するところだった。
「どうした?」低くて、はっきりとした声で聞く声がする。
「なっ何にも無いよ…。」ぼそぼそいう僕の声。
「独り言か〜?青春だねぇ。」冗談めかして、彼は言う。
全く失敬な。人には触れられたくない所だってあるのだ。
「それを言うなら、康生の方だろ?背も高いし、イケメンだし、運動神経もいい。モテるだろ?」
少しだけ、いじわるする。だけど、事実なのが微妙に悔しい。
「まぁ、それは置いといて…今、松野さんの方見てただろ?!まさか、まさか、す・き?」
康生の一言が僕の脳髄に突き刺さった。
全く油断ならない奴だ。
「ちっ違うよ…。きのせいでしょ。」
しまった。こんな声でこんな事言ったらそれこそ肯定じゃないか。この梅崎、一生の不覚。
「ふ〜ん。じゃ、上野さんとか?」そう来たか。
「違うよ。」しまった。即答してしまった。しかし、もう殆どばれたようだったし、いいか。
「松野さんか。」康生は、嬉しそうに言う。
「もう…いいよ。」諦めて言う。全くゴシップが好きな奴らだ。
「成る程、けど松野さん、頭良いけど地味だぞ?」ちょっと真面目な顔で康生は問う。
「頭良いってのが重要か。お前頭良いもんな。」すらすらというが、それは皮肉か?
違う。ぼくは心で反論する。
彼女は、確かに頭は良いけど、それだけじゃない。
まず優しい。
自分より先に他人を思いやるという、優しさだ。
それに笑顔が良い。太陽って訳じゃないけれど月のような、品のある笑顔。
でも、暖かな、春のような気分にさせる笑顔。
派手じゃない分、素朴な優しさがにじみ出ている。
食事が丁寧で、いつも挨拶は欠かさない。
彼女がために淑女という言葉があるのではないだろうか。
素朴でいて優しく、品が良い。もちろん笑顔が可愛い。松野真衣さんはそんな人だ。
じゃあ、自分は。
背が低い。顔も地味。暗いオーラ。友達少ない。etc……
まったく、自分に絶望する。ぱっとしない、とは僕のためにあるのではないだろうか。
と、いうわけで僕は恋をしている。
何てことはない。ただの片思いだ。
分をわきまえろ、と笑ってくれ。




